80.それぞれの夜…
その日の夜…
メディス伯爵邸では家族で話をしていた。
「エリーゼ…王太子妃の話本当にいいんだな?」
マイクは心配そうな表情を浮かべながらエリーゼへと尋ねた。
「はい…。」
エリーゼは頷きながら応えた。
「その道を選んでいた後悔はしないんだな?」
マイクは更に心配そうにエリーゼへと尋ねた。
「はい。後悔はしないわ…。」
エリーゼは頷きながら応えた。
「エリーゼが考えて出した結果なのであれば私達家族は全力でエリーゼを応援しようと思う…。」
マイクはどこか寂しそうな表情を浮かべながら言った。
「マイクの言う通りよ…。私達はエリーゼが決めたことなのであれば全力でエリーゼを家族として支えるわ…。」
ナディアもどこか寂しそうな表情を浮かべながら言った。
「私も支えるが…もしも…殿下がまたエリーゼを悲しませたり傷つけたりしたら…今度こそ許さないつもりだがな…。」
ブラットは少し不貞腐れた様な表情を浮かべながら言った。
「お父様…お母様…お兄様…。」
エリーゼは三人の言葉に目をうるっとさせながら言った。
「ブラットの言う様に…もし…また殿下に酷い事をされたら…すぐに私達に言うんだぞ?その時は全力でエリーゼを守ってやるから…。」
マイクは心配そうな表情を浮かべながら言った。
「ありがとう…。でも…もう…きっと殿下が私を悲しませる様な事はないと思うわ…。もう…今の殿下なら大丈夫だって思えるの。同じ様に…私も殿下を悲しませたり傷つけたりしたくないとも思っているしね…。」
エリーゼは三人を安心させるかの様に優しい笑みを浮かべながら言った。
「まさか…この様な形になるとは数ヶ月前は誰が想像しただろうか…。エリーゼが王太子妃候補として入宮して寂しい思いをしていた所にエリーゼの悲しい知らせを受けて気が気でなかった…。ようやく…記憶が戻り我が家に戻ってきたと思ったらまたエリーゼが離れて行くと思うと寂しく思うな…。」
マイクは切なく寂しそうな表情を浮かべながら言った。
「お父様…。」
エリーゼはそんなマイクを見て自分も切ない表情を浮かべながら言った。
「そうね…。また四人で暮らしていけると思ったけれど寂しくなるわね…。でも…エリーゼが幸せになれるのならばそれが一番嬉しい事でもあるわ…。」
ナディアは少し切ない表情を浮かべながら言った。
「お母様…。」
そんなナディアにエリーゼが言った。
「そうだな…。エリーゼが幸せになれるのであればそれが一番だな。寂しくはなるが一生会えなくなる訳ではないのだからな。」
マイクはナディアの話を聞いて笑みを浮かべながら言った。
「そうよね。」
ナディアも笑みを浮かべながら言った。
「もう…エリーゼと今までみたいに王都の街へと気兼ねなく遊びに行く事はできなくなるんだな…。」
ブラットは寂しそうな表情を浮かべながら言った。
「ふふ…。ブラットは本当にエリーゼの事が可愛くてたまらないのね。」
ナディアがくすくすと笑いながら言った。
「何だか…妹を殿下に取られた気分だよ…。」
ブラットは不貞腐れた表情で言った。
「お兄様ったら…。」
エリーゼはそんなブラットを見て笑みを浮かべながら言った。
「私は…王太子妃となったら今でみたいに皆と過ごす時間は減ってしまうけれど…予定さえ合えば帰りたい時にここへ帰らせて貰える様に殿下にはお願いするつもりでいるの…。だから…ここへ帰ってきた時は今までみたいに皆でミルクを搾ったり野菜を採ったりパンを焼いたり皆で楽しく過ごしたと思っているのだけどいいかな?」
エリーゼはどこか切ない表情を浮かべながらもすぐに笑顔で三人へと言った。
「あぁ。もちろんだとも。」
「ええ。もちろんよ。」
「いつでも大歓迎だ。何なら飽きるまでここへ居ればいいさ。」
三人がエリーゼへ嬉しいそうに笑顔で応えた。
「ありがとう…。王宮での生活には不安があるけれどこうして帰ってこれる場所があるって思うだけで頑張れそうだわ。」
エリーゼは嬉しそうに笑いながら言った。
「きっと…エリーゼは素晴らしい王太子妃になると私達は信じているよ。」
「どうしても辛くて仕方ない時はここへ帰ってきて思いっきり愚痴を言えばいいわ。」
マイクとナディアは笑みを浮かべながら言った。
「ありがとう…お父様…お母様。」
エリーゼは笑顔で二人へお礼を言った。
「もし、エリーゼが王太子妃教育が辛くて泣いて戻ってきたら私が殿下に怒ってやるからな。」
ブラットは自信満々に言った。
「もう…お兄様ったら…。ふふ…でも心強いわ。」
エリーゼはそんなブラットにくすくすと笑みを溢しながら言った。
「こうして…四人で過ごせるのもあと少しになるかもしれないから今のうちに思い切り楽しい時間を過ごすとしよう。」
マイクが笑顔でエリーゼ達へと言った。
「「はい!!」」
エリーゼ達は笑顔でマイクへと応えたのだった。
※
同じ頃…
王宮では…
カイゼルはアリストンに呼ばれてテラスにやって来た。
「伯父上…お呼びですか?」
カイゼルが椅子に座っていたアリストンへと言った。
「おぉ。カイゼルか。よく来たな。まぁ…座れ。」
アリストンがカイゼルに笑顔で言った。
「はい。」
カイゼルは応えると椅子へと座った。
「今日は…疲れただろう?」
アリストンがカイゼルへと尋ねた。
「まぁ…そうですね…。色々な意味で気疲れしましたね…。伯父上の演出に一番気疲れしましたよ…。」
カイゼルは困った表情を浮かべながら応えた。
「はは…。私のせいか?だが…そのお陰で全てが上手くいったのだからいいではないか…。」
アリストンは笑いながら言った。
「それはそうですが…。ですが、何故私が最初に伯父上の家へと行った時に私が王太子だと知っていて自分が叔父だと教えてくれなかったのですか?」
カイゼルふと疑問に思っていた事を尋ねた。
「ん?そんな事を教えたらお前の本心が見えなくなるからだろ?あえて王太子だと知らないフリをした方がお前もやりづらくなかっただろ?それに…私はガストンへ王太子の座を譲り王宮から離れて暮らしている身だからそう簡単には正体は言えないさ…。いくら甥の前でもな…。」
アリストンはカイゼルへと説明した。
「まぁ…確かに王太子としてではなくカイとして過ごせた事は大きかったと思いますね…。」
カイゼルはアリストンの話を聞いて納得したという表情を浮かべながら言った。
「カイゼルが私の所を訪ねてくる前からエリーゼの状況はメディス伯爵から聞いていたから知っていたんだ。カイゼルとエリーゼが接触している事もメディス伯爵達は知っていたんだよ…。」
アリストンがカイゼルへと説明した。
「え?メディス伯爵達は私がエリーゼの元へと行っているのを知っていたのですか?」
カイゼルはアリストンの話を聞いて驚いた表情を浮かべながら言った。
「あぁ。私がエリーゼを助けた時にすぐにエリーゼだと分かったからメディス伯爵邸を訪れたんだよ。」
アリストンが説明した。
「気になっていたのですが…エリーゼと伯父上のやり取りを見ている限りエリーゼと伯父上はエリーゼが記憶をなくす以前から知り合いだったのですか?」
カイゼルはアリストンへと尋ねた。
「あぁ。エリーゼやメディス伯爵達と初めて会ったのはもぅ…八年も前の話だ…。あの頃のエリーゼの面影が残っていたからエリーゼを助けた時にすぐにエリーゼだと分かったんだよ。八年前に…私はメディス伯爵に命を救われたんだ…。それから体調が回復するまでメディス伯爵家で世話になっていたんだよ…。」
アリストンが昔を思い出す様にカイゼルへと説明した。
「命を救われた…ですか?!」
カイゼルはアリストンの話に驚いて尋ねた。
「あぁ。八年前の事件…をもちろん覚えているだろう?」
アリストンはカイゼルの顔を見て尋ねた。
「八年前の事件…。もちろんです…。忘れたくても忘れる事の出来ない事件でしたから…。」
カイゼルは表情を歪めながら言った。
「その…八年前のカイゼル誘拐事件の際に犯人を捕らえたのは私だ…。」
アリストンがカイゼルへと言った。
「え…?伯父上があの時の犯人を…ですか…?」
カイゼルはアリストンの話に驚きを隠せず言った。
「あぁ…。だが…その犯人を捕らえる際に犯人の持っていた毒が塗ってある剣が私にかすってしまってな…。毒が身体に回ってしまい森の中で私は倒れてしまったんだよ…。だが…そこへメディス伯爵が通りかかって私を助け伯爵邸へと連れ帰り解毒薬を飲ませてくれたのだ…。お陰で命を落とさずに済んだという訳だ…。」
アリストンが当時の事をカイゼルへと説明した。
「まさか…あの時に…そんな事が起こっているとは…。知りませんでした…。」
カイゼルは驚きの表情のまま言った。
「それはそうだろうな…。カイゼルに詳細を話すわけにもいかなかっただろうし、私も王宮外で仕事をしている身だからな…。」
アリストンが応えた。
「では…その時にエリーゼとも過ごされたんですね。」
カイゼルが言った。
「あぁ。エリーゼは子供の頃からとても心の優しい子だった。毎日毎日…私が休んでいる部屋に来ては色んな話を聞かせてくれたり…気晴らし外へ散歩に行くのもいつも一緒だった…。アリおじさまアリおじさまといつも笑顔で私に懐いてくれていてな…。夜もいつも私の元へ来て一緒に眠っていた。私が眠くなる様にと絵本を読んでくれたがいつも読んでる途中にエリーゼが寝てしまってな…。そんな姿がとても愛おしくて可愛くてな…。将来はアリおじさまのお嫁さんになるとまで言っていたんだぞ?私の体調が回復してメディス伯爵邸を去る際にはエリーゼは寂しいと泣いてな…。また必ずエリーゼ達に会いに行くと約束したが私も多忙の日々が何年も続いていたりとなかなかエリーゼ達に会いに行けなかったんが…。まさか…あんな形での再会になるとは驚いたがな…。」
アリストンは昔を思い出しながらとても優しい表情を浮かべながらカイゼルへと説明した。
「伯父上は…エリーゼと一緒に寝ていたんですか…?それに…叔父上のお嫁さんにと…。」
カイゼルは物凄く不貞腐れた表情を浮かべながらアリストンへと言った。
「はは…尋ねるとこがそこなのか?」
アリストンはカイゼルが尋ねてきた内容に笑いながら言った。
「許しがたい事ですね…。」
カイゼルは不貞腐れた表情のまま言った。
「ははは…。エリーゼが子供の頃の話だぞ?お前…そんなに嫉妬深いとエリーゼに愛想尽かされてしまうぞ?」
アリストンは呆れ笑いを浮かべながら言った。
「こんな姿エリーゼには見せませんのでご安心下さい!」
カイゼルはツーンとした表情を浮かべながら言った。
「まったく…お前という奴は…。しかし…そうやって人間らしい感情をお前が持つようになってくれた事は良いことだ…。」
アリストンは呆れながら言うと優しい表情を浮かべながら言った。
「……。確かに…今までの私なら嫉妬するなどという感情などなかったかもしれないですね…。」
カイゼルが言った。
「あの事件以来…お前は人への関心や感情が欠陥していたな…。カイゼルが知らないところで私は幼い頃からカイゼルを見てきたしガストンからも聞いていた。それもあり…お前が記憶のなくしたエリーゼの前に現れた時にふと…エリーゼと過ごせばカイゼルが人間らしくなるかもしれないと思ったのだ…。それでメディス伯爵夫婦とガストンやアイリーンと共に話をして私がエリーゼとの接触をお願いしてメディス伯爵夫婦からその許可をもらったんだよ…。」
アリストンはどこか切ない表情を浮かべながらカイゼルへと説明した。
「そうだったのですか…?私の知らないところでそんな事になっていたなんて…。」
カイゼルはアリストンの話を聞き驚いて言った。
「もしも…エリーゼを悲しませたり傷つけたりしたらすぐにカイゼルを引き離すと約束してな…。だが…私の思っていた通り少しづつだがカイゼルは人間らしくなっていった。その成長していく姿は叔父として単純に嬉しいものだったよ…。結局エリーゼの記憶が思ったよりも早く戻ってしまいエリーゼに悲しく辛い思いをさせてしまったんだがな…。」
アリストンは切ない表情を浮かべながら言った。
「そうだったのですね…。何と言っていいのか分かりませんが…伯父上…ありがとうございます。」
カイゼルは考える様な表情を浮かべながらアリストンへとお礼を言った。
「はは…急にどうした?」
アリストンは驚いた表情で言った。
「いや…まさか伯父上がそこまで考えて下さっていたなんて…と思いまして。」
カイゼルが言った。
「いざ、真剣にそう言われると照れるもんだな…。」
アリストンは少し恥ずかしそうに言った。
「最後の伯父上の演出には度肝を抜かれましたが結果的に…エリーゼとの話すことが出来…お互いの気持ちも再度確かめる事が出来て望んでいた通りなりました…。本当にありがとうございます。」
カイゼルは真剣な表情を浮かべながらアリストンへ改めてお礼を言った。
「カイゼル…前に私が言った事を覚えているか?」
アリストンが言った。
「前にとは…?」
カイゼルは??という表情で言った。
「前に釣りをしながら話したことがあるだろ?何があってもカイゼルが絶対にエリーゼを守りきれと…。」
アリストンが真剣な表情でカイゼルへと言った。
「あぁ…はい。言われました。」
カイゼルは思い出した様に応えた。
「あの約束はこれから生涯守り抜くんだぞ?お前がエリーゼを悲しませる事や傷つける事などない様に…エリーゼが何か辛かったり悲しかったり悩んでる時は必ず一番にお前が力になってやらなければならないし守ってやらないといけない。いいか?絶対にこの約束を守りきれるか?」
アリストンは真剣な表情でカイゼルの目を真っ直ぐ見て尋ねた。
「はい…。もちろん生涯その約束は守ります!」
カイゼルは真剣な表情でアリストンの目を真っ直ぐ見て言い切った。
「……。そうか…。それならばよい。可愛い甥と実の娘の様に思っているエリーゼの二人がこれからも末永く幸せになる事を私は…心から祈っている…。」
アリストンはカイゼルの真剣な表情と決意を感じて笑顔を浮かべながらカイゼルへと言った。
「はい。ありがとうございます。伯父上…。」
カイゼルも笑顔になり言った。
「あっ…でも今後はあまりエリーゼと馴れ馴れしくしないで下さいね。」
カイゼルは真剣な表情でアリストンへと忠告した。
「この状況でまだそんな事を言うのか?」
アリストンはカイゼルの言葉に呆れた表情を浮かべながら言った。
「大事なことですから。」
カイゼルは頷きながら真剣な表情で言った。
「……。まぁ…それは約束出来ないかもしれないな。何せエリーゼが私を慕ってくれているからな。」
アリストンはニヤリと笑みを浮かべながら言った。
「伯父上!!」
カイゼルはムスっとした表情で言った。
「ははは…ははは…。」
そんなカイゼルを見てアリストンは笑っていたのだった。
こうして…
長い長い一日が終わったのだった…
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この度、男装令嬢・キャサリンは探偵助手をする事になりました!!
〜探偵様は王子様?!事件も恋も解決お任せ下さい〜
公爵令嬢シャーロットは、3度目の人生を生き抜くと決意しました!!
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