二話
「え、何これすごい便利だね。羨ましい………あ、お邪魔します」
「ん、どーぞ。適当に座ってて」
そう言うとリオはキッチンへ向かい、カチャカチャと手を動かし始めた。
音が止んだと同時に少年は、お皿やティーカップをトレーに乗せてユキの方へ戻って来る。自分ならばこの短距離を二往復するかお菓子はポッケにでも入れるんだろうな、と少年との育ちの違いを実感して、ユキは苦笑いを浮かべた。そんなことを考えてるとは知らないリオは「はい」とテーブルの上に、ティーカップやお菓子の入ったカゴを置いていく。ユキの勘違いでなければカゴはユキ寄りに置かれているような気がした。
(…これは食べていいってことかな?)
ちらっと相手を見上げると、リオは気にせず紅茶に口をつけていた。
「お腹空いてるんでしょ」
「…いいの?」
「アンタでも遠慮って言葉は知ってるんだね」
「なんか心外」
「そういうのは今までの行動を振り返ってから言ってもらっていい?」
心にグサリと何かが刺さったユキは「うっ」と言葉に詰まらせたあと、面目ないと言ったふうに静かになった。そんなしょんぼりしているユキに、リオははぁ…と溜め息を吐いたあと、お菓子の入ったカゴをすっと押した。
「アンタのお腹の音、うるさいんだけど。だから早く食べれば?」
相手の背中を押すように言ったリオに、ユキは恥ずかしさから少しだけ顔を赤くさせ、素直に従う。
「…い、いただきます」
見たこともないお菓子を見てぐーと鳴るお腹に従い、お皿に手を伸ばす。ぱくっと一口食べると、それは何味と表現しづらいものだったが美味しくて甘かった。手が止まらず黙々と食べているユキの横でリオは静かに紅茶を楽しむ。
少しの間沈黙が続いたあと、リオは静寂を破る。
「アンタさ、知り合って数時間しか経ってない人から出されたもの、よく食べれるね。普通警戒しない?……“毒盛られてないか”とかさ」
ユキはもぐもぐと咀嚼していたものをゴクリと飲み込むと手に持っていたお菓子を見つめる。そして何かに気付いたのか食べていたものをすすすっとお皿に戻すと顔を顰めてリオを見た。
「……毒、入れたの?」
「いや、入れてないけどさ。…と言うか食べてたのお皿に戻さないでよ、汚いじゃん。行儀悪いよ」
毒というワードに少し警戒したものの、返答に安心してお菓子にまた手を伸ばす。
「ほら、そうやってすぐ信じる。オレが嘘付いてるとか思わないわけ?———一つ忠告しとく。ここではそういう軽率な行動が命取りになる。だから、用心することだね。トラブルメーカーさん」
冷たい顔でそう言い放ったリオに、ユキはまたも口に含んでいたお菓子をゴクンと飲み込むと口を開いた。
「…リオくんって、優しいんだね。心配してくれてありがとう」
アドバイスと言いつつ、今日起きたトラブルの仕返しのように怖がらせることを言ったつもりだったリオは、まさかのユキの返答に顔をぽかんとさせた。
「……はぁッ!?オレの話、真面目に聞いてた!?と言うか別にアンタの事なんて心配してないから!勘違いしないでくれるっ!?」
「…なるほど。これが世に言うツンデレか」
「人の話聞けよ!!」
自分の仕返しは成功することなく、加えて嫌な勘違いをされたリオは「もういい!」と、また不機嫌な顔をして、ふいっと反対を向いてカップに口をつける。