幕間:闇に沈む華
エリザベス・ヴァンデルビルトが「悪役令嬢」と呼ばれるようになったのは、彼女が魔法学院に入学してからのことだった。
幼い頃から並外れた魔力を持っていたエリザベスは、常に周囲から特別視されていた。
両親からの厳しい期待、貴族社会からの羨望と妬み、そして自身の力をコントロールできない不安。
これらが彼女の心を次第に歪めていった。
魔法学院に入学した当初、エリザベスは自分の居場所を見つけられずにいた。
クラスメイトたちは彼女の力を恐れ、距離を置いた。孤独感に苛まれた彼女は、やがて自分の力を誇示し、他人を見下すことで自尊心を保とうとするようになった。
ヴァイオレットとの確執も、この時期に始まった。
二人は当初、互いに理解し合える唯一の存在だと感じていた。
しかし、エリザベスの力が増大するにつれ、ヴァイオレットは彼女に対して劣等感を抱くようになる。
そして、エリザベスの婚約者となったアルベールへの想いも重なり、二人の関係は決定的に崩れていった。
エリザベスは、自分の行動が他人を傷つけていることを知りながらも、それが唯一の自己防衛だと信じていた。
彼女の高圧的な態度、冷酷な言動、そして時折垣間見える脆さが、周囲の人々を混乱させ、「悪役令嬢」というレッテルを貼られる結果となった。
エリザベスも心の奥底では、常に孤独と自己嫌悪が渦巻いていた。彼女は本当は誰かと繋がりたいと思いながらも、その方法を知らなかったのだ。
魔法学院が彼女に対して実験を行うことを提案したとき、エリザベスはそれを受け入れた。それが自分の力をコントロールし、本当の自分を取り戻す唯一の方法だと信じたからだ。
実験の結果、エリザベスの人格は分離し、記憶も失われた。
しかし、それは彼女にとって新たな始まりでもあった。六つの人格それぞれが、彼女の本質の一部を表現している。
そして、それらが調和することで、エリザベスは本来の自分を取り戻す機会を得たのだ。
悪役令嬢としての過去は、エリザベスにとって苦い記憶であると同時に、成長のための貴重な経験となった。
これからの彼女の物語は、過去の自分を受け入れつつ、新たな自分を築いていく旅になるだろう。
いよいよ物語もクライマックスへ…!