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プロローグ

 プロローグ

 海崎

 3月8日


 エグゼクティブチェアの背もたれに上体を沈む込ませる。

 部屋に備え付けのコーヒーマシンでエスプレッソを淹れて、こうして思索に耽るのを出社後の習慣にしている。

 ブラインドの隙間越しに、社員達が朝から真剣にモニターに向かっている姿を眺めると感慨深いものがある。

 このフロアだけで300名くらいはいるだろう。随分と会社も大きくなった。

 満足気にコーヒーをすすり、視線をパソコンに戻すと、来週、開催される経済フォーラムで講演する原稿に手を加えていく。

 AIが原案を作ってくれたが、少しインパクトに欠ける気がした。

 やはり、ここのところ頻発している情報漏洩事故を入れないと片手落ちだろう。冒頭で取り上げて危機感を煽るのがいい。そして、わが社のソフトがウイルスに対していかに強力であるかを説明すれば、聴衆は身を乗り出すに違いない。

 刺激的な情報漏洩事故の事例を冒頭に入れるよう、AIに追加で指示を出す。

 ふいにデスクの電話が鳴った。

 座ったままディスプレーを覗き込むと、発信者名は非表示で、見知らぬ番号が並んでいる。

 取り次いだ秘書が告げた意外な電話の主の名前に、背筋が反射的に伸びる。

「代りました。海崎です」

 スピーカーホンからは、

「内閣官房長官の秘書室です。長官の外山と代わります」との声が流れたと思うと、続けて、

「外山だ。突然だが、お宅の抱えている機密情報を外国の諜報機関が狙っているようだ。対策を講じたいので、今日の13時、官邸までご足労願いたいんだが」と、いきなり要件が降ってきた。

 今日ですか、と驚きの声を上げるのをかろうじて抑えると、少しお待ちください、と言いながら、慌ててパソコンでスケジューラを開く。

 午後は社内会議が入っているが、抜けても問題ない。

「わかりました。伺います」

 そう答えると、少し緊張で突っ張った指先で終話ボタンを押す。

 外山と言えば、やり手でならす政治家だ。総理の信任も厚い。

 閣僚が失言を行うケースはままあることだが、定例記者会見での外山は動じることなくこれをさばくと、裏から永田町と霞が関に手をまわして、何事もなかったかのように鎮火させた。敏腕と言われる記者も次第に追及するポイントを失い、終いは黙り込むといった具合だった。

 守りだけではない。経済界にもパイプを持っていて政策通だと聞く。

 2期目に入った富岡内閣が国民の支持率も高く、安定しているのは、この官房長官あってのこと、との下馬評も高い。

 ここで官房長官に恩を売っておけば、近い将来、DX促進諮問会議のメンバーに選任されるのではないか、という打算が頭をかすめる。そうなれば、自分の経済界での発言力が一気に上がる。

 株式会社サムライというベンチャー企業を立ち上げ、7年間で従業員600人を超える会社にした。自ら開発したノーコードで簡単にカスタマイズできるERPシステムが大ヒットしたおかげだ。改良を重ねた結果、いまや技術的な優位性を確たるものとし、国内でライバルはいない。

 海崎はまだ30過ぎであり、財界の中では若造であるが、誰にもペコペコすることなく、強気にこの世界を渡ってきた。

 いよいよ主戦場を世界に広げるべく、銀行からも融資を取り付けた。それを元手に優秀なプログラマーを多数採用し、戦略商品の開発を鋭意進めている。これに国家のお墨付きがあれば、海外への売り込みも加速しよう。

 秘書に頼んだデリバリーの弁当を早めにたいらげると、Tシャツの上からジャケットをひっかけ、タクシーで総理官邸前に乗り付けた。

 タクシーを降りると、玄関にいた男がこちらに近寄ってきて、

「海崎さんですね。お待ちしてました。こちらにどうぞ」と先導する。

 当然ながら官邸に入るのは初めてだ。

 きょろきょろと中を見回しながら男の後ろを付いて行く。

 扉が開かれた会議室に通されると、奥のテーブルにダークグレーのスーツを着込んだ中年男が一人で座っていた。書類に目を通しているこの男に、

「海崎です。えっと官房長官は?」と声をかける。

 官房長官はテレビでよく見るが、背は低い印象だ。目の前の肉付きのいい男は明らかに違う。

 男は、お座りください、という代わりに目の前の椅子を指し示す。

「官房長官は忙しいので、私が代わりにお話しさせていただきます」

 少し拍子抜けするが、ポケットからカードケースを取り出し、名刺を差し出す。男は、ああどうも、と座ったままそれを受け取る。

「園田です。失礼ながら名刺を交換する習慣がないのでご承知ください」

 官房長官の代理なら、このような対応で許されると考えたのだろう。

 この男の非礼をそのように解釈した。

「早速ですが、貴社の開発商品に世界が注目しています。そして、矢島という人が開発の中心人物だそうですね。米国のMITに留学してハッカソンの大会で優勝。大層な逸材ですね」

「ええ、優秀な男です。私の大学の後輩でしたから、是非にとうちの会社に誘いました」

「外国の諜報機関が矢島さんをターゲットにしているという情報が入り、保護対象に指定されました」

「保護対象・・・ですか?」

 海外のドラマを観ているようで、ピンとこない。

 園田という男は、こちらの疑問には答えずに、封筒から書類を取り出すと目の前に差し出してきた。

 履歴書のようだ。若い女性の写真が貼られていて、名前の欄には“橋口燈”と書かれている。

 官房長官の知り合いかなにかで、縁故採用としてねじ込むつもりだろう。

 その手の話はしょっちゅうだ。

「矢島さんのアシスタントとして、こちらの女性を配属させていただきたい」

 順序が逆だろう。配属の前に採用だ。

「どうしてその女性を採用しろと?」

「矢島さんに近づく外国のスパイがいないか監視させて、怪しい人物、組織が判明すれば、こちらで対処します。彼女には表向きあなたの会社に所属してもらいますから、給料は所定のものを支払ってください。我々から御社に補填します」

 海崎は履歴書を手に取って眺める。

「ハシグチ・・・アカリって読むんですね。なるほど。プログラミングのいろはは知っていると・・・。で、もしお断りしたら」

 すんなり受け入れるのも癪にさわるので、少しからかってみることにした。

 園田は、ふーっ、とこれ見よがしに息を吐いてみせ、

「あなたは業界の風雲児のつもりかもしれませんが、官房長官を怒らせない方がいいですよ。実際に干上がった経営者を何人か見ています。ましてやサムライは国から補助金を受け取っている身でしょう。いざというときに返せるんですか?」と露骨に脅してきた。

 もとより断れる話でないことはわかっている。

 サムライ社は、矢継ぎ早に新商品開発に向けて設備・人材ともに投資を進めていて、金はいくらあっても足りない。補助金200億円の返却なんてことになれば大変なことになる。

「ちょっと訊いてみただけですよ」と無理に口角を上げて、悪意のないことを示すと、その場で、承知しましたと回答する。

「サムライ社の中でこのことを知っているのはあなただけにしてください。当然、矢島さんにもお伝えにならないよう。橋口が独断で動くことに、上司の方はいら立つかもしれませんが、社長の縁故採用だからアンタッチャブルな存在、とでも言っておけばいいでしょう」

「職場の秩序というのがありますからね。彼女があまり勝手な行動をとらないことを祈りますよ」

 海崎は首をすくめてみせた。

「他に何かご質問はありますか?」

「いえ。官房長官から直々にお話をいただいたわけですから、よほど優秀な方を付けていただけたんだと思います。ありがたいことです」

 やんわりといやみを伝えたところ、園田は言葉の意味を正しく読み取ったようで、

「別にこちらは好き好んで人を出すわけじゃありませんよ。あなたの会社はセキュリティシステムだけ作ればいいものを、危険な侵入プログラムまで作ったらしいじゃないですか。それがなければ、こちらも余計なことはしないで済んだんです」と、ぴしゃっと言った。

「そうはおっしゃいますが、その“危険なプログラム”があって初めて完璧なセキュリティシステムを作ることができますので、そこはご理解いただきたいところです」

 なんとかごまかしたが、園田の指摘は耳に痛い。

 もとはといえば、矢島がサーバへの侵入を容易にする仕組みを考案したところから、これはセキュリティの仕組みを抜本的に変えないといけないということになって、今回のプロジェクトが立ち上がったいきさつがある。なぜ、そんな危険なプログラムを?と訊かれても、さすがに、矢島の趣味です、とは言えない。

 それに大きな声では言えないが、その危険なプログラムもそれなりに金になりそうな算段がついている。

「我々は外国の諜報機関からの攻撃には全力で防御にあたりますが、内部からの情報漏洩というケースもあります。セキュリティ全体の責任はあくまでサムライ社にある、ということをお忘れなく」

「そこは承知しています」

 こちらにしたって無防備でプログラムを開発しているわけではない。産業スパイの存在には以前から気を配っていて、セキュリティにも万全を期している。開発はインターネットから遮断された環境で行っており、矢島が誘拐でもされない限り、自分達で情報は守れる。

 今回の話は正直言って迷惑だが、国が乗り込んできたということは何かあった場合の言い訳ができたということだ。

 ここは、はいはい、と従っておくのが得策だろう。


 時間にして10分足らずで解放された。

 こんな話なら、うちの人事部長を派遣すればことたりたのに。

 往復の無駄な時間が恨めしくなる。

 官邸を後にして、タクシーを拾うと、気持ちを切り替えることにした。

 先ほど “優秀な方”と言ったのは皮肉であるが、この橋口という人物がどの程度のスキルを持っているのか興味が湧いたのは事実だ。

 ついでに社内のセキュリティリスクの診断をやらせてみよう。

 せっかくなので他の仕事にもこき使うことにする。


 園田


 海崎を見送ったあと、官邸を出て地下鉄に乗った。

 最近の若い経営者ときたらどうだ。パトロンを見つけて莫大な金を苦労もなく集め、世の中を闊歩している。

 彼らがニュース等で取り上げられるたびに苦々しく見ていたが、今日は、その代表格をやりこめたことで、溜飲が下がった。

 だが、そんな気分が続くのは市ヶ谷駅で電車を降りるあたりまでで、事務所の前に立つと急速に気持ちがしぼんでいく。

 ビルは昭和に建てられたもので、古臭さは否めない。ため息をつきながら、入口にある自動販売機で缶コーヒーを買うと中に入る。

 壁や天井に染みついたタバコのにおいが鼻の奥をくすぐる。

 事務所の奥の自席に戻ると、鞄を置いて缶コーヒーのタブを引っ張る。

 勤務先が変わって、永田町や霞が関に行くのにわざわざ地下鉄で往復するようになって久しい。

 霞が関にいたころが懐かしく思えた。


 **

 防衛省に外事局という非公式組織が設立されたのは5年前。

 その非公式組織と外の世界を結ぶリエゾンオフィサー、つまり連絡役を引き受けているのが園田だ。

 園田という名は本名であるが、外事局の内部向けにはコードネームで対応している。

 実際、パスポートや免許証は、2つの名前で別に交付されており、場面に応じて使い分けることで、万が一、内通者がいても素性がバレないようにしている。

 外事局は非公式組織であるため、活動するには公式な器が必要になる。

 日本セキュリティ開発株式会社がそれだ。

 Japan Security Development Co.。略称はJSDで、狙ったのか、たまたまなのか、自衛隊の略称と同じだ。

 防衛省のOBが名目上、代表取締役になっていて、園田も別名を使ってそこの顧問を兼務している。

 活動資金として、“海外情報システム調査費”、という名目で毎年数百億円の金が防衛省から流れていて、それを原資として諜報活動を行っている。

 戦後日本で初めてのスパイ組織だ。

 園田は、もともと防衛省にキャリアとして入省し、同期の中でも出世レースの先頭集団を走ってきた。

 だが、審議官まで登ったところで、当時の事務次官から、

「外事局という組織が新たにできる。君のようなバイタリティのある人物が最適だ。組織の立ち上げを頼む」と言われ、体よく左遷させられてしまった。

 思い当たることはある。

 園田は以前、会議の場で、当時検討中だった外事局の職員について、自衛隊ではなく外部から人材を登用すべき、と強く主張したことがあった。

 スキルの面では、軍隊と諜報機関には共通点が多い。だが、マインドの点では全く異なる。軍隊で必要なのは規律や上官の命令の順守である。一方、諜報機関に求められるのは、従順さや協調性ではなく、個で事態を打開するための観察力と判断力だ。仲間への依存心は命取りになる。

 そこが事務次官の考えと異なっていたらしく、“盾突いた”と取られたようだ。

 いい方に解釈するなら、それなら自分でやってみろ、という意味があったのかもしれない。

 ある同期からは同情を込めて、まだ敗者復活はあるさ、と慰められたが、本省からはそれ以来、人事の音沙汰はなく、やはり片道切符だったようだ。

 他の同期からは、

「君のような謀略家、もとい、策略家は煙たがれるからな。組織のトップに据えるのは危険と思われたんだろう」とも言われた。

 この同期は立ち回りの良さだけは天賦の才能を持っているのだが、自分のポリシーというものが感じられず、前々からそりが合わないものを感じていた。とにかくリスクを取ろうとしない男だった。

 だが、最終的に、防衛省の事務次官にまで上り詰めたのはこいつだった。

 どうせ傍流になってしまったのだから、と開き直り、園田はこの5年の間、この秘密機関を実効性のある組織にするよう心血を注いできた。

 ただ、防衛省とJSDのはざまで調整を任されている園田にしても、外事局の全貌を把握できているわけではない。

 外事局長は防衛大臣が兼任しているが、実際に誰が動かしているのか、それすら園田には知らされていない。

 園田が掌握しているのは財務部、人事部、総務部、そして調査部といったスタッフ系の組織である。戦略を担当する企画部と、諜報活動の実働部隊である営業部については、園田はノータッチだ。こちらを管理しているのは第二人事部になり、メンバーの全員が偽名を使用している。園田が把握しているのは営業部長と企画部長のみだ。

 特に営業部には、最も優秀な人材が集められている。エージェントと呼ばれていて、主に海外に派遣されて暗躍している。任務は工作活動であり、“営業部”という名称は正しくないが、“営業部”の名刺を持っていると、不審がられずにどこにでも飛び込める、という利点がある。

 外事局のトップと直結しているのが企画部だ。超法規的ミッションを行うには企画部を通して決裁を取る必要がある。

 リエゾンオフィサーとして、園田が対応するのは各省庁の大臣と副大臣クラスだ。政務官や役人には、外事局の存在は明らかにされていない。

 今、園田が取り組んでいる主な課題は、経済安保に関する他省庁との連携になる。

 ここ数年、米国と中国の間で覇権争いが表面化するなか、米国は自由主義諸国のブロック経済圏を確立することを画策し、日本にも同盟国として責任ある対応を求めている。

 この要請に基づき、富岡総理は自由主義諸国との協調関係を強化すると同時に、国内に経済安全保障会議を立ち上げ、日本企業の優れた技術が国外に流出しないよう規制を強化している。

 この会議は総理大臣が議長ではあるが、実質的に官房長官が取り仕切っている。

 園田も防衛大臣直属の審議官という立場でオブザーバー参加していた。

 この日、冒頭の議題に上がったのが、「金融システムのセキュリティ強化プロジェクト」である。システムに侵入するためのプログラム、そして、それを防ぐプログラム。その二つをサムライ社が同時に開発しているという。

 社長の海崎は、侵入を防ぐプログラムを作るためには、まず攻撃用のプログラムが必要、盾と矛です、と言っているが、一部の専門家からは攻撃用プログラムが第三者の手に渡って悪用されないか危惧する声が上がっている。

 当然だろう。だが、銃などの兵器とは異なり、どんなに危険であっても研究用に開発するプログラムを取り締まる法律はなく、止めようがない。

 事務局から事案の説明があったのち、国家公安委員長である佐々木が発言する。

「警視庁公安部からの報告ですが、案の定と言うべきか、中国やロシアがこの攻撃用プログラムに関心を抱いて活動を活発化させています」

 内閣官房長官である外山は、危機管理に嗅覚が利く。

「それは、一刻の猶予もなりませんな。プログラムが彼らの手に渡れば国家の存亡にかかわる。総理、サムライ社を海外の諜報機関からの保護対象にすべきです」と、進言する。

「わかった。対応してくれ」

 富岡がこれに同意したのを受けて、佐々木が「では、私のところで」と名乗りを上げるが、外山はそれをさえぎり、

「敵のことをよく知っているという意味で、外国の諜報機関のカウンターになる部隊が適任だ。本件は外事局が担当でいいですかな?」

 と防衛大臣の松本を振り返る。

 松本も、結構です、と応じる。

 佐々木は出番を奪われて面白くない表情を浮かべているが、実質ナンバー2の官房長官に盾突くわけにもいかず、黙り込んだ。

 佐々木は警察官僚出身で国会議員に転身して2期目での初入閣となった。

 すでに若くはないもののスピード出世となったのは、同じ派閥の会長である富岡総理の覚えがめでたいから、というのがもっぱらの噂である。警察ににらみが効くということは総理からしても便利なのだろう。


 会議後、外山から声をかけられる。

 本来は防衛大臣を通じて話してもらわないと困るのだが、この会議で顔を合わせる関係上、無碍に断れない。外事局にとって大臣の松本はお飾りに過ぎないことも閣内で周知の事実だ。

 外山は、サムライ社の監視係の人選にかかれ、と一言残して去っていった。

 危険が伴うミッションではないから、営業部を通すまでもない。今回は、自分の判断で指示できる調査部にて対応することにする。

 JSDの事務所に戻ると、早速、人事担当の横峯を呼んだ。

「若き天才プログラマーに監視をつけて、ハエから守る。守るのは命でなくて情報だからエージェントでなくていい。新卒の中でシステムの分かる適当な者はいるか?」

「でしたら、ちょうどいいのがいます。橋口燈。先日、基礎研修プログラムを終えたところです。研修成績は、運動系はB評価ですが、知能系はオールA、特にシステム知識はS評価です」

 横峯から評価書を受け取ると、

「確かに成績はよさそうだが、他に選択肢はないのか?」

「新卒くらいの年齢で、情報システムに明るいとなると、彼女くらいですか。これで体力と運動神経がすぐれていれば、スタッフでなく、エージェントに推挙するところです」

「わかった」

 園田がパソコンを開き、スケジューラーで“橋口”を検索してみるとヒットした。

 どうやら1年前に会っているようだ。

 そのときのことはよく覚えていないが、メモには、“自我が確立されておらず内面は未熟だが、外的ストレスには耐性あり。機転が利き、反応速い。コミュニケーション能力に優れる。特技はハッキング”と記載されていた。

 面白いかもしれない。この新人の適性を見るのにちょうどいい案件だ。

 候補が決まったら、受け入れ先との調整だが、官房長官を担ぎ出すことにした。その肩書は、こんなときに役に立つ。

 サムライ社の社長は今時のベンチャー経営者らしく鼻息が荒い。国なんて民間の足手まといであって必要悪だ。そう言ってはばからない人物だと聞く。

 防衛大臣や自分なんぞが説得しても素直に話に乗るとは思えない。だが、官房長官であれば格が違う。電話を事前に入れてもらえば、こいつも言うことを聞かざるを得ないだろう。

 正直なところ、我々は海外事案が任務であり、このような案件は公安で対応してもらえば十分である。外山官房長官の余計な発言を恨めしく思うが仕方ない。適当に対処しておけば外国の諜報員もそのうちあきらめるだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なかなか期待が持てそうな予感。
2024/07/18 20:01 アベンジャーズ
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