2話 勇者と騎士と修道女と
真っ白な光がまぶしかったので目を閉じていると徐々に光がマシになってきた。
「おお! 召喚に成功したぞ!」
という声が聞こえたので目を開けるとそこは大広間になっていた。
自分を囲むように幾何学模様が刻まれている。
そして、間が均等になるように六人のフードをかぶった人が自分が立つ模様の周りを囲むように立っていた。
声を上げていた人は正面の王冠を頭に乗せた人物だった。
玉座の前に立っていることも併せて考えると間違いなく王様だろう。
たっぷり蓄えられている髭が存在感と威光を放っている。
ふと、自分の腕の感触が変わっていること気づき何かと腕を見てみると青い袖が目に入る、そして自分の服を見直すといつの間にか服装が変わっていたことに気づく。
青を基調とした簡素な服装で、襟と袖口と裾の部分に金色の刺繍が施されている。
どこか民族衣装を彷彿とさせる服だ。
ズボンは簡素な作りで薄めの茶色のものだった。
「勇者様、どうか私達の国ルストレアの窮地を救ってくれまいか」
王様がそうたずねてくる。
だから、呼び出しといて助けてくれと言っていいえと答えても意味が無い。
はいオアイエスだ。
いいえと答えようがない。
答えてもろくなことになりそうにない。
しかし、はいなりイエスなり答える前に、いくつか聞かなければならないことがある。
「その前にいくつか質問に答えてくれないか?」
「うむ、私に答えることができることは何でも答えよう」
ひとまず目の前の人物は、アグニス・ホーリー・ルストレアという名前の国王だそうだ。
続いて状況確認の質問をして答えてもらったことは女神が言っていた通りの状況だった。
細かい情報がいくつかあるが、ひとまず俺が戦線に立つのはすぐではないらしい。
「レベルアップ?」
「そうだ、この世界にはそなたたちの世界にはないレベルという概念が存在する。ひとまずはこのレベルを上げるための修行をしてもらう」
魔物と戦うことによって、急激に強くなることは知られていたが、それの理由を突き止めたのが勇者だという事らしい。
そして、そのレベルを上げない事には勇者といえども簡単に死んでしまうという事だった。
「そのレベルはどうやってわかるのか?」
「この石板に手をかざしてくれ」
王様が向かって右を指差したのでそちらを見ると、修道服を着た女性が石板を抱えていた。
石板は、幅5センチ、縦30センチ、横20センチほどの長方形ので20センチの一辺が丸く盛り上がったようになっている。
石板の中央に手形のような凹みがあり、そこに手を置くことによってレベルを検知するのだろうと推測できた。
「では、こちらに手を」
シスターさんが近くまで来てそういったので言われたとおりに手形に手を置く。
変化はすぐに表れた。
石板の一部、手形のすぐ上の部分が光り、そこにアラビア数字の1が表示された。
「勇者様のレベルは現在1レベルという事を示しております」
……なんていうかゲームの世界にでも入った気分になるな。
とりあえず王様の要請には、はいと返事をしてこれからどうするかを尋ねると
「ひとまず勇者様にはレベルを上げてもらうために『修練の洞窟』に入ってもらいます。 歴代の勇者様たちもこの洞窟で戦う力を鍛えてから魔族討伐に向かわれ功績を上げられました」
と答えてくれた。
RPGでお馴染みのレベル上げか。
「装備を用意しておりますので入り口に立っているの騎士についていってください。 名前はボールトン、ボールトン=スティングウェイという者です」
王様がそう言って指をこちらに指すので後ろを振り返ると大広間の入り口に立っている筋骨隆々の男が会釈する。
「よろしくボールトンさん」
「よろしく勇者様、こちらへどうぞ」
そう言われ、王様に会釈すると騎士に付いて行く。
修練の洞窟に着いて洞窟の入り口を見たときに受けた第一印象は、神殿である。
神殿と思わせる彫刻が洞窟の入り口に施されているが、ひと目見ただけで昔からのものであると判断できるほど風化が進行している。
洞窟自体掘られて出来たものと言うよりは作られたものにしか見えない。
床が石畳で天井と壁も石を組んで作ってあることも手伝って、ただの一本道の廊下にしか見えない。
騎士に聞いた話では、女神アドナイが作ったものだそうだ。
神殿と言う雰囲気は、入り口に立つシスターたちも一役になっている。
召喚された大広間から一歩も外に出ずに修練の入り口まで着いたので、修練の洞窟の入口は建物の中にあるわけだ。
てっきり洞窟というと外にあると思っていたので思ったより歩かずにすんで安堵した。
しかし、レベルアップということは、それ相応の『敵』が存在するはずなので気を引き締めないといけないな。
「勇者様、こちらをお持ちくだされ」
ボールトンの横には、シスターがいてショートソードをこちらに差し出している。
受け取って鞘から抜くと刀身、いや剣身に自分の顔が映り込んだ。
「これで戦うのか?」
誰に尋ねるでもなく呟いた疑問にシスターが
「勇者様が他に武器をお持ちでしたら要らないかもしれませんが、お持ちで無いのならその剣をお使い下さい。
名匠が造った剣なので不足は無いと思います」
「あ、ありがとう」
「いえ」
シスターの微笑みに癒やされるが、この剣実はかなり高かったりするのか?
そう思うと冷や汗が……。
「武器を受け取りましたかな? それでは勇者様、行きますぞ」
ボールトンは、武器を受け取ったことを確認すると洞窟に歩を進める。
「二人で入るのか?」
「いえ、この洞窟の敵は私の敵ではないので、もし囲まれても守り通すことが出来ますが、もしもの時のためにシスターエリアにも付いてきてもらうことになっておりますぞ」
そう言って騎士は、シスターの方に顔を向ける。
何所までついてくるんだろうと思っていたシスターは、どうやら自分のお守りの一人だったらしい。
シスターを見るとシスターは微笑む。
「わかった、よろしく頼む」
「はい」
「うむ」
シスターエリアはおしとやかに騎士は鷹揚に答えたのであった。