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出してくれ!

 特に買いたいものはなかったのだが、ほんの気まぐれで古本屋に入った。


 ぶらぶらとあちこちのコーナーを歩き回っていると、一冊の本の背表紙が目に留まった。


 もしやと思い本棚から取り出してみると、やはり私の知っている本だった。


 ヤンデレなヒロインが登場するライトノベルで私も一度買ったことがある。


 読み終えた後は引っ越す前にいた町の古本屋で売り払った。


 基本的に私は一度読んだ作品を読み直すことはない。


 それなら他の読みたい人の元に渡った方が本も幸せだろう。


 懐かしみながらページをめくっていく。



―――やっと会えた。


 どこからか女の子の声が聞こえてきた。


 もしや私に対して話しかけてきたのだろうか。


 慌てて辺りを見回したが、近くには誰もいなかった。


 空耳だったかと改めて本に視線を戻す。



 するり。


 本からか細い両の手が飛び出す。


 突然の出来事に何も反応できず、そのまま頭を掴まれてしまう。


 大声で助けを求めるが、何故か誰も反応しない。


 まるで何も聞こえていない、いや、何も見えていないかのようだ。


 そしてそのまま私は本の中へと飲み込まれていった。



 気がつくと、そこは誰かの部屋の中だった。


 薄ピンク色の家具やぬいぐるみ。


 ハンガーに掛けられた制服とその下の制カバン。


 そして上手く表現できないが、男部屋ではありえないようないい匂い。


 まず間違いなく女子中学生か高校生の部屋だろう。


 それにしても、ここはどこだろう。


 どこかで見た気がするのだが。



「○○君」


 ゾワリと怖気が走り、ギギギと油を刺し忘れた機械のようにぎこちない動きで振り向く。


 そこには私がかつて読んだラノベのヒロインがいた。


 そうだ、思い出した。


 挿絵で見た。


 ここは彼女の家だ。


 でもどうして―――


「ねぇ、どうして私を捨てたの?どうして引っ越したの?私のことが嫌いになったの?ねぇ、ねぇ、ねぇ」


 ゆっくりとこちらへ近付いてくる。


 やめろ!くるな!


 そう叫ぼうとしたが、恐怖で「あ゛、あ゛、あ゛……」


 と汚いスタッカートを繰り返すことしかできなかった。



「もう逃がさないよ。これでずっとずっと、一緒にいられるね」


 ハイライトの消えた双眸で微笑む彼女は恋する乙女のように頬を染めた。


 いや、本当に恋をしているのだろう。


 主人公にではなく私に。


 そっと、けれど力強く私の頭を引き寄せ―――


 唇と唇が触れる。


 糊を塗っていたかのように離れない。


 脳内で多くの「何故」が駆け巡るが、何一つ解は得られなかった。


 終わらない。


 終わる兆候が見られない。


 彼女との口付けはどこまでも永遠に続いていった。

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