第5話 ドワーフ達との出会い
ヘパイストスを仲間にすることには成功したが、まだ洞窟の探索は済んでいない。
今来た通路を戻り、分岐を左へ進む。
暫く進むと、広大な空間が広がっていた。
そこは、ゴブリン達とは違った、背丈の少し低い種族が住む街だった。
彼らは、自分達をドワーフと呼んでおり、俺がこの惑星に降り立った3年前より、ずっと前からここに住んでいるのは間違いない。
ドワーフ達の街には熱気が籠り、金属製の武器等があり、芸術的感性も持ち合わせていた。
所々に神話の神を模したかのような彫刻が立ち並び、神殿で使われてるような見事な柱が立っている。
普段使っている道具にも、様々な装飾が施されていたり、見事な模様が描かれている。
ドワーフ達は人間を見るのは初めてなのだが、あまりこちらに関心を示さない。
俺は、近くにいたドワーフに話しかけてみる。
(こんにちは!君達は凄い武器を持ってるね。俺に見せてくれないかい?)
すると、武器を誉められたからか、そのドワーフは無言で俺に良い顔で武器を持たせてくれた。
(意外と重いね。でも、こんな武器があったら最高だろうなぁ!)
なんて念話で言ってみる。
(こんな武器よりも、もっと凄い武器を作る奴がいるぜ。もっとも、最高品質の武器は俺たちの王に献上されるけどな。)
と言ってくるドワーフ。どうやら、ドワーフ達の王がいるらしい。
(そのもっと凄い武器を作るドワーフに会ってみたいなぁ。できれば、俺の仲間になってくれないかな?)
(会うだけならまだしも、仲間になるのは厳しいと思うぜ?王が許すならそれも可能かもしれないが・・・。)
彼等の持つ製鉄技術は非常に魅力的で、是非ともゴブリン達の集落に持ち帰りたいと思った。
それには、彼等の王に会う必要があるようだ。
(俺が、王様に会うことってできるかな?)
(王に会うことが出来るのは、大臣に認められた者か、一部の家臣と侍従の者だけだな。)
(じゃあ、その大臣に俺を紹介してくれないか?)
そのドワーフは、首を振って言う。
(お前じゃ無理だ。良い武器を作れる訳でもないし、俺に何もメリットもない。)
確かにその通りである。しかし、諦める訳にはいかない。
(そうかぁ、だったら腕の良い武器職人を紹介してくれないか?)
と言うと、
(それだったら良いぞ、着いてこい。)
と言い、歩き出したドワーフの後を俺は着いていく。
街中に活気があり、歩く道は石畳で綺麗に舗装されている。
暫く着いていくと、街の活気がある場所からは少し離れた場所にある、熱した金属を叩く音が響き渡る石造りの建物へ着いた。
そして、ドワーフが叫ぶ。
「נדוברי! האם アンドヴァリ שם!?」
どうやら、その腕の良い武器職人のドワーフは、アンドヴァリという名前らしい。
しかし、建物に入ると、アンドヴァリと思われるドワーフは、もう一人のドワーフと共に真っ赤に熱された鉄の塊をハンマーで叩いている最中だった。
それは、至高の一品を鍛えるため。
俺は暫く待つことにした。ここまで案内してくれたドワーフはどこかへ帰っていった。
2時間程待つと、作業が終わったのか静かになった。
作業が終わるとアンドヴァリは汗だくで、此方へ近づいてきた。
「הבחור שגרולאס הביא. זו תלבושת נדירה.」
何を言っているのか判らない。
(念話でお願いします。)
(ん? ガラールが連れて来た奴か。珍しい格好をしているな。)
さっき、親切に案内してくれたドワーフの名前はガラールという名前らしい。
名前を聞くのを忘れていた。
(初めまして、俺は人間でゼドという名前です、よろしく。
アンドヴァリさん?、が腕の良い武器職人だと聞いてやってきました。是非とも作った武器を見せていただけませんか?)
(良いぜ。とっておきのを持ってきてやる。)
アンドヴァリは、既に出来上がっている大剣とロングソードを持ってきた。他にも色々とあるようだが、この2つの剣を見るに腕の良い職人であることは確からしい。
(大剣が金貨20枚、ロングソードは金貨15枚だ。)
と言われた。
この惑星に来てから、貨幣があるとは思わなかったので、無一文である。
もちろん買うことなんてできない。
しかし、切ることに関しては俺には必殺技がある。なので
(大変すばらしいですね。どちらも良く出来ていて選びきれません。)
と言ってその場を誤魔化した。そして、
(実は、俺が住んでいる集落に来てくれる腕の良い職人を探しているんです。)
と本題を切り出す。
(ああ!?そいつは無理だな。俺は王様に武具を収める仕事があるし、納期が明日までの仕事が残ってるんだ。今もその仕事をやってた所さ。
しかし、明日、王様に会うことになるから一緒に来て王様に直接話してみたらどうだ?)
(それは、ありがたい。是非ともお願いします。)
(それと、今夜泊るところが無ければ泊めてやるがどうする?)
(おお、今日も野宿かと思っていたところでした。
重ね重ねありがたい。泊めていただけるなら是非。)
こうして、ドワーフのアンドヴァリ家に泊めてもらうことになったのである。
石造りの壁に屋根、骨組みには鉄骨が使用されているようである。
ランプに灯された光で、雰囲気がある。
アンドヴァリには弟が二人いた。
ブロックとエイトリである。
この2人もアンドヴァリとともに、鍛冶仕事を手伝っているとのことだった。
俺は、細やかなお礼の代わりとして、ゴブリンの集落で栽培した玄米を炊いて振舞った。
それに、ゴブリン達の集落での出来事を話し、中でもドラゴンのヒュドラの背に乗って空を飛んだ件はとても盛り上がったのであった。
翌日、アンドヴァリに連れられてドワーフの王宮へ向かった。
通路の両脇に、均等な幅で並び立つ彫刻。
天井に彩られた鮮やかな細工。
大理石で敷き詰められた白色の王宮へ続く静寂な道。
そして、道に沿って灯された明かり。
それらが洞窟の中の空間に存在している。
王宮に入り、王の間にて王の前に跪くアンドヴァリ。
そこで渾身の一振りの剣を納める。
「זה הושלם.אני אשלם את החרב הזאת.」 (遂に完成しました。この剣をお納めします。)
「זה מהמם.תן לי לקחת פרס.」 (見事だ。褒美を取らせよう。)
俺が聞いても意味が分からない。
しかし、どうやらゴブリンの集落に腕の良い職人を招きたいという趣旨の話もしてくれているようである。
おっと、うっかりヘパイストスの珠玉を落としてしまった。
(・・・その珠、強大な聖霊力を感じるが・・・。)
王様から直接念話が来た。
(実は、ここに来る途中で聖霊ヘパイストスと戦い、仲間になってもらったのです。)
(何と、ヘパイストスが仲間に・・・。お前は、恐るべき力を秘めているようだな。)
(とんでもございません。偶然が重なり偶々勝つことが出来ただけございます。)
どうやら聖霊ヘパイストスは彼らにとって重要な何かだったらしい。
(しかし、強大な力を持つ者であれば、我々もお前の動向を把握しなければならないな。アンドヴァリよ、お前の弟達をゴブリンの集落に行かせようと思うが、大丈夫か?)
(はい、他に弟子も何人かおりますので大丈夫かと。)
こうして、ゴブリン達の集落に腕の良い職人が2人―ブロックとエイトリ―来てくれることになったのであった。