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14.ご立派なお屋敷と、素敵な家族のお目見えのようです。

 それは、荘厳な屋敷だった。


 森の奥深くの洋館などホラージャンルの冒頭シーンもいいところだが、お約束のようなひどくさびれて怪しい廃墟というわけではなく、屋敷とその周囲の庭は歴史を感じる佇まいではあるもののしっかりとした手入れがされていて、照明にも十分に灯っていて生活感がある。

 これは多分、人を脅かす怪異とかではなく(比較的)普通の人が暮らしてる、はず……。


 恐怖とは別の近付き難さに気圧けおされつつも、なんとか玄関の前に立つ。ドアノッカーを控えめに何度か叩くと、ぎい、と音を立ててドアが開いた。


「どなた?」


 ――「鈴を転がすような」なんて形容がよく似合う、儚げなのに不思議とよく響く美しい声がして。


「あら、可愛いらしいお客様」

 ドアの向こうから顔をのぞかせたその人が幽霊に見えて心臓が跳ねた。もっとも、即座にそれは非常に失礼な印象だと考えを改めることになるのだが。


 その人は、無垢な美貌の貴婦人だった。雪のように白い肌と髪に、衣装もまた白く淡いシフォンドレスという統一された色彩の中、瞳の青さだけが際立っている。確かに浮世離れした風貌ではあったが、身体の向こうが透けていたり、言いようのない不安を催すような異質な気配があるわけでもない、ごくごく普通の人間に見えた。


「あ、あのぅ、こちらに学生の男の子が来てないでしょうか。私より年下っぽい……」

「ああ、ヒツギね。ご学友の方? 弟に何かご用?」


 なんと、ご家族。

 言われてみれば、そのご婦人の西洋貴族めいた白磁の肌と品のある面差しはなるほど血縁を感じなくもない。……なんだ、ということはあの子は単に帰宅しただけか。


「ああいえ、見かけた時にトラブルに巻き込まれたのかと思って気にかけてたんですけど、単に勘違いだったみたいで……あはは」

「あらあら」

 私の照れ笑いにつられてふわりと笑う彼女の美しさは、(陳腐な表現だが)絵画のようだ。

「誤解だったならなによりです。じゃあ私はこれで」

 まったく恥ずかしい早とちりだった。これ以上恥を上塗りする前にさっさと帰りたい。

「待って」

 が、その願いに反して館のご婦人は私を呼び止めた。


「せっかくの縁だわ。うちで少しお茶でもしていきません?」

「いやでも時間が……」

 外の光が届かないこの森の中では時間感覚が狂いそうだが、すでにどっぷりと日が暮れるような時間だ。のんびりしていては夜遅くの帰宅になりかねない。

「心配いらないわ、帰る時には供をつけましょう」

 その配慮は少々的外れではあったが、やんわりと取られた手を振りほどくのはなんだかはばかられ、私はそのまま屋敷の中へ招き入れられてしまった。


「ごめんなさいね、ヒツギに会わせてあげられたらいいのだけれど。あの子は今、他の方の接客で忙しくて」

 客とは、あの連れ立っていた老紳士のことだろうか。

「だから代わりに《《私たち》》がおもてなししたいわ」

「ひぇっ」

 振り返った貴婦人の背後、廊下の曲がり角からふっと現れた瓜二つの白い影に今度こそビビってしまった。

 私を案内してくれる青瞳の貴婦人と全く瓜二つの白い美貌。ただしその瞳だけは鮮やかな紅色という違いがあった。

 驚きで身をすくませている私に、その二人の美女はくすくすと笑う。

「私たち双子なの。私がサフィアで」

 と、青瞳の貴婦人が名乗り。

「シャロン。驚かせてごめんなさい、お客様」

 と、赤瞳の婦人が続いて名乗り、サフィアの首にゆるく腕を回す。

 一人でも浮世離れした美しさなのに、それがほとんど同じ姿で二人。ますます幻想的で作りモノめいた光景になってきた。


「さあ早く談話室へ行きましょう。ちょうどお茶を淹れようと思っていたところだったから――」

 シャロンさんは心底浮かれた様子で通路の先をぱたぱたと駆けていく。外見年齢より無邪気で幼女のようですらある。


 ――と。


 一瞬、シャロンさんのすぐ前の通路を黒く巨大なモノが塞いだ気がした。

 直後に重く水っぽい、嫌な音がして。


 何が起きたのか分からず、一瞬思考が停止していた。少しして、シャロンさんの行く道を塞いだのが(B級ホラーかアクションゲームとかで見るような)振り子式のギロチンだったことが分かり。

 その前で立ち尽くすシャロンさんの足元には。


 彼女の胴体から切り離れてしまった首が、転がっていた。


「~~~っっっ!!!」

 理性がかろうじて絶叫を抑えたのか、そもそも恐怖が限界を突破して声が出なかったのか分からない。

「もう、今日は緊急用の罠は切っておきなさいって言ったでしょう。お客様になにかあったらどうするの」

「ごめんなさい」

 こんな凄惨な光景でありながら、当の犠牲者(?)は、さも日常でよくある失敗かのように姉の叱咤に返事している。生首のままで。

 いや、確かに部活の時にレキが「この世界だと人は死なない」とは言ってましたけど。こんなアンデッドな見た目で「生きてる」なんてケースは有りなのか。


仮説A:

 この世界じゃ身体の切断なんて致死ダメージ本来発生しないよ

  →じゃあそんな負傷した上に生きてるあの人たちは人智を越えたヤバい存在


仮説B:

 この世界じゃ身体が切断されても生きていけるよ

 →ここのトラップで自分のあんな姿になりかねない


結論:

 どっちにしろアウト!!!!



 命と五体の危機を察した私は迷わず玄関へと駆け出していた。

「あらあら、急にどうしたのお客様」


 緊張感の無い声でそう言いながら、サフィアさんがふわりと空中浮遊して私の逃走経路に回り込んでくる、もうそれは完全に幽霊の動きなんですよ!!


「お待ちになってお客様」

 振り返れば自分の首を持ってこちらに駆け寄って来るシャロンさん。


 逃げ場……逃げ場は!!

 私は半ば反射的に、近くの階段を駆け上っていた。



「あらあら、困ったわ。お客様がお二階に」

「おもてなしが終わるまで入らないようにと弟たちに言われてるのに。困ったわね、サフィア」

「どうしましょうね。弟たちの指示を待ちましょうか?」

「でも、彼らの知らないお客様よ? なら私たちが責任持って連れ帰るべきではなくて?」

「まあ、いけない子。そう言って彼らのお仕事のお邪魔するつもりなんでしょう?」

「そんなつもりはないわ。偶然そうなってしまうかもしれないけれど、ね」

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