表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞4

星座の道しるべ あの星の下に私の家族がいる

 夜。

 満点の星。


 空に浮かぶ星々を目印に、小さなボートが海原を進む。


「ネノ、眠らなくてもいいのか?」


 父が優しく声をかけてくれた。

 そのたくましい身体には部族の長であることを示す入れ墨。

 幼いころからずっと見ていたその身体。


 怖い夢を見た時は、父に抱きしめてもらいながら眠っていた。

 もうすぐそれもできなくなると思うと、ちょっとだけ胸が苦しくなる。


「うん……星がとってもきれいだから」

「星は神々が俺たちに与えてくれた道しるべだ。

 どんなにつらくても夜空を見上げれば星がそこにある。

 俺たちの島が何処にあるのかも分かるぞ」


 父はそう言って優しく微笑んだ。


 私はこれから見知らぬ島へ行って、そこに住む部族の長の息子と結婚する。

 ずっと前から決められていた取り決めで、私はそこへ嫁ぐために育てられた。


 島と島とは、目で見えないくらい離れているが、星座の道しるべをたどれば必ずたどり着くことができる。

 古くから受け継がれてきた部族の技。


「うん……」

「やはり寂しく思うか?」

「ううん、星がお父さんたちの場所を教えてくれるから。

 寂しくはならないよ」

「そうか、よかった」


 父はまたほほ笑む。

 でも、少しだけ寂しそうに見えた。


 私たち家族はどんなに離れていても、星と星とで繋がることができる。

 家族のきずなが途絶えることはないのだ。


 それから、夜が明ける前に目的の島へたどり着けた。


 島に住む部族は総出で私たちを迎え入れてくれた。

 真ん中に立つのは長とその息子。


 私の結婚相手である彼には、すでに入れ墨がほられている。

 父とは違う、独特な柄。


 あどけなさを残す彼は少しだけ緊張しているように思えた。


「よく来たな、兄弟。

 さっそく婚姻の儀をあげよう」

「ああ……」


 長と腕を組んで挨拶を交わす父。


 それから島を挙げての宴が開かれた。

 朝から晩まで、途切れることなく、島に伝わる歌が奏でられる。


 私は結婚相手と並んでその様子を眺めていた。

 ぼーっとしていると、そっと私の手に彼の手が重なる。

 私がほほ笑むと、恥ずかしそうに顔を背けた。


「じゃぁ、気をつけてな」


 その日の夜。

 父は故郷の島へと帰る。


 船を出す父を私の新しい家族がそろって見送ってくれた。


「娘を頼んだぞ」

「……はい」


 父の言葉に力強く返事をする夫。

 彼となら上手くやっていけそうな気がした。


 父は船を海へ走らせる。


 星々が浮かぶ空の下。

 一艘のボートが海の上を泳ぐ。


 その姿が見えなくなるまで、私はずっと見守っていた。


 ずっと……ずっと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 詩的な情景、美しい夜が目の前に立ち上がってくるような、いい話ですね。 主人公と許婚の青年が、ともに素朴で初々しい印象なのも、物語を爽やかにしています。末尾の締め方もシンプルながら「これしか…
[良い点] 素敵なお話ですねー。星空を見て航海をする。 日中だと太陽しかない道標がないけど、月のない夜ほど星が正確に導いてくれる♡ 暗いほど安全いう逆説的な設定に、古代(?)のロマンを感じます。 地…
[一言] すごく好きな作品です。 余白の使い方がとても素敵ですね。 小説を書いていると、ついつい何でも詳しく書かなきゃと思いがちですが......(私だけ?;) こちらは、作品の世界観に必要な言葉が、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ