16話 更なる新職種
くくくくくく、ヨウッ!
『新職種解放『見習い調教師』の職種が解放されました』
『新職種解放『見習い治癒師』の職種が解放されました』
は?
思ってもみなかった新職種の解放に驚く。
この短期間に三つ、しかも二つは同時に条件を達成したようだ。
いや、そんなことを考えている場合じゃ無い取り敢えず。
『転職見習い治癒師』
すると頭に魔法名が浮かび上がる。
『祈るは小さくとも真なる想い。
癒しを『未熟な治癒』』
淡い光がフォレストウルフを包むするとフォレストウルフは、立ち上がりこちらの顔を舐めてくる。
「待て待て、まだゴブリンがいるかもしれない」
懐いてくるフォレストウルフを抑えて洞窟の方を見ると中から炎が吹き出してきた。
ヘイル君が何かやらかしたのかと思ったが、中から出てきたのは、冒険者っぽい格好の女性だった。
女性は、ヘイル君と少し話した後こちらへ向かって来る。
「貴方が新人の冒険者ね?」
「あ、はい」
「なら丁度良いわ、私が貴方の師匠になってあげる」
突然の申し出に首を傾げる。
「あの、どちら様ですか?」
「え? ああ、失礼、私の名前はエ、リス、エリスです」
「エリスさんですか。
よろしくお願いします」
「しかし、その格好はどうされたんですか?」
エリスに言われて自分の格好を見る。
確かに鉄火場には合わないゆったりとしたローブを着用している状態なので、現場を馬鹿にしているのかと言われてもおかしくは無い。
「ああ、済みません少し必要でしたので」
『転職見習い調教師』
せっかくなので見習い調教師の能力も確認する。
エリスは、驚いたようで絶句している。
『新しくテイムされた生物に名前を付けて下さい』
脳内にアナウンスが響き渡る。
目の前のフォレストウルフと目が合う。
「名前か、ルーナでどうだ?」
フォレストウルフは気に入ったようで顔を舐めてきた。
「その見た目でその獣の懐柔する能力。
まるで調教師のようですね」
ギクリと体を震わせる。
別にばれても問題は無いのだが、後ろめたい気分になる。
「調教師、なるほどこの力はそういう名前かもしれないな」
取り敢えず惚けることにする。
こんなところで手札の開示は良くない。
出来るだけ有効に使いたいのだ。
「ゆ、旦那、敵は片付いたようです」
ヘイル君は、俺が勇者であることを隠すつもりのようだ。
ならこちらもそれに乗ろう。
「ああ、分かった。
一応、洞窟の中も確認した方が良いと思うが」
エリスを見るとエリスは首を振る。
「やめておけ見ても愉快な物はないぞ?」
「中で何があったんですか?」
「ゴブリンの標的は、人間だけでは無いと言うことだ」
エリスの言葉の意味が一瞬分からなかったが、直ぐに思い至る。
俺は思わずルーナの頭を撫でる。
「そうか。
そういうことなら見ないでおこう」
今のルーナから離れるのは良くないだろう。
「賢明な判断だ」
「んー、しかし、弱ったな。
これではフォレストウルフの討伐依頼が達成できない」
「それなら代替措置を願えば良いわよ」
「代替措置?」
「ええ、こういったイレギュラーで標的が他の脅威により排除されていた場合、ギルドで証言してそれが真実だと確認されればクエストはクリア扱いになるわ」
「なるほど」
それは、とても凄いことなのでは?
と叫びそうになるが、既にあの水晶をみた手前それが不可能だとは思わない。
「ゴブリンとホブゴブリンの討伐だが、3人で共同で倒したと報告しようと思うがいいかしら?」
「何故だ?」
「フォレストウルフが既に対処されていたことの証明も簡単になるし報告も一括でできるわ。
報酬は、応相談ってことでどうかしら?」
「まあ、大まかにで良いが、誰が一番報酬が多い?」
「勿論、ホブゴブリンを2体倒した貴方よ」
「そ、そうか、それなら」
宿代と食事代に困らなそうだ。
いや、ヘイル君に頼めば用意はしてくれるのだが、年下に奢られるのは抵抗感があったのだ。
「次にヘイル、そして、私よ」
「いいのか?
洞窟にもっと強そうな奴がいたと思うんだが」
「あら、そう思う根拠は?」
「ホブゴブリンは確かに強いが、フォレストウルフの巣を壊滅させるほどの存在じゃなかった。
もっと強い奴がいたのならあのホブゴブリン達もそこまで傷を負ってなかったのも頷ける」
「そうね。
でも中には強い奴はいなかった。
中を掃討してきた私が言うのだから間違いないわ」
「……そこまで言うのならそういうことにしといて貰うか」
「ええ、誰も損しないからいいでしょ?」
「は、はい」
ヘイル君が返事するが緊張しているのか?
「ヘイル、こちらの冒険者の女性は有名な方なのか?」
「え?」
「いや、君が緊張しているくらいだ。
緊張する理由があるとすれば君の上司かあるいは有名人かぐらいだろう?
あるいは警戒すべき相手か」
ギクリと反応を見せるヘイル君、君、分かりやすすぎやしないか?
等と思いつつも考える。
少なくともヘイル君が知る人物であることに違いない。
そしてヘイル君は警戒心を抱いていない。
であれば、必然俺が警戒する意味も無いわけだ。
「ちょっとまって、私は」
「待て待て、別に怪しんでる訳じゃない。
ちょっと気になっただけだ」
焦燥を滲ませる女性に落ち着くような口調で話す。
……いや、いくら何でも分かりすぎる。
他人の考えている事をこんなに把握したのは初めてだ。
と言うことは、考えられる理由は一つ。
新職種、見習い調教師。
これ対人においてかなり使えるな。