プロローグ
「ハァハァ…まずいな」
森の中を歩く男が一人。
男は銀色の髪を後ろでまとめ、あごには無数の無精ひげを生やしている。
頬には十字の傷があり、片目には眼帯をつけていた。
その姿を見ただけでは、まだ男が20代の若者であるということに気づく人間はいないだろう。
そう言えるほどに、男の姿には年齢に不相応な貫録があった。
「(遭難して丸3日…流石に限界が近い)」
視界は明滅し、頭の中は靄がかかっているかのようで思考がまとまらない。
「俺も…ここで終わりか」
ここは深い森の中。男以外の人間がいるはずもなく、救助を要請できるようなものも男は身に付けていなかった。
ドサッ
男はその場に倒れこんでしまった。
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「て…起きて下さい」
「ん…俺は」
男がベッドで目を覚ますとその視界には見知らぬ光景が広がっていた。
「(もしかして、ここが死者の国なのか?)」
「やっと目を覚まされましたか。貴方はもう3日も眠ったままだったんですよ」
少女が男の顔を覗き込んでくる。
少女の顔は美少女といって差し支えないほどに美しく、衣装としてメイド服を身にまとっていた。
髪色はピンク色で首には鈴が付いたチョーカーをしている。
しかし、何よりも目を引くのが彼女の頭についているネコ耳だ。このような耳をつけた人間など男の濃い人生の中でも見たことがなかった。
「聞こえてますか?聞こえていたら返事をしてくださいね」
「(とりあえず、何か返事をしなくては)」
男はパニックになりそうな頭を無理やり落ち着かせ、体を起こすと少女との会話を始めた。
「ああ、聞こえている。もしかして、君が介抱してくれたのか?」
「はい、そうです。大変だったんですよ。森の中で珍しく人を見つけたと思ったら倒れてるんですから」
「それはすまないことをした。俺を助けてくれてありがとう。ところで、君の名前は何て言うんだい?」
「私は小鈴といいます。どうぞ、気軽にお呼びください」
「分かった。それで小鈴さん、ここはどこなんだ?それに、君は一体どうやって俺をここに連れてきたんだ?君の身体じゃ俺を運ぶのにはたいそう苦労したと思うんだが」
目の前の少女の体格は非常に小柄だった。身長は140cmくらいで大人の男を一人で運べるとは到底思えない。
「ああ、それは」
少女が言葉を口にしようとした瞬間、部屋の扉がバンと開かれた。
「お客様、やっと目を覚まされたんですね!!いやぁ、心配しましたよ。こちら、おかゆとお茶です。よろしければお食べください」
部屋に入ってきたのは端正な顔をした黒髪の男だった。身長は170cmくらいでかなりガタイが良いが、ハート形のエプロンをし、その手にはお盆を持っていた。
「マスター、あまり大きな音を立てるのはやめてください。この方は先ほど目を覚まされたばかりなんですから」
「騒がしくて申し訳ございません。貴方を発見した私が、彼に頼んでこの場所まで連れてきてもらったのです」
「そうだったのか。君も俺を助けてくれてありがとう。君の名前は?」
「いえいえ、めっそうもございません。人として当然のことをしたまでですから。俺の名前はラゴンといいます。覚えていただけると幸いです」
ラゴンは持っていたお盆をテーブルに置くと、男に対して丁寧にお辞儀をしながら答える。
「ラゴンか、いい名前だな。覚えておこう」
「それでここは一体どこなんだ?」
男が場所についての疑問を口にすると、ラゴンは自信満々といった表情で胸を手でたたき言葉を口にする。
「ここはメイド喫茶エルトイ!!。将来、この国一番のメイド喫茶になるお店です!!そして、あなたは栄えある初めてのお客様なのです!!」
これはラゴンとその仲間がメイド喫茶エルトイをこの国一番、いや、この世界一番のメイド喫茶にするお話