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【5話】冒険者ギルドでのいざこざ


 モンスターフォレストから歩いて、一時間ほど。

 陽が沈み始めた頃、マリアとエリックはリグダード王国の王都に足を踏み入れていた。

 

「ふーん、ここがリグダード王国なのね」


 エリックの後ろを歩くマリアは、街並みにキョロキョロと顔を動かす。

 

(クルダールとは、雰囲気が結構違うわ)


 壁に書かれたいくつもの落書き。

 柱にひびが入った建造物。

 飲んだくれ、ケンカをしている酔っ払い。

 

 端的に言うと、かなり治安が悪い。

 何よりも秩序を重んじるクルダール王国の王都の街並みとは、正反対の雰囲気だ。

 

 だがその一方で、住民はどこか生き生きしているように思えた。

 

 大声を上げて客寄せしている露店商の店主。

 立ち止まり、楽しそうに談笑している女性。

 元気な笑顔で街を駆けまわる子どもたち。

 

 そこには、縛られない自由のようなものを感じる。

 それがこの国の特色なのかもしれない。

 

(なんだが、そういうのって良いわね)


 口元に手を当て、マリアは小さく笑った。

 これからの自分の生き方には、こういう雰囲気が合っているような気がした。

 

「着きましたよ。ここが冒険者ギルドです」


 街の中央にある噴水広場。

 その近くに、ギルドは建っていた。

 

 中に入ってみると、多くの冒険者で賑わっていた。

 そのほとんどが厳つくて、ガラの悪い者ばかりだった。

 

「それじゃあ僕は、依頼完了報告をしてきますね。新規登録はあちらのカウンターで出来ます」

「食事のことといい、ここのことといい、色々親切にありがとうね。本当に助かったわ」


 ここまでのお礼をこめて、マリアは深くお辞儀した。

 

「あの、もし一緒の依頼を受ける機会があったら、その時はよろしくお願いします」

「えぇ、楽しみにしてるわ。それじゃあね」

 

 なんだか寂し気なエリックに手を振り、マリアは新規登録を受け付けているカウンターに向かった。

 

「冒険者の新規登録をしたいのだけど、よろしいかしら」

「かしこまりました。そうしましたら、こちらの書類にお名前を記入ください」

「ありがとうね」

「おいおい、やめとけよ姉ちゃん」


 受付嬢の指示に従いペンを手に取ったところで、テーブルに座るガラの悪い大男が声をかけてきた。

 

 そのテーブルには、他にも数人の男たちが座ってる。揃いも揃って全員ガラが悪い。

 酒の入ったジョッキを片手に、下品な笑みを浮かべていた。ガラだけでなく、頭も悪そうだ。


「冒険者っていうのは過酷な世界なんだ。てめぇみたいな弱そうな女に務まるはずがない。そんな綺麗な顔してるなら、娼婦にでもなった方がいいんじゃねぇか? きっと人気間違いなしだぜ?」


 大男がそう言うと、テーブルからドッと笑い声が上がった。

 

(面倒くさいわね)


 小さくため息を吐いてから、マリアは書類に名前を記載しようとする。

 

「おい、無視してんじゃねぇよ!」


 大男が勢いよく立ち上がる。

 大きな足音を立てながら向かってきて、マリアの肩を強く掴む。

 

「せっかく忠告してやってるって言うのに、無視するってのはどういうことだ!」

「無視はしていません。聞く必要性をまったく感じなかったので、聞き流していただけです」

「それを無視って言うんだよ!」

「そうなんですか。教えていただきありがとうございます。勉強になりました」

「この、クソアマっ……!」


 大男の顔がトマトみたいに真っ赤に染まる。

 唇はプルプル震え、鼻息が荒くなった。

 

「俺がDランク冒険者と知ってのことか!」


 男の言葉に、マリアはピコンと反応する。

 

 冒険者には、F~SSまでのランクが与えられている。

 例外はあるが、ランクが高いほど実力も高い。

 

 モンスターフォレストからギルドに来るまでの間、エリックがそんなことを言っていた。

 ちなみに駆け出しのエリックは、一番下のFランクだそうだ。

 

(F、E、D……下から三番目か。どれくらい強いのかしら)


 この大男の持つDランクというのが、どれほどの強さか気になる。

 外見と言動からしてあまり強そうには見えないが、かなりの実力を持っているのかもしれない。

 

「ねぇ、私と勝負してくれない?」

「あぁ!? 何言ってんだ!」


 声を張り上げる大男に、マリアはニコリと笑いかける。

 

「私が敗けたらあなたに謝罪するわ。そして、忠告してくれた通り冒険者になることは諦める」

「……ハ、ハハッ! 俺をDランク冒険者と知って勝負を挑んでくるとは、良い度胸じゃねぇか! いいぜ、乗ってやる! 後悔すんじゃねぇぞ!」


 ガハハと笑う大男。

 その笑い声からは、揺るぎない勝利の自信が溢れている。

 

「ありがとうございます」

 

 彼と向かい合うマリアもまた、誘いを受けてくれたことに喜び、静かに口角を上げていた。

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