14話 宿と新職種
供を養うと書いて供養……だからどうした。
ブルスティアに戻ると冒険者ギルドは、冒険者でいっぱいだった。
「あー、なるほどこのタイミングで来るとこうなっているのか」
ちょっと考えれば分かることだが、依頼を終えた冒険者がこの時間に帰ってきやすいので混雑している。
「せっかくですから宿を取りに行きますか」
ヘイルの言葉を聞いて絶句する。
「え?
宿とってなかったのか?」
「ええ」
「あちゃー」
「どうされましたか?」
「宿あればいいがなぁ」
「?
宿ならいっぱいありますが?」
本当に分からないといった風のヘイル君に溜息を吐きつつ俺は宿探しを始めた。
「はあ、こんなことになるなんて」
「申し訳ありません!」
一通り巡った宿は全て満室、辛うじて見つけた宿はボロボロの割に値段が普通の宿と同じでサービスも最悪な宿だった。
雨風を凌ぐためだけにあるような宿だ。
儲ける気があるのかないのか……。
宿を決め冒険者ギルドに戻ると人混みは多少ましになっていた。
そして、その理由を見て頭に手を当てる。
「あー、見通しが甘過ぎるな。
少し考えりゃ分かるってのに」
最後尾の冒険者には本日最後尾の看板が持たされていた。
ここから見てもその冒険者の耳は真っ赤だ。
罰ゲームの一種なんだろう。
「仕方が無い明日来るか」
そう言って依頼書を確認する。
矢張り今日までという記載は無い。
報告は明日でも大丈夫だろう。
「カチカチのベッドで寝るとするか」
「申し訳ございません!」
平謝りのヘイル君の肩を叩きつつ俺は宿へ戻った。
翌日、カチカチのベッドからムクリと起きた俺は体中の痛みに顔を顰めつつ部屋を出た。
ヘイル君は、部屋にはいないようだ。
宿を出るとヘイル君が素振りをしていた。
中々様になっているな。
少なくとも素の俺が勝てる相手ではなさそうだ。
「おはようございます!
昨日は申し訳ございませんでした!」
「いいよ。
ミスは誰にでもある。
次に活かしていこう」
「はい!」
まあ、俺もミスしたようなもんだし気にしないでくれなんて考えていると宿の少女が桶を運んでくる。
「はい、銅貨一枚」
「ああ」
ボロボロの宿の看板娘(5歳)だ。
年の割にしっかりしている。
しっかりしすぎている。
ヘイル君は、少女に銅貨を渡すと少女は喜び宿へ戻って行った。
「お使いでも頼んだのか?」
「はい、何かすることは無いかと聞かれたので」
「そうか」
中々、強かだな。
あ、そうか。
そう言えば、チップの存在を失念していた。
日本のような独特の文化が形成されてない限りは基本的にチップという存在が重要である。
とは言え基本的に支払いは、ヘイル君持ちであるためチップを渡すことが出来ないのだけどな。
中々情けない話だが、お金を貰っていない以上どうしようもない。
中々にブラックな環境だな。
「勇者様、これから冒険者ギルドへ向かわれますか?」
桶に入っていたタオルを絞り汗を拭うヘイル君、中々様になっている。
「ああ、昨日のゴブリン駆除依頼は達成してるから報告するだけだからな」
「それでは私も行きますので少し待っていただいても良いですか?」
「ああ」
別に一人でも問題は無いのだが、まあ、万が一絡まれた時領主の部下が近くにいればお咎めがこちらに来にくくなるので大人しく待つことにする。
「お待たせいたしました」
ヘイル君が鎧姿で戻ってきた。
「ああ、それじゃあ行こうか」
「はい!」
元気が良いなあなんて思いつつギルドへ向かう。
ギルドには、昨日ほどでは無いがそれなりに冒険者が見受けられた。
「まあ、これなら報告は出来そうだ」
「そうですね」
ヘイル君がこちらの言葉に賛同する。
列に並び暫くして魔物討伐証明である魔石を受付嬢に渡す。
「依頼書を見せていただいても?」
「あ、ああ」
俺は、そう言われて慌てて依頼書を取り出す。
「はい、確かにゴブリンクラスの魔石を十二個ですね。
ギルドカードをお願いします」
「はい」
ギルドカードを取り出して渡す。
「ありがとうございます。
ではお預かりいたします」
そう言って受付嬢はギルドカードを受け取ると水晶にかざす。
すると水晶が光る。
「なるほど、確かにゴブリンを所定数倒されておりますね。
では、こちらが報酬となります」
水晶を見て断定したように受付嬢は言い、銀貨1枚をカウンターの上に置く。
さて、宿代が銅貨3枚だったので食事代が銅貨7枚、チップの存在を考えると……、うん、全然足りないな。
カウンターの銀貨1枚を取ると脳内にアナウンスが流れる。
『新職種解放『見習い冒険者』の職種が解放されました』
「ん?
なるほど、そうきたか」
「いかがされましたか? 勇者様」
「新しい力を授かった」
「おお、それは素晴らしい!」
「試しに何か依頼を受けるか」
「はい」
次に受けた依頼は、フォレストウルフの討伐だ。
あのゴブリンを襲っていた狼達だろう。
森に向かい到着すると同時に新しい職種に変わる。
『転職見習い冒険者』
「おお、それが新しい力ですか」
「ああ、冒険者の力だとさ」
「なるほど」
今の格好は、正直村人が少し武装した程度の見た目だ。
片手剣と盾が着いているが、お世辞にも強力な職種だとは言い難い。
とは言え、やはり何か違う感じはしている。
まず、体が軽い。
見習い騎士ほど力は、無いようだが身軽に動けそうだ。
更に森の動きが見える……と言えばいいか?
兎に角、前に来たときより情報量を多く感じる。
「これなら魔物を探すのも簡単そうだ」
「それは素晴らしいですね」
……ヘイル君を尻目にしつつ森へ入っていく。
目標は、フォレストウルフ、そしてついでにゴブリンだ。