第8章:真実の序曲
次回は幕間となります!
彼女のこれまでの振る舞い。記憶を失っていたとはいえ、それほど酷い令嬢には見えません。
何故彼女が悪役令嬢と呼ばれるに至ったのかを深堀る回となります。
第8章:真実の序曲
舞踏会場は静寂に包まれていた。エリザベスの告白から数秒が過ぎ、ようやく人々が動き始めた。
ヴァイオレットが 勝ち誇った笑みを浮かべて前に出た。「ほら、見たでしょう?エリザベスは狂っているのよ!こんな子を婚約者にするなんて、アルベール様がかわいそう!」
サンドラ『あらあら〜、誰が狂ってるって?エリザベス様の魅力的な一面を妬んでいるだけじゃありませんこと?』
「ヴァイオレット、私が六つの人格を持っているのは事実よ。でも、それが何か問題なの?」
会場がざわめく。アルベールが一歩前に出た。
「エリザベス、君は…」
レギーナ『黙れ、下郎!貴様如きが我々に意見する資格などない!』
「アルベール、あなたは何を知っているの?」
アルベールは深いため息をついた。「実は…君の六重人格は、魔法学院の秘密の実験の結果なんだ」
会場が騒然となる。
シャーロット『なるほど。だから私たちは記憶を失っていたのね』
ジャスティス『許せない!人格を分裂させるなんて、そんな非道な実験を!』
「実験?どういうこと?」
学院長が前に進み出た。「私から説明しよう。エリザベス、君は特別な才能を持っていた。その才能を、最大限に引き出すための実験だったのだ」
シンデレラ『こ、怖いよ…でも、知らなきゃ…!』
「どんな才能なの?」
学院長は深呼吸をし、慎重に言葉を選びながら説明を始めた。
「エリザベス、君がこの学院に入学した時、我々は君の中に眠る莫大な魔力に気づいた。しかし、その力は未熟で制御不能だった。通常、魔法使いは一つか二つの魔力の要素しか扱えないが、君の中には全ての要素が混在していた。
我々が行った実験は、君の中の魔力を整理し、制御可能にすることが目的だった。最初は、君の意識を保ったまま魔力を分離しようとしたんだ。だが、予想外のことが起きた。
魔力を分離する過程で、君の人格も少しずつ変化し始めたんだ。最初は些細な変化だったが、実験を重ねるにつれ、君の中に異なる個性が芽生え始めた。我々は恐れをなして実験を中止しようとしたが...」
学院長は一瞬言葉を詰まらせ、申し訳なさそうに続けた。
「しかし、君自身が望んだんだ。'もっと力を、もっと知識を'と。君の熱意に押され、我々は実験を続行した。そして最終段階で、予期せぬ魔法の暴走が起きた。その結果、君の人格は完全に六つに分離し、同時に記憶も失われてしまった。
つまり、最初から六つの人格があったわけではない。実験の過程で徐々に分離し、最後の魔法暴走で完全に独立した人格になったのだ。各人格は、分離される前の君の一側面を強く反映している。
我々の目的は君を傷つけることではなく、君の力を最大限に引き出すことだった。だが、結果として君を苦しめることになってしまった。申し訳ない、エリザベス。」
学院長は深く頭を下げた。そして、少し顔を上げて付け加えた。
「しかし、君の中の六つの人格は、確かに魔力の六大要素を完璧に体現している。サンドラの情熱は火の魔力を、シャーロットの冷静さは水の魔力を、ジャスティスの正義感は風の魔力を、シンデレラの優しさは土の魔力を、レギーナの威厳は光の魔力を、そして記憶喪失前の君自身が闇の魔力を操る。これらが一つになれば、君は魔法世界で前例のない力を持つことになる。
我々の実験は失敗だったかもしれない。だが、君の中に眠る可能性は計り知れない。今、その力が目覚めようとしているのだ。」
サンドラ『まあ!エリザベス様ったら、そんな素敵な才能の持ち主だったなんて!』
レギーナ『当然だ!我々は特別な存在なのだからな!』
「待って。じゃあ、私のこの状態は…あなたたちが作り出したもの?」
アルベールが悲しげな表情で答えた。「そうだ。そして僕は…その監視役だった」
ジャスティス『なんてこと!アルベール、あなたを信じていたのに!』
シャーロット『落ち着いて。まだ全容は見えていない』
「全部、演技だったの?」
アルベールは頭を振った。「いいや、君への気持ちは本物だ。だからこそ、苦しかった…」
その時、ヴァイオレットが叫んだ。「嘘よ!アルベール様は私のもの!エリザベス、あなたなんか消えてしまえば良いのよ!」
ヴァイオレットが杖を取り出し、エリザベスに向けて魔法を放った。
シンデレラ『きゃっ!危ない!』
レギーナ『愚か者め、我々に危害を加えようなどと…!』
エリザベスは咄嗟に目を閉じた。しかし、予想していた衝撃はなかった。
目を開けると、エリザベスの前にアルベールが立ち、魔法を受け止めていた。
「エリザベス、大丈夫か!?」
サンドラ『まあ!アルベールったら、エリザベス様のために身を挺してくださったのね!』
ジャスティス『アルベール…あなた、本当は…』
「この力は…」
学院長が興奮した様子で叫んだ。「来たか!エリザベス、君の本当の力が目覚めつつある!」
エリザベスの体が淡い光に包まれ始めた。六つの人格の声が、一つに重なり合う。
サンドラ『エリザベス様、私たちの力を使って!』
シャーロット『冷静に。でも、思い切って』
ジャスティス『正義のために、この力を!』
シンデレラ『怖いけど…頑張って!』
レギーナ『さあ、我々の真の姿を見せつけてやれ!』
そして、記憶を失う前のエリザベスの声。「私たちは一つ。さあ、本当の物語を始めましょう」
エリザベスは目を開けた。その瞳には、六色の光が宿っていた。
「私は、エリザベス・ヴァンデルビルト。六つの人格を持つ魔法使い。そして…」
彼女の言葉が、新たな物語の幕開けを告げようとしていた。