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【13話】Bランク冒険者の男


 翌日早朝、マリアとエリックはモンスターフォレストに向った。


 入り口には、大量の冒険者が集まっていた。

 ざっと、五十人ほどはいるだろうか。

 

 そんな彼らの中で、多くの注目を浴びている大柄の中年男性がいた。

 

 丸太のような四肢に、はちきれんばかりのパツパツの胸筋。

 かなり鍛え抜かれた肉体をしている。

 背中にロングソードを背負って立っているだけなのに、他の冒険者とは一線を画しているような半端ない存在感がある。

 

「あれがゴッゾか。初めて間近で見たけどすげぇな」

「流石Bランク冒険者だぜ。俺たちとはオーラが違う」


 ひそひそ話す冒険者たちの会話が、マリアの耳に入った。


(Bランクっていったら、冒険者の中でも結構上の方よね)


 Bランク冒険者という言葉に、好奇心が刺激される。

 隣にいるエリックの肩を、トントンと指で叩く。


「ねぇ、エリック君。あの人のこと知ってる?」

「ゴッゾさんですね。面識はありませんが、ギルドで二、三回見かけたことはありますよ。噂によると、ビッグボア二十体を一気に狩ったこともあるとか。ロングソードのエキスパートで、かなりの実力者みたいです」


 Bランク冒険者に見合うだけの、確かな実力を持っているようだ。

 ゴッゾと戦ってみたいという気持ちが、頭の中に大量生産されていく。

 

(今この場で、勝負を申し込んでみようかしら)


 そう考えていた時だった。

 

「お、時間になったな」


 冒険者の一人が大きな声を上げて、モンスターフォレストに入っていく。

 それを皮切りに、集まっていた冒険者たちが続々と森の中へ踏み入っていった。その中にはゴッゾの姿もある。

 

 依頼書に記載されていた開始時刻になったみたいだ。

 

(ゴッゾとの勝負はお預けね)


 勝負を挑んだところで、依頼が始まった今は応じてもらえないだろう。

 少し残念だが、彼への勝負申し込みは緊急依頼を済ませてからだ。

 

「エリック君、私達も行きましょうか」

「はい」

 

 続々と中に入っていく冒険者の列に続き、マリアとエリックもモンスターフォレストに入った。

 

 

 中に入った冒険者たちは、二つのグループに分かれていた。

 

 一つは、入り口付近に留まり魔物を狩るグループ。

 もう一つは、中心部に向かって進んで行くグループ。

 

 端である入り口付近と比べ中心部の危険度は桁違いになっているのが、モンスターフォレストの特徴だ。

 異常事態が起こっている今は、中心部の危険度はさらに上がっているはずだ。

 

 命が惜しければ、入り口付近に留まるのが正解だろう。

 

 しかし実際には、二つのグループの人数は大体同じくらいだった。

 

 今回の依頼の報酬金は、歩合制となっている。

 判断材料となるのは、討伐数と、その魔物の危険度だ。

 簡単に言えば、強い魔物をたくさん狩れば多額の報酬金が手に入る。

 

 中心部に進んで行くグループの狙いは、危険度の高いモンスターを多く狩って多額の報酬金を得ることにあるはずだ。

 

 報酬金なんて関係なしに強い魔物といっぱい戦いたい。

 そう願っているマリアは、もちろん中心部へ進むグループにいた。

 

(早く強い魔物が出て来ないかしら!)


 多くの冒険者が報酬金狙いの中、一人だけ違う目的を持っているマリア。

 このグループの中で、一番生き生きとしていた。

 

 

 中心部に向かうグループの先頭を歩くのは、Bランク冒険者のゴッゾだ。

 胸を堂々と張って大胆に歩いているのに、全く隙を感じさせない。

 

「キエッ!」


 途中、ゴブリンがいきなり襲い掛かってきた。

 

 しかし、ゴッゾは動じない。

 背中のロングソードを鞘から引き抜き、的確に首を斬り飛ばす。最初から最後まで、顔色一つ変えていない。

 

「すげぇ……」

「流石ゴッゾだぜ」


 いっさい無駄のない洗練された動きに、冒険者たちは感嘆の声を上げていた。


 

 グループは中心部の奥へと足を進めていく。

 ある程度深くまで進んだところで、先ほどのゴブリンよりも大きな魔物が現れる。

 

 ゴブリンの上位種である、ホブゴブリンだ。

 

「ひ、ひぃっ……!」


 冒険者の一人から悲鳴が上がった。

 外見やその反応からして、まだ冒険者になり立てといった感じだ。

 大きな魔物を見るのは、これが初めてなのかもしれない。

 

 そして、同じような反応をしている冒険者が、他にも数人いた。

 悲鳴を上げないまでも、かなり怖がっている。

 

 冒険者初心者である彼らは、報酬金目当てで中心部に来たクチだろう。

 

(そんなに怖がるなら、入り口付近のグループにいれば良かったのに)


 心の中でため息を吐く。

 そしてそう思ったのは、マリアだけではなかった。

 

「この程度の雑魚モンスターに臆するとは、まったく情けないな」


 呆れたように言葉を発したのは、先頭にいるゴッゾだった。

 彼はそう言ってから、ゆっくりホブゴブリンに近づいていく。

 

「ハッ!!」


 手にしたロングソードで、ホブゴブリンの体を縦に一刀両断した。

 速度と技術と力の合わさった、素晴らしい剣捌きだ。

 

 ロングソードを鞘に収めたゴッゾは振り返り、冒険者集団に厳しい眼差しを向ける。

 

「見たところ、俺以外は全員初心者のようだな。いいか、忠告してやる。命が惜しければ、全員今のうちに入り口まで引き返せ。ここから先は、俺のような強者でなければ生き残れ――」


 ゴトッ。

 ゴッゾの首から上が背後から断ち切られ、地面に落ちる。

 

 首を失った胴体が、前のめりに倒れた。

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