第24話 トラヴァーユにて
俺が、ホルテックの街から戻った翌日、大鬼族であるレイナとシュリ、そして雷聖霊トールが妖精の洞窟から戻ってきた。
巨大蛇ヨルムンガンドとトールの戦いはトールの勝利に終わり、トラヴァーユの街では蜂蜜のような甘い液体と酒が手に入るという報告があり、霊薬草も手に入った。
それに意志の無い光と水の下位精霊達を数体捕まえてきていた。(詳しくは第18話を見てもらいたい。)
俺は、2人にこう言った。
「今回の旅はご苦労だった。回り道したみたいだけど、良い方に結果が転んで良かったよ。
取り敢えず、今はゆっくり体を休めて欲しい。
後、今度で良いけど光と水の下位精霊をもっとたくさん捕まえてきてね。」
「はい!ありがとうございます!下位精霊を捕まえたら、また報告に来ます!」
こんなやり取りがあったんだけど、後日、2人が妖精の洞窟に向かったら、巨大蛇ヨルムンガンドは復活していたとのこと。
どうやら巨大蛇ヨルムンガンドは、死んでも日の出とともに復活するのだそうだ。
ということは、またヨルムンガンドを倒さないと妖精の洞窟には行けず、下位妖精を捕まえることは出来ない、ということになったようである。
また、いつか機会があれば下位妖精を捕まえに行くことにしよう。
数日後、俺は大鬼族を2人引き連れてホルテックへ向かった。
俺がシャルルの屋敷に行くと、オークの執事に迎えられ、シャルルがいる部屋へ通された。
「やあ、シャルル、ご機嫌よう。
議会の方はどうなったかな?戦力としてはどのくらいになりそうかな?」
「ああ、ご機嫌よう、ゼド様。
戦力的には6,000人は固いですが、まだ正確な数は判りません。」
「ありがとう、シャルル。
これで、リザードマン達の援軍と併せて16,000程の戦力を確保できたよ。
その他に俺達の町の戦力も別にあるから、20,000以上の戦力はそろったと言えるかな。」
「まだ、先は長そうですね。私達も、もっと戦力をそろえることが出来ないか協議して参りたいと思います。」
「ああ、よろしく頼む。では。」
そう言い、俺達は町へ戻ってきた。
世界地図を眺めながら、次はどこの町へ行こうかと頭を悩ませる。
そして、俺は、ガラムを呼び、転移魔法を使えるようになった大鬼族に、アヌビスの都市とタナトスの都市とテオドラの都市へ、黒豹族を使って行ってきてもらうよう指示した。
今度、ドラゴンのヒュドラに行ってもらうのはアムルの都市にしよう。
トラヴァーユの街までは、転移魔法で移動したら、アムルまではそんなに時間はかからないだろうという計算だ。
問題は、体長20mもあるヒュドラが通れるような大きな転移ゲートを開けるかどうかと言うところである。
俺は、試しに転移ゲートを最大出力で出現させてみた。すると、高さ5mほどの転移ゲートを開くことが出来た。
まあ、これだけあれば、無理やりに何とか通れないことは無いだろう。
ということで、俺は転移魔法で移動できるようになるため、レイナに転移魔法でトラヴァーユの街まで連れて行ってもらうことにした。
ちなみに、大鬼族を2人ほど護衛に付けて行こうと思う。
レイナを呼び、転移ゲートを開いてもらい、トラヴァーユの街へやって来た俺達は、この街からの援助も受けることが出来ないか掛け合ってみることにした。
レイナの話によれば、魔虫族の王は最下層にいるらしい。
俺達は、トラヴァーユの街の最下層を目指して進む。
しかし、トラヴァーユの街の最下層への道のりはとても長かった。
街は地中の中にある蟻の巣の様な構造をしており、しかも広大だ。
1層目だけでも10k㎡はあるだろう。
それが何層もあり、下へ降りる通路を見つけるのも一苦労なのである。
しかも、その通路が王の間へ繋がっているとも限らない。
通路の所々に、光の下位精霊を使っているのか、明かりが灯っており、魔法を使わずとも周囲が見えることが救いであった。
俺達は、トラヴァーユの街の最下層を目指して4日目にして漸く、王の間の手前まで辿り着いた。
王の間の前には門があり、武装した体長3mはあろうかという魔虫族が10体以上いる。
俺は、魔虫族に王に会うことが出来ないかと念話で話しかけた。
(やあ、俺はゼド・セドリックという者だが、君達の王に会わせてもらいたいんだが。)
(王はお忙しい。お前達のような者にかかずらっている暇はないのだ。)
(どうしたら、会ってもらえるか教えてくれないか?)
(そうだな。年に1度開かれる武闘会で優勝したら、その表彰式で会えるかもな。)
(で、武闘会はいつあるんだ?)
(つい最近、武闘会があったばかりだから、ほぼ1年後だな。)
(この街にも脅威が及びそうな事案があるんだが、それでも無理か?)
(無理だな。そして、その脅威に対するために俺達が存在している。
この街に俺達がいる限り、王に手出しはさせない。)
(そうか、じゃあ、一応話だけしておくよ。
実は、1年以内に10万もの悪魔の軍勢が攻めてくるという情報を上位悪魔から聞き出したんだ。
今、各都市に協力を願い出ているところなんだが、まだ20,000程度の戦力しか集まっていない。
トラヴァーユの街からも援助を受けることが出来ないか、確認しに来たんだ。
話は以上だ。また来る。)
そう言い、俺達は転移魔法で町へ戻ったのであった。
それから、2日後、俺はまたトラヴァーユの王の間の門の前までやってきた。
(やあ、先日話した件だけど、やっぱり王に会わせてもらうことってできないかな?)
(お前か、俺達は、この街と王を守るために産まれてきた。約30,000の魔虫族がこの街を守っている。
お前達はお前達だけで戦うが良い。俺達も俺達の為だけに戦うだけだ。)
(・・・判った。健闘を祈るよ。)
俺は、これ以上話しても無駄だと思い、町へ戻ったのであった。そして、その翌日、ヒュドラが来た。
俺は、大鬼族に用意させておいた肉を持ってこさせて、ヒュドラに食べさせた。
そして、予定通り転移ゲートを開いてトラヴァーユの街までヒュドラを移動させた。
ヒュドラは、蜥蜴の様に這いずって何とか転移ゲートを潜った。
トラヴァーユから北西の方角にあるアムルの都市を目指すのだ。
いつもだったら、転移ゲートは使わないのだが、今回は転移ゲートでヒュドラが一度も行ったことが無いところから出発することになるので、問題なく到着できるか怪しい。
それにしても、ヒュドラの背に乗って海の上を飛ぶのは初めてである。
この世界に人間として降り立ち、海を見るのも初めてになる。
この世界の海はどんな色をしているのだろう?
遥か彼方の記憶を辿り、青の様な、緑の様な色を思い浮かべる。
潮の香りはするのだろうか?
海の水はしょっぱいのだろうか?
色々と想像を巡らせてしまう。
俺はヒュドラの背に乗り、アムルの都市を目指して進む。
ヒュドラの背に乗って1時間ほどした頃、海が見えてきた。
海は浅いところは白っぽく、緑っぽく見え、深いところは濃ゆい青のような色をしている。
飛んでいる場所が高いので、潮の香りは感じられない。
もちろん海水の味を確認することも出来ない。
俺は、ヒュドラに一旦海際に降りてもらうように頼んだ。
波打ち際に降り立った俺は、潮の香を感じ、海水を舐めてみる。
「かなり、しょっぱいな!」
俺は、一人呟いた。
海水がしょっぱいとなると、岩塩を採取するのと、海水から塩を採るのとではどちらが効率が良いだろうか?
だが、海水がしょっぱいと判ったのは大きな収穫であった。
いや、待てよ?
岩塩が取れるということは、そこは遥か昔は海の底だったからであって、海がしょっぱいのは当たり前じゃないか。
何を考えていたんだ?という結論に辿り着いた。
そんな事を考えながら、ヒュドラの背に乗ってアムルの都市を目指すのであった。
世界地図