星座の道しるべ あの星の下に私の家族がいる
夜。
満点の星。
空に浮かぶ星々を目印に、小さなボートが海原を進む。
「ネノ、眠らなくてもいいのか?」
父が優しく声をかけてくれた。
そのたくましい身体には部族の長であることを示す入れ墨。
幼いころからずっと見ていたその身体。
怖い夢を見た時は、父に抱きしめてもらいながら眠っていた。
もうすぐそれもできなくなると思うと、ちょっとだけ胸が苦しくなる。
「うん……星がとってもきれいだから」
「星は神々が俺たちに与えてくれた道しるべだ。
どんなにつらくても夜空を見上げれば星がそこにある。
俺たちの島が何処にあるのかも分かるぞ」
父はそう言って優しく微笑んだ。
私はこれから見知らぬ島へ行って、そこに住む部族の長の息子と結婚する。
ずっと前から決められていた取り決めで、私はそこへ嫁ぐために育てられた。
島と島とは、目で見えないくらい離れているが、星座の道しるべをたどれば必ずたどり着くことができる。
古くから受け継がれてきた部族の技。
「うん……」
「やはり寂しく思うか?」
「ううん、星がお父さんたちの場所を教えてくれるから。
寂しくはならないよ」
「そうか、よかった」
父はまたほほ笑む。
でも、少しだけ寂しそうに見えた。
私たち家族はどんなに離れていても、星と星とで繋がることができる。
家族のきずなが途絶えることはないのだ。
それから、夜が明ける前に目的の島へたどり着けた。
島に住む部族は総出で私たちを迎え入れてくれた。
真ん中に立つのは長とその息子。
私の結婚相手である彼には、すでに入れ墨がほられている。
父とは違う、独特な柄。
あどけなさを残す彼は少しだけ緊張しているように思えた。
「よく来たな、兄弟。
さっそく婚姻の儀をあげよう」
「ああ……」
長と腕を組んで挨拶を交わす父。
それから島を挙げての宴が開かれた。
朝から晩まで、途切れることなく、島に伝わる歌が奏でられる。
私は結婚相手と並んでその様子を眺めていた。
ぼーっとしていると、そっと私の手に彼の手が重なる。
私がほほ笑むと、恥ずかしそうに顔を背けた。
「じゃぁ、気をつけてな」
その日の夜。
父は故郷の島へと帰る。
船を出す父を私の新しい家族がそろって見送ってくれた。
「娘を頼んだぞ」
「……はい」
父の言葉に力強く返事をする夫。
彼となら上手くやっていけそうな気がした。
父は船を海へ走らせる。
星々が浮かぶ空の下。
一艘のボートが海の上を泳ぐ。
その姿が見えなくなるまで、私はずっと見守っていた。
ずっと……ずっと。