表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私財を蓄えるのは不道徳の極み

作者: 浅賀ソルト

 上映許可を出したものの上から問題ありと言われた。俺はそれを受けて各方面に通達した。映画「バービー」はレバノンでは上映禁止となった。

 上司のエル゠ハジは地下上映を開始して、ボッタクリ価格で荒稼ぎをした。

 教えに従って不道徳な映画を禁止して、その上映会を地下で開くんだからマッチポンプもいいところだ。といってもこういうことはすぐに違法ファイルのやり取りとなって無料で拡散する。

 で、エル゠ハジは今度は俺に不道徳な映画を違法閲覧している者を見せしめに逮捕しなさいと命じた。

 俺も本来なら一般上映の許可を出すにあたって申請料金と許可料金をたんまりいただいて荒稼ぎする予定だったのだ。人の食い扶持を横取りしておいて、エル゠ハジはそんなことには関心がない。

 真面目に捜査すべきかどうかが悩ましいところだ。逮捕したところで俺の評価は上がらないだろう。見せしめで逮捕者が出たからって、どうしても観たい人がエル゠ハジの運営する地下映画館に鑑賞に行くとは思えない。だからやることはもっとシンプルだ。

 俺はネットワークの監視からそこそこ金のありそうな奴を見つけては適当に容疑をでっちあげて家宅捜索した。

 パソコンを押収すれば不道徳ファイルの1つや2つは見つかる。

「んー、これは看過できんな、これは。実にいかん。不道徳だ」

 勘のいい奴なら金を用意する。保釈金とか罰金とか不起訴処分料金とか、なんか適当な名称で金を貰って釈放してやった。上映許可の申請代の儲けに比べれば微々たるものだが、まあ、こんなものでもないよりはマシだ。

 捜査室にいるとエル゠ハジがやって来て、「ハッサン、道徳法違反者の逮捕は進んでいるか?」と聞いてきた。

「はい。順調です。報告がありますのでよろしいでしょうか?」

「うむ。では俺の部屋に来い」

「はい」俺はエル゠ハジの個室に入ると売上の2割を上司に出し、「このくらいになりました」と言った。

 エル゠ハジはそれを受け取って懐に入れたが、数えもしなかった。厚さで金額が分かるのだ。「これしかいなかったか?」

 俺はすぐに答えた。「まだ容疑者がいます。少々お待ちください」

「うむ。頼んだぞ」

 俺は敬礼をして部屋を出た。

「ハッサン」

 声をかけられてそちらを見ると支局長のカラムさんがいた。

「はい。なんでしょう、支局長」

「エル゠ハジと何の話をしていたんだね?」

「最近の捜査の状況などの報告を求められました」

「そうか。少し話せるか?」

「はい」

 もうすでに嫌な予感がしていた。

 ひとけの無いところまで来ると支局長は言った。「エル゠ハジの映画館で不道徳な映画が上映されているらしいが」

「え、いや、自分は知りません」

「そうか」支局長は言った。「もし本当だとしたらどうする?」

「いえ。自分には分かりません」

「最近、ハリウッドの奴らは文化を守ろうという気概がなくてな。おかげで困っておる」

 分かりにくすぎる。

 バービーを上映するための申請をするとき、ハリウッドが賄賂を出し渋ったのだろう。交渉が決裂して上映禁止となったのだが、そうなるとハリウッドも儲け損なったが、支局長も儲け損なった。そんな状況でエル゠ハジが地下映画館で儲かっているのは許せん、と。儲けにならず困っているからその映画館にガサ入れして——処罰免除代などの名目で料金を徴収し——ちょっとは損を取り戻させてくれ、と、そういうことを言っているのである。

 エル゠ハジのせいで大損をこいたのは俺も同じだ。ガサ入れすれば気分はいいが、上司の経営しているところに強制捜査などしたら下手したら殺されてしまう。

「……そうであれば、そういうのに詳しいユーニスという知り合いが道徳省におります。私から連絡しておきます」

「うむ。期待しているぞ」

「かしこまりました」

 とにかく金儲けや抜け駆けはよくないよな。コーランでも禁止されてる。たぶん。


※参考資料 名字由来net https://myoji-yurai.net/worldRanking.htm?countryCd=LB


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ