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【21話】どうしてこうなった ※ヴィルテ視点


 魔物が闊歩(かっぽ)し、あちらこちらから火の手が上がっている。

 地獄と見まがうほどの景色を映しているここは、クルダール王国の王都だ。

 美しかった街並みは、今はもうどこにもない。

 

 すっかり様変わりした国を守るため、最前線で魔物と対峙する王国兵たち。

 王宮から少し離れた場所にある噴水広場で彼らの指揮を執っているのは、クルダール王国第一王子のヴィルテだ。

 

(どうして僕が、こんな危ない役目をしなきゃいけないんだよ!)

 

 跨っている馬の手綱をギュッと握る。

 

 指揮を執っているのは、ヴィルテの本意ではなかった。

 安全なところで事態が鎮静化するのを待ちたい、というのが本音だ。

 

 しかし、そうせざるを得ない事情がある。

 

『国が危機に瀕している今、国王の子どもであるお前達は大きな責任を持つ。矢面に立ち戦え。それが出来ない者に、国を治める資格はない』


 先日、クルダール王国にいる全ての王子と王女を集めた場で、国王がそう言った。

 現場に出ない臆病者には国王の座を譲らない、とそういうことだろう。

 

 こんな危ない場所に出てこいなんて、自分の子どもを何だと思っているのか。

 ふざけた父親だ。

 

 しかしながら、ヴィルテはその言葉に従った。

 将来この国を治めるためには、現国王である父の言葉に逆らう訳にはいかなかった。

 

「お前らの命令はたった一つ。死んでも僕を守ることだ! いいか!」


 自らの周囲をぐるっと取り囲む王国兵に、ヴィルテは指示を出す。

 

 返ってくる返事はまばらだった。

 襲い来る魔物からヴィルテを守ったことで、これまでに多くの兵が死亡した。

 さらには、この惨状に耐え切れず敵前逃亡した兵も少ない。

 

 ヴィルテを取り囲み守ってくれる肉の壁(王国兵)は、残りわずかとなっていた。

 

(もうダメそうだね。……逃げた方がいいかもしれない)


 そんなことをすれば、次期国王の道は絶たれるかもしれない。

 でも、死んだら何もかもが終わりだ。

 離れた場所ではホワイトドラゴンが暴れているようだし、早く撤退しないと手遅れになる。

 

 こればかりは仕方ない、そう自分に言い聞かせる。

 だが、そう簡単には割り切れない。


「なんでこうなったんだ!」


 血が滲むほど強く握り拳を作り、太ももを思い切り叩いた。

 一筋の涙が頬を伝う。

 

 悔しすぎて頭がどうにかなりそうだった。

 

(マリアさえ帰ってくれば、全部うまくいったんだ!)


 一週間ほど前に、賢者の報告によって突然降ってわいた希望の光。

 それに全てを賭けたヴィルテは、最も信頼する部下であるルドルフをリグダード王国へ向かわせた。

 

 しかし、それからの音沙汰がいっさいない。

 ルドルフ自身も戻って来ないことから、何かしらのトラブルに巻き込まれたのかもしれない。

 

 気がかりな点は多いが、大切なことはただ一つ。

 それは、マリアを連れ戻せなかったという事実。希望の光は、跡形もなく消えてしまったのだ。

 

「クソッ、クソッ!!」

 

 涙が止めどなく溢れていく。

 簡単には止まってくれそうにない。

 

 その時、地面が大きく揺れた。

 ヴィルテの目の前に、上空から何かが降りてきた。

 

 巨大な白き竜だ。

 

 全長は五メートルほどもある。背中には二つの翼生えていた。

 垂れている長い尾の先端は、刃物のような鋭利な形状をしている。

 

 二足で立つそれが、ヴィルテを真っすぐ見下ろしていた。

 

「ホ……ホワイトドラゴン」


 地面にへたり込み、カタカタと震える。

 跨っていた馬は、ヴィルテを置いて一目散に逃げ去って行った。

 

 死の恐怖が全身を支配する。

 全身が氷漬けにされてしまったような感覚だ。

 逃げなきゃいけないのは分かっているのに、指一本すら動かせない。

 

「あは……あはは」


 何もかもを諦めた虚しい笑いが響く。

 

 これくらいしかもう、ヴィルテにできることはなかった。

 人間の無力さというものを、痛いくらいに思い知る。

 

 大きく口を開けたホワイトドラゴン。

 口から吐き出したのは、燃え盛る炎の息だった。

 

(僕は何一つ悪いことをしていないのに、どうしてこんなことに……!)


 灼熱の炎に呑まれる直前、ヴィルテの頭によぎったのは大きな後悔だ。

 彼は命の灯火が消えるその瞬間まで、周囲を呪わずにはいられなかった。

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