第25話 アムルにて
俺は、空の上から海を眺める。
水平線の先にあるアムルは、どのような街なのだろうか?
ふと前を見ると、空を飛ぶ飛行体がこちらへ向かってくる。
(ヒュドラ、前に何かいるぞ!)
(ああ、気づいている。)
ヒュドラと、その飛行体はある程度近づくと、空中でその場で停止した。そして、
(この先に何の用だ?何者であろうとも、我らの領域に踏み入ることはまかりならん。)
と、相手は、唐突に念話で話しかけてきた。
相手は、よく見ればドラゴンのようである。
(俺達に敵意は無い。アムルの街へ行きたいだけなんだ。)
(アムル?それならば尚のこと、阻止させてもらう。)
(ヒュドラ、巻けるか?)
(やってみよう。)
ヒュドラは、相手を巻くべく全力で飛んだ。
俺は、風圧で飛ばされないように必死でヒュドラに摑まった。
しかし、相手もしっかり付いて来る。
雲を突き抜け、大気圏を抜け、下降して、また雲を突き抜ける。
速度はいつもの何倍だろうか?
いつもは、ヒュドラは、加減して飛んでいてくれたのであろう。
普段の何倍もの速度で空を飛翔し、上下左右に動き回る。
この追いかけっこが30分以上続き、このままでは俺の方が振り落とされてしまうと思い、虚無のエネルギーでヒュドラを進化させれないか試してみた。
すると、ヒュドラの身に起きた進化は劇的であった。
ヒュドラは、全身の鱗が虹色に輝き、ドラゴンからドラゴンロードへと進化したのであった。
それまでの飛翔速度を大きく上回り、加速、減速もスピードが増している。
あっという間に、追いかけるドラゴンを置いてきぼりにして、アルムの街がある島に辿り着いた。
後は、アムルの街を探すだけである。
しかし、さっきの追いかけっこで、現在地がどの辺りなのかが曖昧になってしまった。
俺は、世界地図を見ながらアムルの街を目指す。
そして、漸く俺はアムルの街に辿り着いたのであった。
アムルの街、そこは霧深く、ドラゴノイドが住まう秘境の町であった。
ドラゴノイドとは、幼生のドラゴンとでも言えばいいのだろうか、その姿は、人間に近いとも言える。
ドラゴノイドとして、100年も生きるとドラゴンへと進化が出来るようになるのである。
勿論、ヒュドラもドラゴノイドだった時期がある。
だが、全てのドラゴノイドが、アムルに居るという訳ではないのである。
ヒュドラの様に、アムル以外の場所でドラゴンとなったものもいるのである。
アムルの町で育ったドラゴンは、その近くにて住処を作る。
先ほど出会ったドラゴンは、その中の1体であったのだ。
そして、アムルの町に着いて間も無く、先ほどのドラゴンが現れる。
ここからは、ヒュドラと、そのドラゴンとの一騎打ちである。
赤い光と青い光が、空の遥か彼方、空中でぶつかり、離れ、またぶつかる。
その1回1回の衝撃音が、打ち上げ花火の様に遅れて響いて来る。
赤い閃光が放たれ、空を割り、それに呼応するかのように青い閃光が放たれる。
その赤と青の2つの光は、螺旋状に旋回しながら雲を突き抜け、宇宙空間まで到達する。
そして、また螺旋状に旋回しながら落ちてくる。
もの凄い速度で大地近くまで落ちてきた2つの光は、地表付近で2つに分かれ、また対峙する。
その衝撃波が、周囲に大量の粉塵を巻き上げる。
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何時までも続くと思われた、この2匹のドラゴンの攻防であったが、終に決着がつく。
ドラゴンロードとなったヒュドラにとっては、そのドラゴンはもはや相手になる筈もなかったのだ。
青い光が、虹色に変わり、世界が魔素力によって生まれたオーロラに包まれた。
ヒュドラが放った攻撃は、対象の精神を封印する大規模精神攻撃スキルである。
その対象となった者は、精神防御結界を以てしても完全に防ぐことは出来ず、ヒュドラの精神攻撃力を超える精神防御力を持たねば防ぐことが出来ないのである。
そして、赤い光が堕ちて行く。
ヒュドラが勝ったのだ。
堕ちた赤い光は遥か遠くであるので、俺には、どうなったかを伺い知ることは出来ない。
ヒュドラは俺の元へ戻ってきた。
そして、俺はアムルの町の住民に話を聞くことにした。
意外と、アムルの住民は素直に俺とヒュドラを迎えてくれた。
あのドラゴンにヒュドラが勝ったからであろうか?
俺は、ドラゴノイド達に、この町に来た理由を話した。
「今は、ほぼ力は残っていないが、俺は、この宇宙の創始者である。
俺は、虚無のエネルギーで宇宙を創り、何十億年もの間、この宇宙を漂っていた。
そして生命の息吹が感じられるこの惑星に降り立ち、この世界の大気を虚無のエネルギーで満たした。
それは聖霊力や魔素力と言ったものに変わり、様々な生物が生まれた。
最も、元からいた動植物はあった訳だが。
そして、数年前に虚無のエネルギーで肉体を創り、人間の躰を手に入れたのだ。
俺は、その昔、本当に存在した人間だったため、人間の形を選んだ。
そして、俺は、この惑星に以前人間が暮らしていたような文明的な町を作ろうと思い、仲間を探すうちに、ゴブリン達や大鬼族達を仲間にしていった。
そんな中、魔素力が高い地域でもない俺達の町に、上位悪魔が5人現れた。
俺達は、力を併せ4人を倒し、1人を捕虜として拘束した。
その悪魔が言うには、別の宇宙から来た悪魔の一人であり、その別の宇宙から10万もの悪魔の軍勢が、転移魔法を応用した技術で1年以内に攻めてくる、というものだった。
俺の様に、別の宇宙の惑星で大気を虚無のエネルギーで満たせば、悪魔の軍勢が存在し得ることは明確だ。
その悪魔が言うことは辻褄があっている。
そして、俺は、戦力を整えるため、各方面に協力を呼び掛ける中、このアムルの町にも訪れたという訳だ。」
俺は、流暢に説明した。
もはや、テンプレート形式であることを賢明な読者諸君はお気づきであろう。
しかし、俺がこう話したのを、「そうだったの?」って顔したヒュドラが隣にいたのは内緒である。
そして、ドラゴノイドが念話でこう言った。
(協力と言っても、僕達 (ドラゴノイド)では決められないよ。
もうすぐ、ドラゴン達がやってくるから、そこで話し合おう。)
(判った。俺達は待たせてもらうことにするよ。)
俺とヒュドラは、ここで待つことにした。
まあ、待つだけでも暇なので、町の中を見てみることにした。
ドラゴノイド達が住んでいるのは、木造の建物であった。
但し、樹齢1000年は超えていそうな大きい木を幾つも使った建築物である。
親がドラゴンであるため、スケールが大きくなりがちなのかもしれない。
もう木造神殿と言っても過言では無いだろう。
ドラゴノイドが、ドラゴンの幼生であると言っても100年経たなければドラゴンに進化できないのであるから、長生きな分、建築技術も高くなってしまっているのだ。
そんな建物が何ヶ所もあるのだから、壮観である。
ドラゴノイドは、見た目的には人間に近いのだが、どちらかというとリザードマンに近い感じかもしれない。
リザードマンと違い、水掻き等は付いていないが、顔はドラゴンに近いし、尻尾と爪があるのだから。
ドラゴノイドの一人に、アムルの町の特産品なんて無いのか聞いてみると、他の街との付き合いが無いせいか、そんな物は無いらしい。
但し、主食としているのが主に魚類なので漁業が盛んなのだとか。
魔獣を狩ったりすることもあるが、危険も伴うため、こちらはそこまで盛んでは無いらしい。
そして、ドラゴン達がやって来た。
その数、20体ほどである。
俺とヒュドラは、その20体のドラゴン達に囲まれた中で、先ほどと同じ説明をした。
そして、対悪魔戦に協力してくれるものには代償として、虚無のエネルギーを分け与えることによる進化を与えることにした。
ドラゴン達の方は、ヒュドラとの格の違いを感じてか、多少委縮してしまっているようにも見える。
先ほどの、ヒュドラとドラゴンとの戦いを見てしまっていたら、それも原因の一つなのかもしれない。
俺は、今すぐに結論を出せという訳じゃないから、また来るので、その時に回答が欲しいと伝えた。
そして、転移ゲートを最大出力で出して、ヒュドラと共に俺達の町へ帰って来たのであった。
俺は、ヒュドラの労をねぎらって、
(今日は大変な1日だったな。でも、無事に進化できて良かったよ。)
(ああ、今日は特別な1日だったな。戦ったら腹が減ったぞ。肉をくれ。)
(しょうがない。今日だけはサービスだぞ。)
そう言い、大鬼族に肉を用意させたのであった。
世界地図