最初の仕事(チュートリアル)
最初の無双回
煉瓦の壁にもたれかかり死んだように眠った。しばらくして意識が途切れると、直後に生まれたての太陽が顔を照らす。
「おはよー、って。おお!?」
眼を開けると黒山の人だかりが出てきていた。どうやら、この異世界においてホームレスは一般的じゃないのかもな。それとも、浮浪者を禁止する法律でもあるのだろうか? しっかし、異世界人が人間と変わらない容姿を持ってるのは、よかったぜ。
「おお、君。起きたかね。転生者はまず住所登録をせなあかんから、あそこのおっちゃんに付いていき」
「あ、ありがとうございます」
そうか、まあ石畳がある程の文明だから、そのくらいシステム化されてるだろう。立ち並ぶ家も煉瓦造りの西洋風で文明の発展度合いが伺える。悪くない。
「おい、ボウズ、ついてこい」
そして肌の黒いおっさんに連れられてきたのはギルドという場所だった。二階建ての、お洒落な長方形の建物だ。ここの一階で仕事を受けることが出来る。当分の間はお世話になるだろう。そして、手続きを終え、ギルドカードを発行してもらう。このカードがあれば、この街の教会に無償で止めてもらえるらしい。
「最初の仕事は、これがいい。ここから近いからな」
そうおっさんが指したのは、薬草採集の求人であった。説明文を読むと、どうやらレベルを下げる薬草を摘んで帰って来るだけのようだ。ギルドカードの自分の特性の欄に〈デバフがかかりやすい〉とあるが心配だな。しかし、他の仕事も似たり寄ったりの危険性なので大人しく進められるがままに、クエストを受けた。
[採集]
ここは町の外れ、煙突から立ち上る煙が遠くに見える。俺、斎藤は、下花《Under frower》と呼ばれる薬草が一面に生えている草原に来ていた。この花には、レベルを下げる効果があり、その際、ダウナー系の麻薬のような感覚を引き起こすという。ゆえに嗜好品としての価値があり、この世界では普通に取引されている。その効果は重複せず、またレベルの下げ幅は1で固定なんだとか。健康的な成人なら、解毒まで半日もかからないが、吸い続けると肺に遺伝子のエラーを生じさせるので問題となっている。
「摘むか」
先っぽの若い芽をちぎって背負った籠に放り込む。その作業の繰り返し。いっぱいになれば日本円に換算して一万五千円程度の儲けである。これで生きていく人間もいるようだ。悪くない就職先かもしれんな。ただ、自分は口に入れないようにしなければ。レベルが1下がって、0になれば動けなくなる。衰弱死は御免だぜ。
「きゃぁぁぁああ!!!」
草原の奥から悲鳴が響く。そこでは若い娘がクマのような生物に襲われていた。俺は「まあ来世があるし捨て身で助けるか」と実際に呟いて、助けることにした。
「おい、こっちだ」
俺は石を毛むくじゃらの肉食哺乳類に投げる。そいつは、一見するとクマに見えるがそれは耳が大きいという点が違っていた。そんな獣に小石を投擲する。小石が当たると、猛獣は彼女を口から離した。娘は這って草原に消える。その様子を見届けて、もう大丈夫かなと思い、死ぬ覚悟を決めるため下花の芽を飲み込んだ。力が抜けていく。人を助けられてよかった。さよなら。
「さよならな、また来世」
俺は意外に動ける余裕から、クマに抱き着いて終わろうと、そちらへ突進する。目を瞑って掴む、するとその大型動物は、たちまち赤い霧になって消えた。パラパラと真紅の土砂降り。周りを見渡すと、緑の草原が真っ赤に染まっていた。
「な、?」
なんのこっちゃと思い、ステータスをオープンする。ログには、レベルアップの表示。戦歴を確認すると倒した数に1プラスされていた。レベルも2に上がったようだ。ははぁ、オーバーフロウを起こしたな。なるほど、ここら辺は生前、詳しい友達がいたから知っている。しかし困った、レベルが上がるともうこの戦法は使えない。まあ一人助けられたしいいか、と思い、スキルを確認すると特性の効果を引き上げる項目があった。これで、あの薬草を服用するとレベルが3下がるという。まだ、あの戦法が使えるらしい。しかしながら、このスキルツリーがどこまで続いてるか未知数な以上、むやみにレベルを上げるのは得策ではないだろう。
「よし、仕事終わり」
主人公はあの後も仕事をつづけた。夕方になる。俺は町全体が喫煙してるかのような、空気の汚い生まれ故郷に帰ることに決めた。ぐんぐん進むと町の中央には巨大な塔がある。ギルドから聞いた話によると、塔の天辺のT4ファージの頭のような五角形には、魔石とかマジックアイテムとかが封じ込められているのだとか。それで町での魔法の使用を禁じているのである。これからの生活に思いをはせずにいられなかった。
さて、主人公の異世界生活、どうなるのか。