1/6
スーツを着た女神
一人の女性が、空を切ってそびえる白い建物の前に立ち止まった。
ショートの髪を上品にまとめ、ナチュラルメイクによくあった薄いピンクのミニスカスーツを着こなし、スレンダーな体型を見せ付けるように姿勢よく佇む。その姿は、まるで凛々しく気高い獣のようだ。
名を、猛牛 操という。年はまだ二十台半ば。この物語のヒロインである。
操は、建物の入り口で仁王立ちをしながら、片手につまんだメモに目を通した。そして建物の中央に掲げられた看板を読みあげると、小さく微笑んだ。
「セント黒薔薇マリアンヌ病院、肛門科。ここに、あの男がいるのね」
激しい風が、操の周囲を吹き荒れていた。操は烈風の中、己の指名を思い出す……牛を止めるという、使命を。
空と太陽だけが、彼女を見つめていた。




