4話 鏡の間
拙作供養中
ある程度進むと重厚な金属でできた扉が目に入った。
おそらくあの中に何かがあるんだろう。
「着きましたな」
「はい、鏡の間に着きました」
「鏡の間?」
そう言って首を傾げつつ、金属の扉の装飾を観察する。
金属の扉の装飾は左右対称になっていた。
左右にそれぞれ人が上から剣、槍、弓、杖の順番で四人、左右の扉を合わせて八人が向かい合っている。
向かい合っているのはそれぞれが同じ武器の者同士だ。
扉の装飾に鏡の間。
なるほどこの試練は自分との戦いになると予想するのはさして難しくなかった。
「自分との戦いですか」
「はい、さすが勇者様よくお分かりになられましたね」
シスターエリーが答えてくれる。
「では、勇者様扉を開けてください」
ん?
「ボールトンさんじゃダメなのか?」
「無理ですな」
「勇者のみ開けることのできる扉です」
なんか怖いが、まあいい。
「では開けます」
そう言って扉に近づき右手をあてる。
取っ手が無いので押すのかと思ったが、手で触れた途端に金属の扉は左右に開いていく。
まさかのスライド式。
まあ、ともかく、中には何もなかった。
大きな部屋があるだけだ。
「では、勇者様、ここから先は一人でお進みください」
マジか。
「わかった」
「ご武運を祈りますぞ」
「アドナイの加護があらんことを」
女神様の名前広まってるのね。
ふう、気を取り直して行きましょうか。
レッツ&ゴー
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前の世界では味わったことのない戦闘が目の前で繰り広げられている。
奇しくは戦っているのが自分だという事か。
目の前には青い服装のナイスミドルが相対している。
ぶっちゃけ自分である。
なんで自分と戦っているかなどわかったことではあるのだが、どうもさっきから自分より戦い慣れているように感じる。
シスターエリアのメイスを使った連撃とボールトンさんの騎士剣による一撃を武器を 切り替えて再現してくる。
まあ、所詮は自分で放っている技なのかシスターエリアやボールトンさんほどの威力やキレがあるわけではない。
あくまで自分との戦いであるらしい。
自分と瓜二つの人物と戦っているその原因は彼の後ろにある鏡にあった。
楕円形の鏡で鏡の周りには装飾が施されている。
今戦っているこの部屋には、シスターエリアやボールトンさんはいない。
この戦い勇者のための『修練』でありこの戦いのみ自分一人の力で切り抜けなければならない。
相手は自分の力を十全に使ってくる強敵だ。
しかし、それと同時に自分の最適な動きを習得することが出来る。
相手がすることは自分でもできることなのだ。
最適化をして成長せしめれば勝てる。
とかなんとか思いつつ剣戟を繰り返し続け自分の動きを最適化し相手の一撃が読めた時、相手の剣を跳ね飛ばしてこちらの剣を写し身の自分に向ける。
『お見事じゃ! 新たなる勇者よ』
剣を弾かれた拍子に尻もちをついた目の前の自分がそう言って立ち上がる。
「お前は?」
『儂はカガミじゃ』
「鏡? そのままじゃねえか」
『よく言われるわい』
なるほど、歴代の勇者もこのカガミと戦ってきたのか。
「武器の切り替えとかどうやってたんだよ」
少し、いや、かなりずるい。
因みに勝ったとか思ってはいない、あくまで修練なのだ。
相手はオレの手札を気づいていない分まで使っていたが、手を抜いて戦ってくれたのだ。
じゃなかったら同じ自分とは言え瞬殺だっただろう。
おそらく『万能職種』を使っていたのは想像がつくが、
『ふむ、聞かずともわかっておろうに』
「ああ、けど使い方がわからん」
『心のなかで『転職』と唱えればいい』
「……転職、ねえ」
転職を失敗した人にとってはなんともいい難い能力だな……。
まあ、いい『転職』!
『現在使える職種はすっぴんのみとなります『転職』しますか?』
脳に直接声が聞こえてくる。感覚的にはヘッドホンを付けてそこから声が聞こえているような感じだ。 ヘッドホンを押さえつけると尚近い。
まあ、はいと答えるしか無いのではいだ。
『ではすっぴんに『転職』します』
その声が聴こえると服が変わった。
あれだ、あの広間に呼ばれる前、女神の前までこの姿だったな。
まあ、魔法少女みたいに変身とかよりはましか。
因みに持っていた武器もなくなっている。
「これは」
『心配せずともさっきと同じようにしてみるが良い』
「む」
『転職』
『現在使える職種は勇者のみとなります『転職』しますか?』
イエスだ。
『では勇者に『転職』します』
そういう声が頭に響いた時点でもとの服装に戻っている。
「なるほど、けどさっきカガミがやっていた武器変更はどうすればいい?」
『『武器転』と唱えれば良い』
『武器転』
『現在使える武器は素手のみとなります『武器転』しますか?』
はい、ここまででなんとなくわかってきたな
『では素手に『武器転』します』
持っていた武器が消えた。 ショートソードの感覚がなくなった手を見る。
まあ、おそらく
『武器転』
『現在使える武器はショートソードのみとなります『武器転』しますか?』
はいだ。
少し面倒だな。
ショートソードが現れそれを握った。
「で、何であんなにくるくる武器を変えれてたんだ?」
今のやり取りでわざわざハイかイイエか答えるのでは戦闘中のあの『武器転』は出来ないはずだ。
『ほう、なかなか鋭いのう、あれは『武器転』の後に武器の名を唱えればいいんじゃよ』
さっきからジジイ言葉でしゃべっているのは俺の姿をしているためなんとも複雑な気分だ。
しかし、なるほどね『武器転素手』
さっきの問答無く即座に素手になる。
なるほどね。
「そう言えば、この修練の洞窟ってレベル上げのためにもあるんだろう?」
『その通りじゃ』
「俺のレベルが上っているかどうかってわかるか?」
カガミは俺のことなら全てわかっているようだったので一応聞いてみた。
『もちろん、現在ソナタのレベルは1じゃ』
「……まじか」
『まじじゃ』
「で、レベルを上げる方法とかわかるか?」
『ソナタの場合は勇者以外で戦うことじゃ』
なるほどね。
「注意点とかはあるか?」
『あるぞ、まず勇者とすっぴんは関係ないがその他の職種には装備制限と言うものがあるんじゃ』
「……まじか」
『ああ、騎士になれば杖を持てない、魔術師になれば剣を握れないんじゃ』
なるほど、不思議だな、よりゲームらしい。
『そして職種ごとに筋力や魔力に補正がかかり増えたりへったりするんじゃ』
もはや、ゲームの中と言われても大いに納得するしかねえよな。
『因みに勇者は他の職種が強くなればなるほど強化されるんじゃ』
面倒なシステムだな。
直接勇者を強化させてくれれば良いものを
『武器にも熟練度が存在する。 これはジョブ全体で共有じゃ』
「ほう、それは勇者も含めるのか」
『そうじゃ、後、魔法についても同じじゃ』
「ふむそれならできるだけ武器と魔法は統一したほうがいいのか」
『否、そうとはいい切れんのじゃよ。 熟練度によって他の武器の熟練度も底上げされるからの』
「まあ、要するに勇者以外で戦えばいいだけの話だな」
『うむ端的に言えばそうじゃ』
「なるほど、ありがとう」
つまりここまで来るまで完全に戦闘が無駄になったということか……いや、武器の熟練度は上がっているのか。
まあ、兎に角、能力の使い方がわかっただけで十分だ。
あとボールトンさんの剣とエリアのメイスに切り替えていた理由は相手はこの洞窟にある装備を使うことができるという事だった。
もちろんゴブリンの装備も。
反則臭いがまあ、強くなれたし能力の使い方も分かったしよしとしよう。
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鏡の間から出るとシスターエリアと騎士のボールトンさんが待っていた。
「無事、修練を終えたようですな」
「はい、おかげさまで」
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫です」
そういえば結局怪我すらしなかったな。
武器で戦っていたのが嘘のようだ。
「歴代の勇者も入って能力を使えるようになったんだな」
「その通りですなあ」
「はい、歴代の勇者もこの修練を超えて能力を使えるようになったと伝えられています」
なるほどねえ、やはりゲームにおけるチュートリアルに当たるものだな。
で、帰りが本番ということかな?
行きはよいよい帰りが怖いってね。
じゃなかったら行きでボールトンさんだけでも過剰戦力だったんだ。
さて、どんな奴が待ち受けているのやら。