想い
これは何かの冗談に違いない。人一倍家族想いだったフィンが謀叛を行うなんてあっていいはずがないんだ。
蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられながらも、エピゾの瞳には未だ怒りは宿っていない。寧ろ、涙ぐむその目にはすがるような想いが募っていた。
「ど、うしたんだよ、フィン。何かあるなら俺に」
「……話す事なんか何もない。エピゾ、お前は要らないんだよ。俺の視界から消えろ」
冷めきった声音。鋭い双眸。フィンはエピゾの憂いも存在すらも全て拒絶し跳ね除ける。
胸が苦しい。自分が情けない。様々な感情が心臓を鷲掴みにし強く握りしめる。エピゾは悔しかった。フィンを救えない自分自身を。
「一つ勘違いしているよーだから言っといてやるよ。これは俺が選んだ道だ。俺が選択したんだよ、この国を終わらせるってな」
護衛を殺した刃がエピゾに向けられた。その瞬間、走馬灯のように様々な思い出が脳裏を過ぎる。
「だから、貴様も──死ね」
腕を振り上げ、踏み込み、瞬く間に間合いに入る。
最期が最愛の弟によってとは、力も何もかも劣ってる俺には相応しいのかもしれない。エピゾは心で抱くと、その終わりを静かに受け入れた。
──すまない。
助ける言葉も、救う力も、何もかもが足りなかった。
「エルデ・フォーレンス」
「……飛ばしたな?自分の息子可愛さに」
「飛ばす?何を言ってる。あいつは今しがた追放になったんだよ。つまり、我の息子でもなんでもない。邪魔ゆえに、退場してもらったに過ぎない」