第21話 リザードマン達との出会い その3
シチリガドへ戻った俺達は、レプリティアンがいる建物へ向かった。
建物に到着すると、2階へ案内され、レプリティアンに会い、状況を伝えた。
1.ドラグーンのイオン女王は、サラスヴァティーの加護を受けるためには、国教を変更する必要があることを知ったため、攻めてはこない可能性が出てきたこと。
2.水があるところであれば、サラスヴァティーが出現できること。
3.傭兵として潜入し、1週間後にはシチリガドへの侵攻が始まる予定であったことを聞き出したこと。
4.俺達は、転移魔法で一度行った場所には即座に移動することが可能なこと。
それだけ伝えると、また明日にでもドラグーンへ向かい女王の意志を確認しに向かうことにして、転移魔法で俺達の町へ戻ったのであった。
街へ戻ると、夕方であったため家に戻り、躰を休める。
それにしても、今日はハードな1日だった。
シチリガドで水聖霊サラスヴァティーに会い、一悶着あった後、レプリティアンに会って、ドラグーンで傭兵になり、イオン女王に会い、最後にシチリガドのレプリティアンに会って来たのだから。
眠らずとも良い躰ではあるが、流石に疲れた。
暫く、ぼーっとしていると、グラントが岩塩の売り上げの報告にやって来た。
こちらは順調のようである。
町の住居の建設も順調に進んでおり、新たに2棟の建物が出来ていた。
ちなみに1棟に20部屋あるので、2棟で40部屋である。最初は1部屋1匹が入ると思っていたのだが、どうやら、1部屋に1世帯が入っているようである。
考えてみれば、それも納得であった。
合計5棟の建物が出来ているので、100世帯分の住宅が出来ていることになる。
まだ、この周辺のゴブリン族がこの町に集まってきているらしく、ゴブリン達の正確な数が把握できていない。
ゴブリン族が400匹程度として、妖鬼族と大鬼族だけでも300人程いるので、住宅の完成度としては、まだ半分と言ったところであろうか。
ちなみに、以前探してきたスラッグスライムだが、いつの間にか各棟のトイレに住みついているらしい。
数もかなり増えてしまっている模様である。
俺達の町も、いずれはシチリガドやアイアロンを超えるような立派な街にしたいものである。
そんなことを考えながら、夜は更けていくのであった。
翌日、上位悪魔から結界魔法を習得できたかどうかを、ジルに尋ねた。
すると、物理攻撃に対する結界魔法は習得できたものの、精神攻撃に対する結界魔法の習得はまだ出来ていないとのことであった。
これは、精神攻撃を使用できる者が、この町には居ないことが原因の一つであろうと思われる。
唯一、精神攻撃が可能な者と言えば、この上位悪魔しかいないのである。
しかし、この上位悪魔を自由にさせるには危険が大きすぎる。
何せ、転移魔法で自由に移動出来て、しかも、混沌世界という精神攻撃魔法で自由に対象を操ってしまうことが可能なのだから。
俺は、ジルから物理攻撃に対する結界魔法の使い方を教えてもらい、午後からイオン女王に会いに行くことにした。
習得方法はと言うと、ジルの物理攻撃を、俺が結界で防ぐのである。
そして、何度か失敗したら回復薬を使うという荒業で、1時間程で物理結界魔法を習得できたのであった。
ジルには、引き続き精神結界魔法の習得に励むように伝え、俺は昨日とは違う大鬼族を2人連れてドラグーンへ向かったのだった。
勿論、転移魔法を使用できる2人であることは言うまでも無い。
俺達は、ドラグーンの街を観光して回ることにした。
まだ、時間に余裕があったからである。
このドラグーンの街は、はやり病や飢餓で倒れている者もいたが、市場等もあり、珍しい物も売っていた。
例えば、大サンショウウオのような生き物であったり、生きたワイバーン等も売られていた。
その他に、武器等も売っており、売れ筋は三又の槍だそうだ。
屋外の戦いでは、リーチがある槍が有利なのだが、屋内になると刀等の小回りが利く武器が有利となる。
買主は、屋外戦を想定していることが明確である。
そして俺は、俺達の町でも屋外では槍を使い、屋内ではショートソードや刀等を使うようにした方が良いと思うのだった。
市場では他にも、盾や鎧等も売っている。
俺達の町でも、武器と盾以外の鎧等はまだ手を出せていない。
アイアロンから来てもらっている7人のドワーフ達だけでは、町づくりに、武器の作成、盾の作成で手一杯なのである。
しかし、ゴブリン達もドワーフの弟子として武具の作成等を手伝っている。
いずれは、ゴブリン達も、充分使用できる武具を作成できるようになることだろう。
「さて、そろそろイオン女王に会いに行きますか。」
と俺は呟いた。
後ろの二人が頷く。
俺は、転移魔法で王宮の前に出た。
そして、昨日の門兵に、女王への謁見を申し出た。
まあ、いきなり女王の間に転移するのは気が引けるし、手順を踏むことにしたのである。
そして、女王の間に通された俺達は、イオン女王に問いかけた。
「シチリガドへの侵攻の件、まだ実行する予定ですか?」
「シチリガドへの侵攻は取り止めだ。しかし、何百年も続いた信仰を変える等、簡単に出来ることではない。
住民の怒りの矛先をお前達に向けてやろうか?」
「それは、恐ろしい。住民のはやり病は、衛生上の問題があるのでは?
それに、食糧事情は転移魔法で解決できるかと思うが。」
「我の街には転移魔法を使用できる者等おらぬわ。」
「俺達の町には、スラッグスライムと言う汚物をエサとして生きているスライムがいるので分けてやってもいい。それに、転移魔法を使える者も大勢いる。その中の一人を、連絡役としてこの街に派遣しても良い。」
「ほう、それを条件に悪魔との戦いに手を貸せということか。」
「話が早くて助かる。そういうことだ。」
「悪魔との戦いに手を貸すかどうかは、結果を出してからだな。」
「結果が出ることは、もう目に見えている。」
こうして、ドラグーンの街へ連絡要員として1人を派遣することと、スラッグスライムを分けてやることでイオン女王からの協力を取り付けることに成功したのであった。(結果を出すという条件付きではあるが。)
なお、戦力的には約8,000人程の派遣が可能らしい。
俺達は、シチリガドへ転移魔法で移動し、レプリティアンにシチリガドへの侵攻は無くなったことと、ドラグーンの街の女王から、条件付きで悪魔達との戦いで協力を得ることになるだろうという話をした。
レプリティアンは安堵し、また、連絡要員としてシチリガドにも転移魔法を使える者を派遣してもらえないかとの依頼があった。
俺は、レプリティアンに1年で金貨600枚を条件に、1人連絡要員を用意することを提案した。
レプリティアンは快諾し、俺は少し安かったかと思ったが、まあ良しとした。
こうして、シチリガドの街からも対悪魔戦において協力を得られることになった。
なお、シチリガドの戦力的には約2,000人の派遣が可能らしい。1人1人が上位悪魔クラスと考えるならば、大きい戦力である。
俺は、転移魔法を俺達の町以外の住人には安易には教えないようにした方が良いと思った。
一度行ったことがある場所に何時でも行ける等、危険すぎるのだ。
ある日、気が付いたら軍勢に取り囲まれていた等、洒落にならないのである。
そして、今後、転移魔法の話は極力しないようにしようと心に誓ったのであった。
俺達は、町へ転移魔法で戻った。
それから、ガラムにこう言った。
「ガラム、君に頼みたいことがある。
実は、対悪魔戦において、リザードマン達の協力を得られることになった。
但し、条件があって、その条件とはドラグーンの街へ転移魔法を使用できる連絡要員を一人送ること。
それから、スラッグスライムを分け与え、ドラグーンの都市の衛生面を守ること。
この2つが条件なんだ。
君達の中から、幹部以外で適任である者を選んで欲しい。
それから、シチリガドの都市からも連絡要員を1人出して欲しいとの要望があって、1年間で金貨600枚を条件に、転移魔法を使用可能な連絡要員を送ることになった。
こちらも、幹部以外で適任である者を選んで欲しい。
決まったら、俺が2人をシチリガドとドラグーンへ送っていくから、教えてくれ。」
「承知しました、ゼド様。」
後日、ガラムが2人の大鬼族を連れて来たので、その2人には、転移魔法を外部の人間には決して教えないようにするよう指示した。
そして、俺が直接シチリガドの街に転移魔法で移動して、レプリティアンに紹介した。
また、もう1人も同様にドラグーンの街に転移魔法で移動して、イオン女王に紹介した。
スラッグスライムを3匹持って行ったので、その内、勝手に増えてドラグーンの街の衛生面は改善されるだろう。
いやはや、対悪魔戦は俺達だけの問題じゃないだろうに。
外交とは疲れるものだ、と思うのだった。
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