第15話 妖鬼族の生き残りを探して
妖鬼族の集落跡に、転移してきたガラム達は、付近の探索を進める。
この集落跡以外にも、周辺には幾つも集落があったからだ。
中には、悪魔達からの襲撃を逃れた集落もあるかもしれない。
慎重に悪魔からの襲撃を警戒しながら、他の集落を目指す。
まずは、北の方角から探す。
一つ目の集落を発見し、生存者を探すが、蛻の殻である。
次は、南西の方角を目指す。
二つ目の集落も、蛻の殻である。戦闘の跡が残り、悪魔の襲撃を受けたことが判る。
次に南の方角を探す。
そこにある集落にて、5体の悪魔と遭遇した。
まだ此方には気が付いていないようだが、妖鬼族の死体を喰らっている。
5体の悪魔は、上位悪魔のようである。
もっと早く来ることが出来ていれば、助けれたかもしれない。
ガラムの心の中に怒りが湧き上がってきた。
ガラムは、今行動を起こせば、他の悪魔にも気が付かれるかもしれないとも思ったが、本能のままに怒りに身を任せてしまった。
故郷を破壊され、目の前で同胞を殺され、力及ばず逃げ延びるしかなかった自分を許すことが出来なかったのである。
ガラムは、怒りに身を任せ、大剣を振り下ろす。
まず、1体の悪魔を切り伏せた。
次に、魔法で4体の悪魔の動きを止めるために魔法を放つ。
「超重力場!」
この魔法は、一定範囲内の対象に通常の20倍程度の重力を与えることが出来る。
例えば、対象の体重が70kgとしたら、1.4t程度になる魔法なのだ。
動きを止められた悪魔は、魔法で抵抗した。
悪魔の中の1体が、ガラム達の精神支配を狙い魔法を唱える。
「混沌世界!」
この魔法は、対象の精神に作用し、堕落させ思いのままに操ることが可能となる魔法なのだが、大鬼族に進化し、精神攻撃耐性をも獲得したガラム達には効果を及ぼすことはできない。
ガラムは、それが自分の耐性によるものであることに自覚できず、怒りの為、精神が高揚している為であると誤認するほどに怒っていた。
魔法で動きを止めた悪魔を1体切り伏せ、悠然と歩を進める。
残りの3体の悪魔が、魔法攻撃を行う。
「闇魔球!」
この魔法は、極小規模なブラックホールを作り出し、対象の体の一部分を飲み込んでしまう魔法。なのだが、大鬼族に進化し、大幅に身体能力が高くなったガラムには当たらない。
それどころか、1発は手に持つ大剣で弾き返してしまった。
進化に伴い、武器に自分の闇属性の魔法を纏わせ戦う戦法を編み出したのである。
上位悪魔達は驚愕した。
今まで捕食の対象でしかなかった妖鬼族に似た種族が、悪魔の中でも上位である自分達よりも圧倒的に勝っている現実を目にして、驚かずにはいられなかったのである。
ガラムが、また1体の悪魔を真っ二つに切り捨てた。
残りの悪魔は、2体である。
恐れ慄いた悪魔の1体が、召喚魔法を唱え始めた。
他の1体の悪魔と自身を生贄にして、さらに上位の悪魔の召喚を試みたのである。
そして、1体の悪魔が召喚された。
下位魔将である。
その姿は、名前に比して悪魔に似つかわしくない神々しさをも感じさせる。
漆黒の4対の翼、真紅の瞳に漆黒の衣装、禍々しい弓のような武器、それに只ならぬオーラを発している。
その悪魔が語りかけてきた。
「お前が種となるのだ。」
「何の話だ?」
「私が魔王となるための、な。」
もはや、会話等不要であった。
この悪魔が何と言おうとも、ガラムの怒りが収まることは無かったのだ。
互いの力は拮抗し、何時間もの間戦った。
ガラムが距離を詰め、悪魔は通常の転移魔法とは異なった、瞬間移動とも言える魔法を使い、距離を取り、禍々しい弓の様な武器で遠距離から攻撃する。
力は互角であっても、決して相性が良いとも言えない相手に対し、愚直に攻めるしかないガラムは、2人での連携による攻撃に勝機を見出すしかなかった。
ガラムの魔法は闇属性であるが、もう一人の大鬼族は、土属性の魔法を使う。
土人形という魔法で、何十体ものゴーレムを使役出来るのである。
この物量差によって、機を伺うしかないのである。
対する悪魔は、火属性の魔法を纏わせた矢の雨を際限なく降り注いでくる。
壊されたゴーレムもまた際限なく再生し、また盾となり、ガラムはその身体能力と闇魔法を纏わせた大剣を以て攻撃を防ぐ。
なかなか勝敗は付かず、周囲の地形は変わり、焼け野原になった。
そんな中、勝機は突然訪れた。
ガラムが距離を詰め、大剣を振り翳し、またもや瞬間移動で逃げられると思ったその時、瞬間移動が発動しなかったのだ。
その魔法は、転移魔法と異なり、一度使う度に膨大な魔力を消費してしまうのだった。
また、膨大な火の雨とも言える矢の魔法も膨大な魔力を消費していただろう。
2人の大鬼族を相手に善戦していた下位魔将は、ガラムの一太刀を受けて蹲る。
そして、ガラムは止めを刺すべく、その悪魔の首を刎ねた。
はずだった。しかし、気が付いた瞬間、下位魔将の体は修復され、直後、その姿は消えてしまったのだった。
ガラムは、その悪魔に逃げられたと確信した。
絶好の機会に、精神をまでも断ち切ることが出来なかったということに気が付いたからだ。
ガラム達は、新たな追手が来ることも予想して、次の集落へ向かうべく、妖鬼族の生き残りを探し続けるのだった。
次は、東である。
東に向かうと、また廃墟となった集落があった。
「ここもダメか・・・。」
と大鬼族が呟く。
更に東へと向かうと、まだ無事な集落があった。
凡そ100人は居るのではないだろうか。
恐らく避難してきた妖鬼族もいるのだろう。
人数に対して建物の数が少なすぎる。
ガラムは、彼等に今まで見てきた集落の状況を説明し、希望する者は俺達の町へ移住することを提案した。
すると、ほぼ全員が俺達の町へ移住することを希望したため、ガラムは準備が整い次第、転移ゲートを開き彼等を俺達の町へ送ったのであった。
なお、ほぼ全員と言ったのは、まだ他の場所に避難している者がいるらしく、彼等を置いて行くことは出来ないとのことであったので、ガラムはそこへ向かうこととした。
案内されて付いて行くと、1時間程、東へ向かったところにある洞窟に避難している妖鬼族達が50人程いた。
彼等に対しても、先ほど集落で説明したことと同様の説明を行い、全員が俺達の町への移住を希望したため、ガラムは転移ゲートを開いて、彼等を俺達の町へ送った。
その後、北に向かい残された妖鬼族達がいないか捜索したが集落は見つからなかった。
更に北へ向かうと、集落があり、妖鬼族達が100人程いたため、他の集落の状況を説明したところ、彼等も移住を希望したため、ガラムは転移ゲートを開き、俺達の町へと送ったのであった。
その後も、捜索を続けたものの、妖鬼族に出会うことは出来なかったので、捜索は終了となった。
ガラム達は、転移魔法で町へ戻り、俺に捜索結果や経緯等を報告するために、俺の家へやってきた。
実は、町の広場のすぐ近くに俺の家が完成していたのである。
報告を受けた俺は、総勢250名程の妖鬼族達の仮設住宅を用意する必要があると考え、ゴブリにその対応を任せたのであった。
また、大勢の妖鬼族達が仲間に加わったので、彼等を町の皆に紹介する必要があると考え、町の住人を広場に集めた。
「やあ!皆、今日も集まってくれてありがとう。
今日は、また新しい仲間が来てくれたので、その紹介をするために集まってもらったんだ。
えーと、妖鬼族達が悪魔から逃れてきて50人程、俺達の仲間になってくれた訳だが、今回、取り残された妖鬼族達を捜索した結果、何と250人程が俺達の町に移住してくれることになった。
先ほど、ゴブリに彼等の仮設住宅を用意するように指示したところだから、皆も協力をお願いする。
また、今後、攻めてくる悪魔達に対抗する際に大いに戦力として期待できる仲間だと思っている。
皆仲良くやっていってほしい。」
こうして、俺達の町の妖鬼族(大鬼族含む)は300名程となったのであった。
なお、子供も含まれているので、全員が戦力となるわけではないのだが、いずれは全員を大鬼族に進化させたいものである。
世界地図