第4話 炎聖霊ヘパイストス
俺は、また旅に出ることにした。
狩猟から農耕へと多少文化が発展したものの、文明的な生活をするためにはまだまだやらねばならないことがあるからだ。
魔獣も多いし、鉄や鋼などの金属の武器や、電気なんかも欲しいな。
次の目的は、技術者と新しい魔法ということになる。
ゴブリン達に、鉄鉱石が採れそうな場所や魔法を使える種族はいないか聞いてみると、鉄鉱石についてはよく判らなかったが、西に3~4日ほど行ったところに洞窟があってそこに不思議な魔法を使う種族がいるらしい。
まずは、俺は西に向かうことにした。
暫く進むと大きな川があったので、泳いで渡ることにした。
服は周囲の魔素力で具現化しているだけなので、濡れることはない。
しかし、50m以上はありそうな川幅である。
気合を入れて水に入る。結構冷たい・・・。というか、少し痛いくらいだ。
魔法で空を飛べたらな、と思いながら荷物を濡らさないように気を付けながら川を渡った。
川を渡り終えると、魔法で火を出して温まりながら先へ進む。
西に向かい始めて3日が経つ。ここまでは湿地だったり平原だったが、この先は山に入ることになりそうだ。
と思っていると、よく見ればなんとなく洞窟のようなものが見える。
そして、その洞窟へ向かって歩き出す。
洞窟の周りには、様々な色の光が漂っている。
洞窟に近づくにつれ、その光が身長30㎝くらいの妖精のような生き物であることに気が付いた。
その妖精―と呼ぶことにした。―に話しかけてみる。
「やあ、こんにちは!」
言葉は通じないようなので、念話で話しかけてみる。
(こんにちは!妖精さん。)
(あら、珍しい生き物がやってきたわ。どうしてここにやってきたの?妖精って私達のこと?)
(ああ、俺は、人間でゼドという名前だよ。ここには、不思議な魔法を使える人達がいるって聞いてやってきたんだ。君達みたいな小さくて羽が生えている人達を妖精っていうんだよ。)
(妖精?それって私たちが妖精っていう名前ってこと?面白いね。)
(ねえ、君達が使える魔法を、俺に教えてくれないかな?)
(魔法?魔法って何?)
俺は、手のひらに炎が出るように念じて、炎を出して見せた。
(わあ、凄いね。でも、洞窟の奥にはもっと凄いことができる人達がいるよ。)
俺は、洞窟の奥に進むことにした。
手のひらに炎を浮かべて、中を照らしながら進んでいく、洞窟の中は炎に照らされてキラキラと光を反射している。
何かの鉱石だろうか?足元に転がっている石を拾ってみる。
鉱石に魔素力が定着しているようである。とりあえず、それをポケットに入れる。
そして、また進んでいくと左右に道が分岐していたので、とりあえず右へ進む。
洞窟を進んでいくと少し大きな部屋?というか空間が広がっていた。
燃えるような髪、怒りと穏やかさを同時に体現させるような眼、隆々とした体躯、肌が焼けつくような熱気。
そこにいたのは、イフリートを想像させる炎に包まれた4mは有ろうかという巨人であった。
「やあ!こんにちは。俺は人間のゼド、ここに魔法を使える種族がいるって聞いてやってきたんだけど、君のことかな?」
(お前は何だ?俺はヘパイストス。炎を司る聖霊だ。)
頭に直接考えが響いてくる。念話だ。しかも、こいつには名前と知性があるらしい。
(俺は人間のゼドという。魔法を使える種族がいると聞いて来たんだ。率直に言う。俺の仲間になってくれないか?)
(何故、俺がお前の仲間にならなければならないんだ?)
(どうせ、やることも無いんだろ?俺の仲間になって、この世界の文明を発展させるために力を貸して欲しい。)
(まあ、やることは無いが・・・。具体的に何をやるんだ?)
手応え有りである。
(そうだなぁ、俺と一緒に戦ったり、鉄の武具や道具を作るのを手伝ったりかな?)
(面白そうだな、だがその前にこのヘパイストスよりも強いということを証明して見せろ!)
というと、ヘパイストスが襲ってきた。好戦的なやつである。
「はぁっ―――!」
ヘパイストスが、灼熱の両腕を振ると炎の竜巻が起こる。
こんな狭い場所だと酸素が無くなってしまうんじゃないかと心配したが、それどころじゃない。
ここはいつもの必殺技を出さなきゃいけないか?
でも効果あるのか?
こんな奴に対して。
そんなことを考えながらも、あまりの熱さに額から汗が滴り落ちる。
そして、ヘパイストスの周りに火球がいくつも出来上がる。
「風刃!!」
無駄かなと思いながらも、火球の狙いを逸らすために唯一の必殺技を放つ。そして、ヘパイストスの背面を目指して回り込む。
案の定、ヘパイストスの体に 風刃 は当たるが、炎でできた体はすぐに修復されてしまう。
しかし、襲い掛かる火球の狙いが若干逸れる。
此方は単発なのに、相手は連発。
打つ手なしである。
必死に火球を躱すが、ヘパイストスの体を中心に半円球体の炎が出現する。
それが勢いよく広がっていく。
この全方位の範囲攻撃に対して絶体絶命となる。
その時、俺は限界まで追い詰められたために、新しい魔法に覚醒したのだ。
自分の周囲に水壁が張られる。
その直後、ヘパイストスの放った熱波が襲い掛かる。
熱波と水壁がぶつかり水壁は消滅する。
そして、気づくと俺の手には水の刀が出現していた。
その刀で、ヘパイストスを切り伏せたのである。
それは妄想だった。そんな都合よくは物事は進まない。
襲い掛かる熱波に対して、周囲の魔素力を具現化し全身を覆う!
これで何とか持ちこたえてくれと願う。
そして、ダメージは負ったものの、何とか切り抜けることが出来た。
俺は最後の手段を試みる。
虚無のエネルギーの残渣により、ヘパイストスの熱量を周囲の魔素力毎取り込んでしまうのだ。
俺は、両手を前に突き出して虚無のエネルギーを放出する。
虚無のエネルギーはヘパイストスに食らいつきまるで生き物のように全身を覆いつくした。
最後に残ったのは、猛る炎を封じ込めた珠玉、それはヘパイストスを封じ込めたものだった。
こうして無事にヘパイストスを仲間にすることができたのであった。