5話 修練の洞窟、帰り
せっさくよう
洞窟に入り試練が終わり帰るところである。
剣を振るうのにもある程度慣れたが未熟さが否が応でも認識させられる。
ただ、そんな未熟者が振るう剣でも小鬼共は簡単に屠れるが、
「ゲギャッ!」
「くそっ、多いな!」
「そうですな」
「私達が付いていますので無理をしすぎないようにしてくだい勇者様」
行きよりも小鬼どもが多い。
それに小鬼どもの役割分担ができている。
小鬼がそれぞれ剣、槍、弓、杖、を持っていて、しかも杖を持っている小鬼は魔法を放ってくる。
幸いなことに前衛の小鬼が弱いのであっさり突破できることか。
しかし、俺はこんなところで何をやっているんだろうか。
さっきまでは服が変わっていたのでまるで操られるかのように何となく流れに沿っていたが、今はスーツ姿である。
スーツ姿で鏡の間から出てきたことを疑問に思われたが、俺の世界の正装であることを告げると納得された。
自分が覚醒した能力、換装能力と説明した能力で発現した服であることも伝えている。
勇者の服とは違い自分のスーツに返り血がかかったとしたらキレイにするならどれくらい苦労するだろうか。
クリーニングでどうにかできるかなんてどうでもいいこと考えがよぎるが、そもそもクリーニングができるかどうかなんかよりもこの醜い小鬼に殺されるかもしれないことを考えるとそんな小さいことは気にせず戦わざるおえなかった。
ああ、服を換装は出来たら良かったのだが、どうも服の方は、換装出来なさそうだ残念。
他にも問題点はある。
元の世界で着ていた服に戻ったと同時に現実味が出てきたせいか自分の立ち位置に疑問が浮きあがった。
疑問が浮き上がったとはいえ、結局、何をするにしても修練の洞窟だけはひとまず抜けないといけないそんなふうに考えながら来た路を戻っていく。
小鬼どもは強くなったようだが、さっきから自分の力が膨らんでいくような感覚が出てきている。
おそらく、これがレベルアップなのだろう。
とりあえず小鬼どもの武器を拾っては『武器転』で使えるようにしていく。
「それが勇者様の能力ですね」
「はい、武器と装備を切り替えることができます」
換装能力便利だよな。
ある一種の四次元収納のような便利さがある。
収納できるのがどの程度かわからない部分が多いが、少なくとも武器に関してはかなりの数をストックしておくことが可能なようだ。
「ほう、武器を持たずとも所持できるのは大きいですな」
さすがボールトンさんわかってるね。
「メイスも隠して持っておくことができそうです」
シスターが武器を隠し持つって……。
まあ、隠し武器って言うのは強力なのは確かだ。
そうやって行きとは違うモンスターたちが出てきていたのでもしかしてと思うと、やはり行きは小鬼のみだったのに帰りは大子鬼や犬人、はては豚人まで出てきたのである。
大子鬼や犬人は、五匹から六匹、豚人は、だいたい三匹ずつぐらいで行動しているようだ。
ただし、不自然なほどに遭遇が被らないのは気になるな。
ちなみに遭遇した魔物はボールトンさんはおろかシスターエリアですら楽々と倒していくので少し驚いてしまった。
シスターエリアはどれだけ強いのだろうか?
まあ、強いのはわかっていたがシスターが無双する姿を見て驚かない人はいないと思う。
かくいう俺は換装能力、もとい『万能職種』の『武器転』を駆使して、拾った武器を投げてみたり急に武器を変えてみたりと、色々試しているところであった。
「ほう、思った以上に強い能力ですな!」
「意外と応用の範囲が多そうですね」
と二人も驚いていた。
この世界でこの能力がどれほどすごいかわからないけど、兎に角すごい能力だということだけはわかった。
「毎回こんな感じなんですか?」
「そうですな」
「はい、毎回行きは小鬼のみで帰りは色々出てくるようになってます」
「ふうん、そう言えば倒した魔物の素材の剥ぎ取りはしなくていいんですか?」
「それは、粘液生物のせいで出来ないんですよ」
「出来ない?」
「素材を剥ぎ取ると途中で粘液生物に阻まれて素材を服ごと溶かされるのです」
何そのラブコメハプニング的な攻撃は
「まあ、確認に来る人はだいたい男なので今のところ女性では被害がないようですな」
ふうん、シスターエリアの服が溶けた姿とか見てみたい気がするけどな。
シスターの方を見てると怪訝な目を向けられたのでボールトンさんの方に視線を向ける。
あと、最初に襲われた人は悲惨だな。
服だけ溶かされるとか普通わからないからな。
まあ、まるごと溶かされるよりはマシか。
「そう言えばボールトンさんの鎧も溶かすんですか?」
「そうですな」
「鉄をも溶かすとは、……そう言えば武器とかって持ってきちゃいましたけど大丈夫なんですか?」
「そうですな、そ」
「その点は大丈夫です。 修練の洞窟に出る前に粘液生物の壁に阻まれますが、壁に武器を渡せば壁はなくなります」
粘液生物がこのダンジョンの重要な存在だということはわかった。
「もうそろそろ出口ですが」
「………そうですな」
なんだ?
ボールトンさんさっきからそうですなしか言ってないような……いや、そんなことよりもシスターエリアのセリフはボスフラグか?
「なんですか?」
「最後に鬼人が出てくるんです」
「鬼人ですか」
「はい、豚人五匹相手にするより厄介です」
……さっきの無双を見ているので大したことがない風に思えるな。
「死ぬ可能性も出てくるので気を付けてください」
「といっても攻撃を食らわなければどうということはないですな」
ボールトンさん……。
「わかりました。 気を引き締めて行きます」
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「ガアアア!」
そして、鬼人と遭遇するわけだが、若干認識が甘かったと言う他ないな。
まず、相手は一体なのだがこん棒による攻撃範囲が広く数の有利を活かせない。
俺が投げる小鬼たちが使っていた武器は全く歯が立たない。
シスターエリアとボールトンさんが着実にダメージを重ねているのはいいのだが、このままでは立つ瀬がない。
まあ、ある程度動きを鈍らしているようなので、落ち着いてできることをしていこうか。
『転職勇者』
すっぴんから勇者に『転職』をしてショートソードを構える。
ジョブチェンジしたときに感じたのは体が軽くなったということだ。
どうやらすっぴんより大幅に身体能力が向上しているようだった。
しかし、この『職種』経験値が貯まらないのだ。
ひとまず戦線に加わり鬼人の攻撃を潜り抜けながら切り傷を与えていく。
ボールトンさんとシスターエリアは連携していたのは分かっていたが、あまりにも俺がふがいなさすぎる。
このまま終わるわけにはいかないと奮起して戦いに戻るわけなのだが、しばらくして致命的な失敗をする。
鬼人がフェイントをかけてきたのだ。
俺は、しっかりとフェイントに引っかかり吹き飛ばされた。
「グッ」
攻撃は剣で防いだものの剣がこん棒に食い込んだまま持っていかれてしまった。
足手まといも甚だしいな、俺……。
「勇者様!」
「むう!」
そう言ってシスターエリアが駆けて来る。
鬼人のほうはボールトンさんだけで十分戦いになっているので本当足手まといでしかなかったな。
「す、すみません」
「回復魔法をかけます」『治療』
体の痛みが抜けていく。
「大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう。 全く不甲斐ないです」
「気を病まないで下さい。 鬼人との戦いは、一般兵士でも大変なのです」
「そう言ってもらうと助かります」
しかし、あの攻撃を食らって大丈夫なこの体がすごいな車に跳ね飛ばされたような感じだったのに。
『新職種解放『見習い騎士』の職種が解放されました』
ん? 新職種?
「どうかしましたか?」
「いや、どうやら新しい力が手に入ったようだ」
「本当ですか!?」
ひとまず立ち上がり念じる。
『転職見習い騎士』
すると服装がレザーアーマーになっていた。
レザーアーマーのところどころに青い装飾がついているので冒険者の武骨な装備というよりは確かに騎士よりの装備だった。
まあ、あくまでそう感じただけなあのだが、
そして、手にはボールトンさんと同じぐらいの大きさの剣、騎士剣が収まっていた。
「なるほど、こんな感じで増やしていくのか?」
条件がわからないがともかく何か条件を満たせば新しい『職種』が解放されるようだ。
体は勇者の時より重たいが、しかしショートソードよりも大きくて重いであろう騎士剣がとても軽く感じる。
もしやと思い、残っていた小鬼の武器を『武器転』で投げつけてみると剣が鬼人の頭に突き刺さる。
……うん、強いな。
これ『騎士』の職種ならどうなるのか考えると年甲斐もなくワクワクしてしまう。
「ほえ」
「ほう!」
「ガア!」
三者三様の反応ありがとうございます。
ちなみに今の一撃で鬼人の完全に意識がこちらに向く。
眼が怒りで血走っているのがよく分かる。
「少々、儂を侮りすぎじゃ」『一閃』
ボールトンさんにとっては完全無防備に見えたらしく騎士剣を大きく振る。
するとあら不思議さっきまで体の表層で止まっていた騎士剣が、鬼人の腹を切り裂いてしまった。
「グゴオ!」
鬼人の腹から血が流れ出て来る。
ちなみにではあるが、すでに鬼人は全身血だらけなのだがさっきの一撃はとりわけ大きかったようだ。
しかし、鬼人は攻撃を受けたことを無視してこちらに突撃してくる。
頭から突っ込んでくるところを見ると牛にしか見えない。
「グガアアアアア」
ひとまず騎士剣を取り出し構える。
そう言えば盾がないのな、まあ、この騎士剣でも十分に突撃を受け止めることができそうな気がする。
「「勇者様!」」
シスターエリアとボールトンさんの声が重なる。
その直後騎士剣にかなりの重量の衝撃が奔る。
突進に押し込まれ押し込まれるが、耐えられないほどではない。
豚人3体分の力ぐらいまでなら大丈夫と思ったが、やはり想像通り鬼人の動きを止めた。
弱っている事は影響していないと言えば嘘だろうけれどな。
「フッ!」
止まったところで鬼人の力を横に流してそして倒れたところで鬼人が首を飛ばす。
「ほう、さすが勇者様ですな」
ボールトンさんは剣を鞘に戻して誉めてくれた。
「これで、勇者様の最初の修練は終わりですね」
シスターエリアは不穏なことを口にした。
「最初のですか?」
「はい、勇者様にはこれから徐々にレベルを上げていってもらいます。
そして魔族との戦いに備えて覚醒の祠にて完全に勇者になってもらいます」
「完全に?」
「はい、勇者様の最後の力が祠に封印されておりその力を得ることで魔王を倒すことができると伝えられております」
「魔王か、破壊神を召喚するのを防ぐためにはその魔王とやらを倒せばいいのか?」
「破壊神ですか? 初めて聞きますね。 ボールトン様は何かご存知ですか?」
「いや、知らぬな。 勇者様どこでそれを?」
「女神さまからだ」
「ほう!」
「それは! 本当ですか?」
「はい」
「あとで詳しく教えて頂けますか?」
「もちろん」
どうやら勇者と魔王とやらはしょっちゅう戦っているのに今まで一度も破壊神が出てきたことがないのか。
歴代の勇者とやらが黙っていたのかそれとも今回が特別なのか。
……そういえば、俺は惚れたからいいものの他の人はどうやって説得したんだあの女神さまは?