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9.最初のレクチャーと作戦会議が始まるようです。

「さァて、とわちゃん。舞台演劇に必要な要素は分かるかい?」

「脚本と役者と……後は道具や装置と、それを扱う人がいっぱい?」

 レキの問いに私はたどたどしく答える。演劇について浅く知識はあるものの、鑑賞経験はごく僅かだし、まして携わった経験など無いのだから。


「ま、大体合ってるネ。とりあえずこのパークじゃ場所の問題は無いに等しい。開催場所確保の手続きはそう難しくないし、広さの都合も気にしなくていい」

 そう言いながら、レキはテーブルの中央にすっかり数を減らした山盛り(だった)ポテトフライの大皿を持ってくる。

「夢想家が脚本はなしや演出を明確にイメージさえできれば、舞台装置だって勝手に生えてくる」

「それはなんとも都合が良いことで」

「それがここの常識サ」

 などと語っているうちに、レキはポテトを大皿の端に寄せて、皿の中央にサラダボウルから野菜を少々と大きなローストビーフ数枚を取り分けた。


「次に役者。これはゼロから生み出すのは上級者仕様だから、なるべく現実的なコネで人を確保したいところだネ」

 役者いのちをゼロから生み出すとか恐ろしい発想をずいぶんサラリと言いやがったぞコイツ。夢想家とやらはそんなことまでできるのか。

「現状の戦力はオレと、それからあの学生二人。あいつらは良い人材だゼ、いろんな意味で扱いやすいから」

 と、次はミニパン二つと細く切り分けたマルゲリータピザを一切れ乗せる。


「さて、後は何が足りない?」

 ずい、と一通りの料理を取り分けた大皿が私の眼前に差し出される。「足りない」というのは演劇の話が、皿の上の料理の話か。


「メインディッシュ……?」

「正解~」

 ほぼ丸のままの目玉焼き乗せハンバーグが大皿の中心にどん、と乗せられた。肉汁と黄身混じりのソースがサラダを伝い皿の方々へと垂れていく。


「舞台の花形、それでいて脚本ソースでいかようにも舞台を動かし好きなように味付けできる、それがアンタの役目だ」

「兼業なんて果てしなく荷が重いわ……」

 字描きの端くれである以上、脚本はどうにかできるかもしれないが。私に役者、それも主役格の適性なんて微塵もあるとは思えない。

「アンタが思ってるよりはずっと楽サ。アンタは《永遠の少女(アリス)》の素質があるんだ。それはすなわち夢想家の優れた才能でもある」

「そのアリスっていうのも何」

「このパークが求めてやまない特別な素質」

「だからどんな素質を指してるのよそれは」

「ずっと《永遠の少女(アリス)》でいられること、サ」

 ああもう、堂々巡りだ。とりあえず夢想家という職業の才能をこいつはアリスと呼んでる、と認識しておこう。


「ま、細かいことは大抵このパークが教えてくれる。とりあえずは脚本を書くことから始めようゼ。日常生活の合間に取材してアイデア練って、話に起こす。いつもアンタがやってる作業サ」

 いつもの作業。そう言われてしまえばそうなのだが。「誰かの心を動かすこと」を意識した話作りなんて、私にできるのだろうか――


「で、脚本ができたら後はそれに応じた人員の確保なり教育なりして、当然アンタも重要な役で出演するコト。そうでなきゃ経験値が伸びないからネ」

「っていうか待って。私の課題が増えるばっかりで、君から具体的なレクチャーを何一つ教わってないんですけど」

 そう言うと、なぜかレキは「え、ナニソレ」と言わんばかりの顔をする。


「最低限の筋道は教えてあげた。後はここでの日常生活から学びと楽しみを与えて、のびのび育てる。これ以上に何か?」

 悪びれもせず、心底不思議そうに小首を傾げた。くうう、こういう年齢不相応な仕草でギャップを見せてくるところが可愛、いや忌々しい!


「それじゃあ、選ばれし人間しか突破できないような特別な超ハードな修行パートでも挟む? けど『主役』扱いはお嫌いなんデショ?」

「……っ」

 図星を突かれ、私は言葉に詰まってしまう。

「だからァ、オレはその意思を尊重して。あくまで放任というか必要最低限しか与えないつもり。なにもしなくたって特別ってのを際限なくぎ込まれるのが主人公ってヤツだから、あえての線引き。優しいよネ?」

 そう言われてしまうと、今の食事含めて地味な範囲で上手い具合に助けてもらっている手前強く言えない。それ以上にだいぶ振り回されてもいる気もするが。


「……分かったわよ。過剰な特別扱いが嫌なら自分でどうにかするのは当たり前だものね」

 半ばヤケ気味ではあったが、私はレキの言葉に納得することにした。

 実際、短期間でこの世界の出来事を一気に詰め込まれすぎて息苦しいところもあったし、自分のペースでこの世界のルールを把握する良い機会なのかもしれない。


「ま、勝手に縁が向こうからワンサカやってくるのが主人公補正ってヤツですけどネ」

 そう理由付けて納得しかけた私に水を差すように、レキは不穏な言葉を口にするのであった。

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