12話 冒険者ギルド
くよくようちゅう
数週間後、整備が甘い道を比較的に揺れない高級なものとは言え馬車で走るのはとても揺れるものだ。
しかし、意外な事に俺は酔いを抑えることが出来た。
せっかくなので色々試したところ『見習い騎士』が一番酔いに強かった。
おそらく、防御力に比例する耐性か何かがあるのだろう。
「勇者様、もうすぐシルギット領のブルスティアに到着しますよ」
御者の言葉に俺は窓から馬車の前方を見る。
前方には、城壁が見えた。
かなり大きな町のようだ。
案内役の騎士ヘイルが言う。
彼は、俺が王都から出るときに付けられたシルギット伯爵の部下だ。
「あそこは我が領地の中で最も冒険者の活動が活発な町です」
「なるほど、冒険者の町といったところか」
「ええ、お恥ずかしながら冒険者達がこの町を支えております」
お恥ずかしながら?
その言葉に首を傾げつつも俺は馬車の前に広がる城壁を眺めていた。
ブルスティアの中は活気がありそこかしこに冒険者達が行き来しているのが見て取れた。
「王都ほどでは無いけど人が多いな」
「ええ、近くにダンジョンが有りますので、それが冒険者達の稼ぎに成っております」
「へえ」
「冒険者ギルドはこちらです」
ヘイルは、冒険者ギルドへ先導する。
俺はキョロキョロと物見遊山のように周囲を見渡す。
ちらほらとファンタジーでお馴染みのエルフ、ドワーフに獣の特徴を持っている獣人も見かける。
「冒険者って色々な種族がいるんだな」
「ええ、そうですね」
「その分諍いも多そうだ」
「ええ、ええ!
その通りですよ。
魔物退治の専門家なんて言われていますが所詮は荒くれ者共の集まりです」
随分な言い様だな。
まあ、言わんとせんことは分かる。
ちらほらと言い合いやちょっとした暴力騒ぎまで見て取れる。
「さあ、到着致しました」
「ここが冒険者ギルドか」
冒険者の評判に反して冒険者ギルドの建物は、整っているように見えた。
「奇麗な建物だな」
「何度も建て直してますからね」
ヘイルの言葉に耳を疑う。
「このサイズの建物を?」
「いえ、建て直す度に大きくなっていますね」
「へえ、よっぽど儲かっているんだな」
「まあ、この町では、冒険者様々でしょうね」
皮肉るように肩を竦めるヘイルを尻目に冒険者ギルドに入る。
中は、待合スペースと受付、そしてギルド職員が作業しているスペースが見て取れた。
魔物の素材を受け渡ししている場所は、クエストを受注する場所と異なるようで左端に専用の窓口が設けられている。
魔物の素材は、そこから左の出口から何処かに持って行っているようだ。
「とりあえず冒険者登録を済ませましょう。
こちらです」
ヘイルは、慣れたように俺を受付の方へ案内する。
登録受付には、人が並んでいて受付にたどり着くまでそこそか時間が掛かった。
どうやら少しもめ事があったらしい。
まあ、ちょっとした交渉の類いだろう。
暫くしてようやく俺の番が回ってきた。
受付のお嬢さん、受付嬢が丁寧にお辞儀する。
「お待たせいたしました」
「冒険者登録をお願いします」
「はい、ではこちらへ記入をお願いします」
慣れた受け答えでよどみなく記入欄が複数ある用紙を渡される。
名前、生年月日、職業、魔術適正、戦闘経験と得意な武器。
名前と生年月日は普通に記入し、職業欄は、勇者と書くとややこしくなりそうなので見習い騎士と記入した。
魔術適正は、分からないし戦闘経験は、数日前のダンジョン探索だけで得意な武器は特になし。
うん、何しに来たんだと言われても仕方が無い記入欄だな。
記入を終えて受付嬢に渡すと矢張り受付嬢も微妙な表情を作る。
「すみません、生年月日の記入ですが、勇者暦でお願いします」
「ああ、済みません。
生年月日は記入無しでお願いします」
ヘイルが、受付嬢に言うと受付嬢はこちらを見る。
「生年月日の記入は無しと言うことでよろしかったでしょうか?」
「はい」
勇者暦?
と言われても計算するのは大変だ。
まあ、大雑把な年は分かるだろうけど細かい日付までは分からないだろうからな。
「畏まりました。
それでは、登録致しますので少々お待ち下さい」
受付嬢はそう言うと席を離れる。
そして、暫くしてカードを持ってきた。
「こちらが、冒険者カードです」
俺は受付嬢から冒険者カードを受け取る。
表には俺が記入した情報が記載していて裏側は注意事項が記載されていた。
「これは仮のカードとなります。
一定以上の成果を確認でき次第正式な冒険者カードを発行致します」
「へえ、なるほど」
「ランクが上からA,B,C,D,Eとなっております」
「つまり俺のランクはEってことか?」
「いえ、まだランクはついておりません。
これから依頼を数件受けていただきそ後達成したもの次第でランク付け致します」
「分かった」
「では、受けていただく依頼ですがこちらです」
差し出された依頼書には、ゴブリン駆除と記入されていた。
「ゴブリン駆除?」
「はい、繁殖力が高く何処にでもいる魔物です。
大人であれば誰でも倒せますが油断はしないように」
「分かりました」
依頼書を受け取りその場を後にする。
「で、ゴブリン駆除か。
まあ、王都にいた奴らと同じくらいの強さなら何とでもなるが」
「その点は御安心下さい。
王都のダンジョンに出てきたゴブリンは、他のゴブリンより強いので勇者様であれば問題なく倒せるでしょう」
「そうかそれを聞いて安心した」
そんな感じで色々と話をヘイルから聞いて進む。
これから命のやり取りをすると言うのは矢張り気が重たくなるな。
供養はここまでです。
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