8.向けられる悪意
エリーゼはテオを抱いたまま、フェイと共にエリーゼの部屋へと向かっていた…
「あの…フェイ様、私少し寄りたい所がありますのでこの辺りまでで大丈夫ですので…それと、本日はご迷惑をおかけしました…色々と気を使って頂きありがとうございました。」
「寄りたい所ですか?本日のお茶会の件に関しましては私の確認不足な事もありましたのでエリーゼ様がそこまで気を病むことではありません…」
エリーゼは、歩きながらフェイへと言うとエリーゼがした失態についてフェイへと申し訳なさそうな表情を浮かべて謝罪とお礼をした。
エリーゼに言われたフェイは、優しく大丈夫だと言った。
そして、エリーゼの寄りたい所を尋ねた。
「あっ…はい。厨房へと少し寄ってから部屋へと戻りたいと思いまして…お茶会に向かう為に急ぎ厨房を出てきましたのでユーリさんやロイさん、残してきたマリアにも一言伝えておきたいのです。」
「昨日の今日で、もうユーリ達と普通にお話されているのですか?!ユーリもロイも使用人の中でも気難しい者なのに…」
エリーゼは、少し気まずそうにフェイへと寄り道の説明をした。
フェイは、エリーゼがユーリやロイに会いに行くと聞きとても驚いた表情で言った。
「王妃様も仰ってましたが、ユーリさんやロイさんはそんなにも気難しい方達なのですか?私はそんな風に感じないのですが…」
「そうなのですか……?まぁ…どう捉えるかはその方次第ですからね…」
エリーゼは、フェイに言われた事を不思議にそうに思っている様な表情で言った。
フェイは、エリーゼの表情を見て驚いた表情のまま言った。
「あぁ…他のご令嬢方にもお伝えしたのですが、本日通達がありまして明後日に殿下が公務からお戻りになられるとの事です。お戻りになられてもすぐにまた公務があられるのですが…二日程は王宮へご滞在の様ですのでその間にご令嬢方にと共にお食事をされるご予定となっていますので覚えておいて下さい。」
「殿下は、とてもお忙しい様ですがきちんと休息の方は取られているのですか?睡眠なども…立場上、公務で大変だと思いますけど体あっての事ですからあまり無理などされなければいいですが…」
フェイが、あっ!っという表情でエリーゼへカイゼルが帰ってくる事を伝えた。
フェイの話を聞いたエリーゼは、少し困った様な心配そうな表情で言った。
「そうですね…確かにしっかりとお休みになられた事はここ数年ないかもしれませんね…」
「そうなのですか……。それではフェイ様もご心配でしょうね…」
フェイは、困った様な表情を浮かべながら言った。
フェイの言葉を聞いたエリーゼは、心配そうな表情を浮かべながらフェイへと言った。
フェイが、エリーゼを見て何かを言おうとした所で厨房へと到着した。
「では…フェイ様、ここまで大丈夫でございます。送って頂きありがとうございました。」
「いえ…本日はお疲れ様でした…」
エリーゼは、送ってくれたフェイへとお辞儀をしながらお礼を言った。
フェイも、一礼をしながら応えた。
(ふぅ〜…それにしても緊張したわね…でも、王妃様がお優しい方で良かったわ…最初は緊張したけれどとても話しやすい方だったわ…殿下も明後日にはお戻りになるのね。それにしても休む暇もないなんて体に良くわよね………。あっ、そうだわ。)
エリーゼは、送ってくれたフェイの背中を見ながら考えていた。
そして、急に何かを思いついたかの様だった。
何かを思いついたエリーゼが、厨房の中へと入ろうとした時だった。
「エリーゼ様、少しお話よろしいですか?」
エリーゼに声を掛けてきたのはサリーだった。
サリーの横にはビリーもいた。
「サリー様…ビリー様…はい…大丈夫です。」
エリーゼは、驚いた表情をしながらもサリーへと応えた。
「エリーゼ様に、ご忠告しておこうと思いましたの…本日のお茶会への遅刻の件で、王妃様が優しいご対応をされたからといって浮かれない方がよろしくてよ?王妃様は、国母であられるからあの様にお優しい対応をなされたの…エリーゼ様が特別だからではありませんのよ?それを勘違いされてませんよね?」
サリーが、エリーゼを睨みつけながら強めの口調で言った。
「エリーゼ様は、まさか御自分が王太子妃に選ばれるとでもお思いですの?それでしたらとんだ勘違いですわよ?!エリーゼ様が王太子妃候補としてこちらへ呼ばれたのはもはや事故の様なものですわ…だって考えたら分かる事ですものね?公爵家の令嬢である私とサリー様と伯爵家のエリーゼ様じゃ格が違い過ぎますもの…」
サリーの横にいたビリーも、エリーゼを睨みつけながら強めの口調で言い放った。
「だから、あまり勘違いして行動しない方がよくてよ?明後日には殿下がお戻りになられる様だけど殿下の前で出しゃばった行動などは控えて下さいね。とにかく御自分の身分と立場をきちんとわきまえて下さいますわね?」
「王宮から実家にお戻りになる日まで、せいぜい侍女の出来損ないの様なメイドや使用人達とでも仲良くされていたらいいわ。エリーゼ様にはそれがお似合いですもの…ふふ…」
サリーが、更に強い口調で牽制する様に言い放った。
ビリーも、小馬鹿にする様な笑みを浮かべながら強い口調で言い放った。
「はい…十分に承知しております…サリー様とビリー様のご迷惑になる様な事はしませんのでご安心下さい。それと…私の事は何と言われても構いませんが使用人の方の事をその様に言うのはやめて下さい…お願い致します…」
エリーゼは、俯きながらも意を決してサリーとビリーへと懇願した。
「何様ですの?使用人は所詮使用人ですの。使用人を庇うなど…王太子妃にでもなったおつもりですの?本当に気分が悪くなりますわ…」
「本当に…何の権限があってその様な発言をなさっているのです?本当に図々しい方だわ…サリー様、エリーゼ様と話していたら気分が良くありませんわ…もう行きましょう…」
「そうね。こんな所一秒でも早く立ち去りたいわ…とにかく忠告はしましたわよ?きちんと自分の立場をわきまえて下さいね。」
サリーは、エリーゼの言葉に血を昇らせた様な強い口調で言った。
ビリーも、信じられないという表情をして強い口調で言った。
二人は、エリーゼへと吐き捨てる様に言うとその場を後にしたのだった。
(はぁ…一体何なのかしら…私は王太子妃なんかになりたいなど思った事もないというのに…早く家に戻りたいわ…)
サリーとビリーに、こっ酷く言われたエリーゼはため息をつきながら思っていた…
エリーゼがそんな事を思っていると、そんな三人のやり取りを厨房の中で聞いていたユーリとロイとマリアはエリーゼの発言を聞きその場で目を潤ませていたのだった…