第3章:混沌の魔法授業
エリザベスは教室に入るなり、全員の視線を一身に浴びた。しかし、今や彼女の中で新たな人格が頭をもたげていた。
『ふんっ!このエリザベス様に見惚れるのも無理はありませんわよね〜!』
高らかな声が響き、エリザベスは思わず口に出してしまった。
「はぁ〜?なんですの、その目は。エリザベス様の美しさに嫉妬?それとも畏怖?どっちにしろ、見苦しいですわ〜」
教室中が凍りついた。エリザベス自身も、自分の口から出た言葉に驚いていた。
(え?今の…私?)
『ふふ、私たちの新たな仲間よ。サンドラと呼んでちょうだい』
頭の中で、傲慢な声が説明する。エリザベスは内心パニックになりながらも、なぜか心地よさを感じていた。
魔法理論の授業が始まり、先生が質問を投げかける。
「エリザベスさん、基本の五大元素とその相互作用について説明してください」
エリザベスは固まった。記憶喪失の彼女に、答えるすべはない。
(どうしよう…)
『任せなさい』
冷静な声が囁く。しかし、サンドラの人格が割り込んできた。
サンドラ『あら〜?先生ったら、わざわざエリザベス様に質問ですの?私の知識をお試しになりたいのかしら?』
エリザベスは、思わずその調子で答えてしまった。
「もう〜、先生ったら意地悪ですわ〜。エリザベス様に、そんな初歩的な質問なんて。でもいいですわ。答えて差し上げましょう」
エリザベスは立ち上がり、黒板に向かった。しかし、何を書けばいいのか分からない。
『こうよ』
冷静な声がサポートする。エリザベスは、その指示通りに書き始めた。
「はい、こうですわ〜。火、水、土、風、そして精霊。これらが調和することで、この世界は成り立っているのですの」
図と説明を黒板いっぱいに書き、エリザベスは得意げに振り返った。
「ふふ〜ん、どうですか先生?エリザベス様の説明、完璧ですわよね?」
先生は驚いた表情を浮かべていた。
「さ、さすがですね、エリザベスさん。これほど詳細な説明は…」
エリザベスは、思わずドヤ顔をしていた。しかし、内心は大混乱だ。
(今の、私なの!?)
授業が進む中、エリザベスの奇抜な言動は続いた。時に傲慢に、時に可愛らしく、そして時に鋭い洞察を見せる。
クラスメイトたちは、これまでと違うエリザベスに戸惑いながらも、妙に惹きつけられていった。
休み時間、アルベールが近づいてきた。
「やあ、エリザベス。今日の君は、特別輝いているね」
その言葉に、サンドラの人格が反応する。
サンドラ『あら〜、なんですの?お世辞を言って、私に媚を売るつもりかしら?』
エリザベスは、思わずその通りに言ってしまった。アルベールは一瞬驚いたが、すぐに優雅な笑みを浮かべた。
「いやいや、本心だよ。君の魅力的な一面を、また新たに発見できて嬉しいんだ」
『ちょっと待って。彼、何かを企んでいるわ』
冷静な声が警告する。エリザベスは、サンドラの口調でありながら、慎重に返答した。
「まあ〜、アルベールったら。でも、エリザベス様はそう簡単には落ちませんわよ〜。本当の意図、見せてくださいまし?」
アルベールの表情が一瞬曇ったのを、エリザベスは見逃さなかった。
(やっぱり、何か隠しているのね…)
その時、廊下から悲鳴が聞こえた。駆けつけてみると、マリアンヌが床に倒れていた。周りには、不審な粉が散らばっている。
『毒よ!』
冷静な声が叫ぶ。
『助けなきゃ!』
正義感のある声が急かす。
『こわい…でも、見捨てられない…』
臆病な声が震える。
そして、サンドラの声が決断を下した。
『ふんっ!この程度で倒れるなんて、情けない子ですわね〜。でも、エリザベス様の手を煩わせるだけの価値はありそう。さ、立ちなさい!』
エリザベスは、優雅さを保ちながらも素早くマリアンヌに駆け寄った。
「あら〜、マリアンヌ?エリザベス様に構ってほしくて、こんなことまでするなんて。でも、死なれては困りますわ〜」
エリザベスは、周囲を威圧するような視線で見回した。
「誰か!解毒魔法を!さ・っ・さ・と!」
その威厳のある命令に、クラスメイトたちは慌てて動き出した。エリザベス自身、自分の行動に驚きながらも、確かな手応えを感じていた。
(これが…本当の私なのかしら?)
混沌とした一日が過ぎていく中、エリザベスの心の中で、新たな可能性が芽生え始めていた。
戸惑いを隠せないエリザベス、そして明らかになるサンドラという人格!
※次回から吹き出しに少しずつ明らかになっていく人格に名前を添付していきます。