13.偶然と勇気と老婆心のようです。
結局この日のRP部の活動はほぼほぼ本日の出来事にまつわる雑談といった駄弁りで終わり。
レキは「これからバイトがあるんで~」とかなんとか言って現地解散。一人で帰宅することになった。そこまではいい。むしろ登校時のアレで度胸がついたと思うし、トラブルメーカーの気があるレキがいない分、心穏やかに帰宅できるだろうと思っていた。
思っていたのだが……。
***
それは全くの偶然だった。
今朝のはた迷惑老紳士と、男子学生の……海咲くん、だったっか。その二人が、コーヒーショップから出てきてどこかへと連れ立っていくところを目撃してしまった。
実質、加害者と被害者(もっとも、被害は私が肩代わりしたようなものだが)のツーショット。親子……には見えないが、もしかして親族か、元から顔見知りだったのだろうか? しかし、ちらりと見えた海咲少年の表情には、親しさよりも義務感のような固さがあったような……。
「……」
ああもう。部活の駄弁りで危険なことは嫌だと言った矢先なのに。今朝のようなトラブルには今後極力かかわりたくないとさえ思っていたのに。
もしかしたら、またあの少年が危険な目に遭うんじゃないかという心配が拭いきれず、私は彼らの後をこっそりと追いかけていた。
もちろん無理はしない。単に二人が顔見知りとか和解したとかで常識的な範疇で交流しているだけならそれで良し、もしもの時は通報すればいいだけ……いや待て。この世界の警察への電話は110番でいいのか。いやそもそも警察に相当する組織があるのだろうか。仮に警察があったとして、奇想天外なことがそんなに大事にならないこのパークでは、どこが通報に足るラインなんだろう……。
妙な不安ばかりが脳内でぐるぐる巡っていたが、それでも歩みを止めることはしなかった。
そうこうしているうちに彼らの行先は私の下校ルートからどんどん外れ、やがて街の賑わいも遠くなり。
そして……人の気配のすっかり絶えた街外れ、夕焼けに染まる空の下にあってなお、黒々と広がる森の中へと消えていった。
「ま、マジか……」
これはもう完全に「親しい間柄の大人と子供が遊びに出かけている」の範疇を越えているだろう。これは通報案件、と即座にスマホを取り出し通話モードにするが……ダメだ110番でも反応がない。やっぱりこの世界じゃ違う番号なのか。
とりあえずメッセージアプリでレキにざっと不審者目撃情報を報告、警察機関への通報についてもお願いしておいたが、あいつのことだ、いつ通報してくれるか分からない、というか面白がって私からの連絡を揉み消す可能性すらある、そんな気がした。
……さて、どうするべきか。
森の前でうんうん悩んでいると、ピピピ、と涼やかな鳴き声がして、何かが傍の樹に止まった。
「あ……」
今朝、あの老紳士に追いかけられていたあの小鳥だ。(いや、同一個体かは分からないけど)
小鳥は、ただ私と森の奥を交互に見やっていた。……まるで森の奥に私を誘うように。もしかしたら「あの少年を助けてあげて」と乞うているのかもしれない。
――なんて解釈するのは、私の想像力がもたらす悪い癖かもしれないが。
「仕方ない、か」
これでおめおめ帰って後々少年の身に何かあっても寝覚めが悪すぎる。せめて彼の無事を確かめ、ヤバいようなら助けてあげなくては。
そう覚悟を決めて、私は森の中へと踏み込んだ。
途端、眩しいくらいだった夕陽がさっと遮られ、私は不気味な暗闇に包まれる。足元も見えないほどの暗黒、というわけではないが、それでも心細かったのでスマホの照明で行く先を照らし、おそるおそる歩を進めていく。
少し歩くとぱたぱたと小さい羽音がしたので見上げれば、先ほどの小鳥が飛んできて進行方向少し先の枝に止まるところだった。そこで小鳥のいる方角に進むと、小鳥はやはり私の少し先の樹に止まり、違う方向へ行こうとすると眼前に飛び込んできて体当たりをかましてくる。
……これは間違いない。私の勝手な思い込みでもなんでもなく、この小鳥はどこかへ私を導いているらしい。それがあの少年のいる場所だといいのだけれど。
小鳥の真意は不明だが、少なくとも生き物の気配のしないこの森の中、冒険(?)の道連れがいることは私を大いに勇気づけてくれた。その勇気と小鳥の案内を頼りに黙々と歩いて……
やがて、一つの建物が見えてきた。




