15話 新職の試用
くやう
結論から言えば、見習い冒険者は、探索に適切なスキルを適応してくれているようだ。
昨日のゴブリンがフォレストウルフに襲われた場所まで迷い無く来る事が出来た。
昔、ちょっとした雑木林で迷ったことがある我が身においてはとても凄いことだと実感できる。
「ここは、昨日の……なるほど、既に標的に見当を付けていたのですね」
「ああ、そうだな、持ち上げてくれるのは嬉しいが、ここから先は静かに頼む」
「分かりました!」
……ヘイル君。
……まあ、信じよう。
目が良くなったように昨日の形跡がよく分かる。
ゴブリン程の大きさの足跡と狼の足跡と争った形跡だ。
狼達は、森の奥に行ったようだ。
ここが、狼達の縄張りであるならば、ここに再び現れる可能性が高いが、出来れば今日中に見つけて、報酬を手に入れたい。
「さて、追跡するか」
まあ、この痕跡を追えば、フォレストウルフの巣にたどり着くだろう。
「流石勇者様、獣の痕跡が分かるのですね!」
……ヘイル君、……本当に分かっているのか?
森を抜け洞窟が見えてきた。
どうやらフォレストウルフ達は、あそこを根城としているようだ。
「まさか、未発見のダンジョンですか?」
ヘイル君が興奮気味に言う。
「さあ、だが、ここからは足音すら気をつけた方が良い。
話すなんて持っての他だ」
「は、はい…」
しょんぼり気味に返事をするヘイル君。
狼の感覚を考えるとここに来た時点でばれてると考えても良いのだが、少々静か過ぎるな。
遠吠えの一つも聞こえないのは少々気になる。
そして、ここまでフォレストウルフの1匹も見なかった事も気になる。
俺の世界の狼と大きく習性が変わらないのであれば、この近辺をパトロールしているフォレストウルフとかち合うはずなんだが……。
そんなことを考えていると洞窟から1匹のフォレストウルフがヨロヨロと出てきた。
「何があったか分からないですがチャンスですよ勇者様」
小さな声で話してくれるのは結構だが、狼には丸聞こえのようでこちらに警戒心を向ける。
しかし、後から気味が悪い笑い声を上げて、ゴブリンが出てくる。
そのゴブリンは、見るからに巨体だった。
ゴブリンと比べてという前提だが、普通の人よりは大きい。
それに大きい気の棍棒を手に持っている。
「ホブゴブリン!?」
「ゴブリンの亜種か?」
「ええ、ゴブリンの進化種族と呼ばれる存在です」
「そうか。『武器転短剣』」
俺は投擲用のナイフを取り出す。
そして、ホブゴブリンが武器を構えたところに投げつける。
ホブゴブリンは、咄嗟に身を躱してナイフを避ける。
しかし、完全には避けられなかったようで深く顔に傷を負っている。
「良い反応だ。
困ったな」
ゴブリンなら今の一撃で十分に倒せたのだが、視野が広い上に反応も良い。
『転職見習い騎士』
「勇者様、私も参戦いたします」
「そうだな、洞窟の方を警戒してくれまだゴブリンが出てくる可能性がある」
「はい!」
洗礼された動きで抜剣するヘイル君。
構えも中々堂に入っている。
結構強いのか?
まあ、そんなことを気にするのは後だ。
今は目の前の敵を倒さねば。
先のナイフの一撃でこちらに標的を向けたホブゴブリンが此方に向かって来る。
俺は冷静に見習い騎士の初期装備の剣でホブゴブリンの一撃を受け止める。
そして剣を傾けホブゴブリンの棍棒を流すと相手の体勢が崩れる。
そこに剣を振り上げそして振り下ろす。
そこであっさりとホブゴブリンの首が飛ぶ。
ホッと一息入れて洞窟の方を見るともう一体のホブゴブリンがこちらを見ていた。
そしてホブゴブリン怒号を上げる。
そして、俺は焦る。
今の怒号で中からゴブリン共が出てくる可能性がある。
経験値がもったいないが出し惜しみして、ジリ貧になるよりはましだ。
『転職勇者』
転職したときに体が軽くなる。
しかし、剣の重さは変わらないので、矢張りそれぞれの能力の良いところを持っている状態と考えて良いな。
俺は一気に踏み込みホブゴブリンの目の前に迫る。
ホブゴブリンは、驚き慌てて持っている剣で防御する。
「やはり、力押しが出来るな」
押し込んで少しずつホブゴブリンの剣が沈む。
そこで俺はあえて剣を引く。
するとホブゴブリンは反動で剣が流れ体勢を崩す。
そこにもう一度剣を振り下ろす。
そして、ホブゴブリンの頭をかち割る。
「よし」
一息ついてヘイル君の方を見ると数匹のゴブリンの死体が見えた。
更に三匹ほどのゴブリンと戦っているが危なげなく対処している。
俺は、ぐったりしているフォレストウルフの方へ向かう。
本来なら討伐対象なのだが、1匹倒したところで意味がないし何より可哀想だ。
こちらを警戒しているフォレストウルフ。
『転武器素手』
なのでまず武器を収納しフォレストウルフに近寄る。
取り敢えず近づけはしたが、ここからどうすべきか……。
俺は、その狼を舐める。
正直どんな病気になるか、可能性があるかも分からんが、抵抗感は全く無かった。