7話 起床
番号振っておいて良かった。
あ、供養中
目を覚ますと見知らぬ天蓋付きのベッドで寝ていた。
「ここは」
と口にして動こうとした時である。
「痛っ!」
全身に針を差し込まれたような痛みが走る。
しかし、その傷みは若かりし頃によく体験したものだったので焦りはあまり無かった。
「筋肉痛なんて十何年ぶりだろうな」
そう呟き、なんとかかんとか体を持ち上げ座る。
傷みのおかげで今の状況は完全に思い出した。
ハロワから出た後、女神に出会って、求婚して要求として破壊神とやらの招来を止めないといけないことになったんだったな。
そして、召喚されたその日にそのまま修練の洞窟に向かいそこで女神から渡された能力の使い方がわかったんだよな。
「詰め込みすぎだろ」
そりゃあ、筋肉痛にもなるよなと一人笑いつつ今の状況を考える。
なんだってまた勇者様なんて呼ばれ方をしているんだか。
青い服の時はなんとも思わなかったが、その他の服ではむず痒くて仕方がない。
と自分の服装を見ると簡素な白い服を着て白いズボンを穿いているだけだった。
確か寝入った時は剣と革製鎧を付けていたはずだが、と部屋を見渡すと部屋の隅に革製鎧が飾るように鎧掛けに掛けられていた。
剣は鎧掛けの近くの壁に立てかけられている。
「とりあえず勇者に戻っておこうか」
『転職勇者』
その言葉を唱えると金の刺繍が施された青い服に薄茶色の服になる。
勇者の『職種』は経験値が無い代わりに動きやすい、鬼人戦以降更に体が軽くなったように感じた。
これが他の『職種』が強くなればなるほど強くなると言うやつなのだろうと修練お洞窟で聞いた話を思い出した。
ふと勇者の装備になった時にあることに気がついた。
「この状態で『見習い騎士』になったら装備って『転職』を使う前の格好になってるよな。 ……多分」
と少々不安になった。
「革製とは言え鎧を置いていくのはまずい気がするし一応確かめておくか」
『転職見習い騎士』
想像した通り起きたときと同じ格好になっていた。
「まあ、そうなるよな」
ため息を吐いて鎧を身に着ける。
革製の鎧なのもあったが、何故か装備方法が思い出すように頭に浮かび上がったおかげで装備し直す手間はあまりなかった。
剣も持ち二度手間になってしまったが勇者に『転職』し直して部屋を出る。
「あ、お目覚めになられましたか」
そう声を掛けてきたのは、まだ若い兵士だ。
「ああ」
「そうですか、おい」
「わかりました」
そう言うともう一人いた兵士が廊下を走っていった。
その行動に首を傾げていると
「使用人を呼びに行かせました。 部屋でお待ちいただいてよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、だが、少し腹が減ったんだが」
「はい、もちろんこれから運んできます」
「そうか」
そう言われればこれと言って他にするべきことも思いつかないのですごすごと客室に戻る。
後ろでカチャリと鎧の音がしたと同時に扉が閉じられたのであった。
しばらくするとガラガラと音が聞こえて扉がノックされる。
「失礼します」という声とともに入ってきたのは燕尾服を身にまとった老人だった。
老人と称するには俺より体幹がしっかりしているので顔を見なければ老人とはわからなかっただろう。
「初めまして、私は執事長をしておりますアンデルセンと申します」
とても綺麗な礼をするアンデルセンさん中々堂に入った礼だ。
少し見入ってしまった。
「ど、どうも」
「料理を準備しますがよろしいでしょうか?」
「は、はい」
「入って下さい」
洗礼された言動にどもった返事をすると燕尾服をまとった老人は扉の方を見て声を掛けた。
すると、開いた扉からメイドが食べ物を載せたワゴンを押してきた。
「勇者様は何か食べれないものはありますか?」
「特にはないな」
「そうですか、では」
燕尾服の老人はメイドに頷くとメイドは客間の机の上に料理を並べていく。
と言ってもそれほど凝ったものでなくサンドイッチだが、それでもいろいろな種類がある。
「こんなに食べれないぞ?」
「はい、残してもらって大丈夫です」
「そうか」
そうして朝の腹ごしらえも終えて食休みを入れる。
食べ終わった後の皿はメイドがかたずけ燕尾服の老人も部屋を出て行った。
至れり尽くせりってやつだな。
もっともこの後、踏んだり蹴ったりになるかもしれんが、そんなことを考えていると扉がノックされる。
「誰だ?」
すると昨日聞きなれた声が聞こえてきた。
「勇者様、入ってもよろしいですかな?」
渋い声で尋ねてきたのはおそらくボールトンさんだろう。
「ああ、……入ってください」
「失礼する」
そう言って入ってきたボールトンさん後ろには兵士が数人いた。
「どうしたんですか?」
「次の予定が決まりましてな」
「そうか、次はどこに行く予定なんですか?」
「次は、迷わずの森と呼ばれる場所ですな」
「迷わず?」
そこは普通迷いの森だろうよ。
「ええ、たいてい歴代の勇者様はそこを気になされますな」
「そらそうだろうよ迷わない森ってただの森ですよね?」
「いいえ、迷うことができないと言った方が正しいですな」
「ほう? どういうことですか?」
「簡単に申しますと森の奥にある遺跡に続く道から外れることができないということですな」
「要するに森に入れないってことですか?」
「正確ではないがまあそういうことですな」
ボールトンさんは、俺の質問に首肯する。
「つまり、その森の奥の遺跡っていうのが今回の目的地ってことですね?」
「理解が速くて助かりますな」
「そこには何が?」
「歴代の勇者様たちはそれぞれ専用の武器を手に入れていましたな」
「専用? 勇者専用の武器を取りに行くってことか?」
「そうですな。
それぞれの勇者様に合った専用武器を手に入れることが出来るそうですぞ」
「それぞれの勇者に合った武器ってことは、……どういうことだ?」
ダメだ、意味がわからん。
「それもそうでしょうなまだ、そこのところの説明もしていないですからな。
それも含めて広間にて王より説明がされますからどうぞ広間までお越しくだされ」
「わかった」
それを言いに来たのか。
それならそうと言えばいいのに、ああ、俺が質問したからか。