第10話 新しい町づくり その3 &悪魔襲来
翌朝、町の住人を広場に集めて妖鬼族を紹介した。
(皆、おはよう!先日話した妖鬼族なんだが、俺の呼びかけに答えてくれて、総勢50名がこの町の仲間となってくれることになった。
彼らは、下位魔将や上位悪魔から逃れて来たんだが、魔素が濃ゆい地域で暮らしていたことからも判る通り、戦闘力が高いのでこの町の防衛等に貢献してくれることになると思う。
それでは、誰か代表して挨拶を頼む。)
押し付けあうように押されて出てきたのは、例の青髪の妖鬼族である。
(え?俺?聞いてないんだけど(;゜Д゜))
(・・・えーと、何も考えていなかったんだが、俺の名前は「ガラム」だ。妖鬼族を代表して挨拶させてもらう。先ほど説明があった通り、力及ばず悪魔達から落ち延びてきて右も左も判らない状況だ。色々と至らない点があって迷惑をかけることもあると思うが、よろしく頼む。)
こうして、俺達の町に妖鬼族を迎え入れることになったのである。
俺は、妖鬼族に町づくりの様子を見学させ、手伝えることは手伝ってほしい、特に用事がある場合はその都度伝えるといった内容の話をした。
また、妖鬼族の中でも幹部的な人物の名前を教えて欲しいので、決まったら教えてくれるよう依頼した。
さて、今日の予定は終了したし、のんびりするか。
と思って通りを歩いていたところに、ゴブリンが数匹やってきて念話で話しかけてきた。
(ゼド様!俺達も、今度ドラゴンに乗せてください!!)
よく見ると、1匹は、ゴブリン達の幹部の一人であるゴブノンだった。
(何だ、皆、ヒュドラに乗りたかったんだな?今日か、明日頃にはヒュドラがやってくるから、考えとくよ。)
しかし、いつも自然と念話ばかり使っていたが、俺も最近は段々と言葉が判るようになってきた。
難しい単語なんかは判らないけど、簡単な会話程度なら大丈夫である。その内、いきなり普通に喋って驚かせてみたいものだ。
なお、人間の様な発声器官が無い種族(竜種・黒豹族等)は念話で意思疎通を図るほか無いのだが。
ヒュドラの気まぐれなのか、普通に肉が欲しいだけなのか判らないが、定期的に俺の町へ来てくれている。
いつまでもこの状況が続くとも限らない。
今のところは、何とか町づくりの資金確保の見通しが立っているが、ヒュドラがいなくなると一気に苦しくなりそうだ。
この世界には魔法があるのだから、もし転移魔法の使い手がいれば良いのだが・・・。
俺は、この世界のことを意外と知らないのかもしれない。そう思うのだった。
翌日、予定通りヒュドラがやってきた。ヒュドラに肉を与え、
(今日は獲物がでかいから、これで2日分な。)
と言い、前回、岩塩の洞窟へ連れて行ったゴブリンと、昨日ヒュドラに乗せて欲しいと言ってきたゴブリンの内から1匹、それから用心棒役の妖鬼族2人を呼んだ。
そして、2人と2匹に対して、念話でこう言った。
(さて、今から君達には、ヒュドラに乗って岩塩の洞窟へ行ってもらう。途中で落ちないようにしっかり掴まっていてくれ。
それから岩塩の洞窟に着いたら、岩塩を皮袋10袋分採取して欲しい。これには1日かかるから、洞窟付近で一夜を明かしてくれ。
岩塩の洞窟付近で夜を過ごす際、夜には下位悪魔が出ることがあるので気を付けて欲しい。
そして、翌日に、またヒュドラが来てくれるから、ドワーフの街への入り口である洞窟前までヒュドラに乗せて行ってもらい、市場で岩塩を売ってきて欲しい。
なお、前回は岩塩1袋が金貨70~80枚で売れたので、それを参考に売ってきてくれ。
そして、最後にドワーフの街からここまでの帰りは歩きになるが、頑張ってきて欲しい!)
そう伝え、2人と2匹はヒュドラの背に乗って旅立っていったのだった。
それから4日後、ドワーフのブロックとエイトリが、ドワーフの街から戻ってきた。
無事に建設資材は購入できたとのこと。追加の人員については、ドワーフの王に話をしなければならないのですぐには答えられないとのことだった。
次回の岩塩採取の際には、俺が付いて行き、アンドヴァリに直接会って王への謁見を願い出ることにする。
そうそう、そう言えば妖鬼族の幹部について報告があったんだった。
一人は青髪の妖鬼族「ガラム」である。その他は、「レイナ」、「シュリ」、「ジル」、「グラント」である。今後は、この5人が中心となって妖鬼族を纏めて行ってもらうことになる。
彼等も、常時警護を行う必要はないので、木材の切り出しや大工仕事、農業を手伝ってもらうこととする。
農業と言えば、ゴブリン達も玄米だけでなく、自分達で育てることが出来る野菜を色々と探しているようである。俺も念話で、色んな野菜のイメージを伝えておくことにしよう。
俺の知らないところでも、町が発展しているようで何よりだ。
ドワーフのブロックとエイトリが帰ってきた翌日、ヒュドラに乗って旅立って行った2人と2匹が無事帰ってきた。岩塩は全て売れて金貨730枚、銀貨201枚になったとのことであった。
この調子で行けば、1か月で金貨2,100枚、1年で25,200枚程が期待できそうである。
まあ、毎回、岩塩の洞窟に行くことが出来れば、の話であるが・・・。
今後、ヒュドラのための肉の用意は、妖鬼族に任せることにしよう。
俺は、近くにいたレイナに、5日後に来るであろうヒュドラに与える肉を準備しておくように伝えたのであった。
それにしても、霊薬草の情報がさっぱり出てこない。
なので、妖鬼族に黒豹族に乗って調査してもらうことにした。
黒豹族は4頭いるので、4方向に散って探索してもらう算段なのである。
そんな事を考えている最中、ゴブリン達の悲鳴が上がる。
集落の南東側で、上位悪魔が数体現れたのである。
魔素力が濃ゆい地域ではないにも関わらず、上位悪魔が現れるとは予想外である。
緊急事態なのは間違いない。
俺は、妖鬼族の幹部たちを集め、町を守るため対応するように指示をする。そして、俺も、ヘパイストスと共に現地へ向かいつつトールを召喚する。
現地へ到着すると、6体の上位悪魔がいた。
魔法を唱える上位悪魔。
「混沌世界!」
この魔法は、対象の精神に作用し、堕落させ思いのままに操ることが可能となる魔法なのだ。
上位悪魔に操られる妖鬼族と、ゴブリン達。妖鬼族の中には抵抗出来ている者もいるようだが、乱戦となり範囲攻撃は使えない。
まずはヘパイストスの攻撃である。
「熱波閃光弾!」
ヘパイストスの周囲に複数の青白い火球が生じて、それが複数の青い閃光となって1体の上位悪魔に放たれる。
しかし、物理・精神攻撃に対して結界を張っている上位悪魔に対しては致命的な攻撃にはならないようである。
次に、トールが別の上位悪魔に対して攻撃を放つ。
「虹雷の槌!」
この攻撃で、1体の上位悪魔を倒すことが出来た。
俺は、操られているゴブリンや妖鬼族を相手取り、動きを止める魔法を放つ。
「超重力場!」
この魔法は対象範囲への重力を10倍程度に引き上げることが出来るのだ。その為、対象は、殆ど動くことが出来なくなるのである。
これは、闇属性の魔法なのだが、先日妖鬼族に教えてもらったのである。
残った5体の上位悪魔が魔法で攻撃を行う。
「闇魔球!」
3人の妖鬼族が倒れ、ヘパイストスとトールにも攻撃が当たるが、こちらはすぐに体が復元する。
ヘパイストスの攻撃である紅炎励起爆炎覇は、仲間を巻き込んでしまうため使用出来ない。
その為、熱波閃光弾を放ち、この2回目の攻撃で上位悪魔を1体倒す。
操られている仲間も行動不能にしたし、俺も、攻撃に回るとしよう。
「風刃の嵐!」
この攻撃で、2体の上位悪魔を倒した。
「虹雷の槌!」
これで、敵は残り1体である。そして俺はこう言う。
(さあ、降参するか、それとも死か?どっちだ?選べ!)