75.辛すぎる現実
翌日、エリーゼはメディス伯爵邸に戻る為に少ない荷物をまとめていた。
ある程度の荷物をまとめたところでふと窓際の鉢植えが目に入った。
(鉢植えはどうしよう…。花が咲いたけれど…今更…どうしようもないもんね…。)
エリーゼは鉢植えを見つめながらそんな事を思っていた。
「エリーゼ!支度はできたか?そろそろメディス伯爵邸へと向かおうと思うんだが。」
アリストンが一階からエリーゼに向かって声をかけたのだった。
「あっ…。支度は出来たからすぐに下りるね。」
エリーゼは慌てて応えた。
そして、エリーゼは迷いに迷ったが鉢植えも一緒に持ち帰る事にしたのだった。
そして、アリストンとエリーゼは荷物を持って家を出た。
家を出たエリーゼは扉の前で家に向かって一礼をした。
「エリーゼ、何故礼をするんだ?」
アリストンは不思議そうに礼をしたエリーゼへと尋ねた。
「え?だって…アリおじさまのお家にお世話になったから。」
エリーゼは笑顔で応えた。
「ははは…何だそれは。これからも気兼ねなく遊びに来たらいいさ。」
アリストンは笑いながらエリーゼへと言った。
「あっ、そうだね。」
エリーゼは笑顔で応えた。
そうして二人はメディス伯爵邸へと向かったのだった。
メディス伯爵邸へと到着した二人をマイク達が出迎えてくれた。
数少ない使用人達も目に涙を浮かべながらエリーゼの帰りを出迎えてくれた。
「「エリーゼ…おかえり…。」」
マイク達三人は涙を浮かべながらエリーゼを優しく抱きしめながら言った。
「た…ただいま…。」
エリーゼも涙を浮かべながら微笑んで三人を抱き返しながら言った。
そんな四人の姿を見てアリストンと使用人達は微笑んでいた。
「さぁ…一日遅れたがエリーゼの誕生日のお祝いをしようじゃないか。」
マイクが涙を拭いながら笑顔で言った。
「あっ…そうか…。昨日は私の誕生日だったのね。それで昨日ここへ来る予定があったのね…。」
エリーゼはマイクの言葉を聞いてハッとした表情を浮かべながら言った。
「そうよ…。エリーゼの記憶がなくても皆でお祝いしてあげたかったのよ。さぁ…エリーゼの好物をたくさん作ってあるから。」
ナディアがエリーゼの頭を優しく撫でながら言った。
「さぁ…早く皆で席に着いて始めよう。」
ブラットが笑顔で言った。
「うん。」
エリーゼは嬉しそうに微笑みながら言った。
「アリさんもこちらへ…。」
マイクがアリストンにも笑顔で言った。
「あぁ。ありがとう…。」
アリストンは笑顔で応えた。
そして、エリーゼ達は食堂へと移動して使用人達も一緒にエリーゼの誕生日のお祝いをしたのだった。
エリーゼはもちろん久しぶりに皆で過ごす時間をマイク達家族も楽しそうに過ごしていた。
アリストンも自分が助けて貰った時を思い出すかの様に楽しく過ごしていた。
(また…こうしてこの家で皆で楽しく生活が出来るのね…。王宮には…もう行くこともないんだもんね…。)
エリーゼは楽しく過ごす中でふとそんな事を思っていた。
※
誕生日会を皆で楽しく過ごしていると時間はあっという間に過ぎて気づけば夜になっていた。
エリーゼは庭にあるベンチに一人で座り星を見ていた。
「エリーゼ…どうしたの?こんな所で。風邪引くわよ?」
ナディアがベンチに座っていたエリーゼに気づいて外へと出てきてエリーゼに声をかけた。
「お母様…。」
エリーゼがナディアへと言った。
「…。記憶が戻ったいうのに何だか浮かない顔ね…。記憶が戻った事嬉しくは…ないの?」
ナディアがエリーゼの表情を見ながら心配そうに尋ねた。
「あっ…ううん…記憶が戻った事は嬉しいわ。家族の事もアリおじさまの事も思い出したんだから…。」
エリーゼはあまり浮かない表情のまま応えた。
「でも…それでも浮かない表情をしているのは…殿下の事…かしら?」
ナディアは少し困った表情を浮かながらエリーゼへと言った。
「え…?」
エリーゼはナディアの言葉に思わず驚き言った。
「ふぅ~…。実はね…エリーゼが行方不明になった時に一度、陛下と共に殿下がこちらへ来られたのよ。謝罪しにね…。その後…殿下がエリーゼの元へと訪れた事も知っていたのよ…。」
ナディアは一度息を吐くとエリーゼへと説明した。
「えっ…?お母様達は知ってたの…?」
エリーゼはナディアの説明に驚いた表情で言った。
「えぇ…。アリさんからエリーゼの事を知っている男性二人が訪れてきたのだけれどエリーゼと会わせても大丈夫か?とね…。それで…一度どんな男性かマイクと確かめに行った事があってね。その時にその男性が殿下だと知ったのよ…。」
ナディアは経緯をエリーゼへと説明した。
(王兄殿下が殿下を殿下と知っていたとは言えないものね…。)
ナディアはエリーゼに説明しながらもそんな事を思っていた。
「そうだったんだ…。」
エリーゼはナディアの話を聞き言った。
「えぇ…。最初は殿下がエリーゼと接触する事には不安と戸惑いがあったのだけれどマイクと相談した結果…殿下とエリーゼの接触を断る事はやめたのよ…。アリさんのお話だと殿下もとてもエリーゼがあんな目に遭ったことを気にされていたみたいでね…。」
ナディアは更にエリーゼへと説明した。
「殿下と会っているうちに記憶が戻りそうもしくは…エリーゼを悲しませまり傷つけたりすればすぐにアリさんが知らせてくれる手はずになっていたの…。」
ナディアは少し切ない表情を浮かべながら説明した。
「そんな事があったのね…。」
エリーゼは驚きの表情のまま言った。
「ごめんね…。結果的にエリーゼをより…悲しませる事になってしまって…。」
ナディアは申し訳なさそうにエリーゼへと伝えた。
「ううん…。お母様達がそんなに気をやむことはないわ…。」
エリーゼは切ない表情を浮かべながらもナディアを心配させまいと笑みを作りながらナディアへ言った。
「……。エリーゼ…あなた…殿下の事を想っているのね…?」
ナディアは無理に笑顔を作っているエリーゼを見てやりきれない思いでエリーゼへ尋ねた。
「えっ…?」
エリーゼは驚いて言った。
「エリーゼの浮かない顔の原因は…その事が原因ではない…の?」
ナディアは切なくも優しい表情でエリーゼへ優しく言った。
「……っ!」
エリーゼはナディアの言葉にグッと唇を噛み締めた。
「辛い時は…辛いって言いほうがいいわよ…。」
ナディアは優しくエリーゼの手を握りながら言った。
「……。ッ…。ふっ…ん…グスッ…。」
エリーゼはナディアに手を握られると我慢していた涙を流しながら声を漏らした。
そんなエリーゼをナディアは優しく抱きしめた。
「クズッ…。殿下は…カイさんは…初めは怖くて近づきにくい人だったの…。でも…段々と時間を過ごしていくうちに…不器用でも優しさが見えて…自分でも…気づかないうちに…本当に…本当に…いつの間にか…カイさんに惹かれていたの…。」
エリーゼはナディアに抱きしめられたまま涙をポロポロと流しながらナディアへと話した。
そんなエリーゼの背中をナディアは優しく撫でた。
「カイさんも…私を想っていてくれると言ったの…。好きな相手と…同じ気持ちになれるって…こんなにも幸せで嬉しくて…満たされるんだって…思ったの…ただ…カイさんに会えると知ると嬉しくて…一緒にいる時間が幸せで…。」
エリーゼは涙が止まらないまま話した。
ナディアはうんうんと頷きながらエリーゼの話を黙って聞いた。
「でも……カイさんは…カイさんは…殿下だった…。とても酷い言葉を私にかけた張本人だった…。殿下は私への後ろめたさから…カイさんとして…私に優しくしてくれたんだわ…。カイさんとして私と過ごした日々は…全て偽りだったのよ…。」
エリーゼは悲しさに満ち溢れた表情を浮かべながら言った。
「せっかく…記憶が戻ってお父様やお母様、お兄様…使用人の皆…それにアリおじさまの事を思い出してこうして…一緒に過ごしているのに…殿下の事を思い出すと…辛くて…悲しくて…いっそ…記憶なんて戻ろなければと思ってしまうの…。お母様達は私の記憶が戻るのを…側で見守ってくれたのに…こんな考えを思ってしまう自分も嫌なの…。」
エリーゼはひたすら涙を流しながら言った。
「カイさんが…殿下だった事がショックでたまらなくて…この気持ちをどうしていいか分からないのに…それでも…カイさんを…好きになったことだけは…なかった事にしたくても…どうしても出来ないの…それが余計に辛くて…どうしようもないの…。」
エリーゼはナディアを抱きしめながら自分の辛い気持ちを吐き出した。
そんなエリーゼをナディアは何も言わずただ優しく抱き返しながら話を聞いたのだった。
そんな二人の姿を廊下の陰からアリストンとマイクが見ていた。
「エリーゼのあんな姿を見ていると…胸が張り裂けそうです…。」
マイクは胸を押えながらやりきれない表情で言った。
「あの時…殿下をエリーゼに会わせる事を止めていたならこんなにエリーゼが悲しむ事はなかったのでしょうか…。」
マイクは更に切なくやるせない表情を浮かべながら言った。
そんなマイクをアリストンは切ない表情を浮かべながら見ていた。
そして…エリーゼの方を見た。
(エリーゼ…私がカイゼルに会わせたばかりにこんな事に…この様な事態になる事を一番恐れていたというのに…)
アリストンはエリーゼを見つめながらそんな事をやりきれない思いで思っていた。
そして…
「伯爵…私に一つ考えがある…。エリーゼの為にも協力してはくれないだろうか…?」
アリストンはマイクへと尋ねた。
「協力…ですか?」
マイクは訳が分からないという表情を浮かべながら言った。
「あぁ…。」
アリストンは頷きながら言った。
「……。分かりました。エリーゼの為なのでしたら協力致します。」
マイクは少し考えた後に頷きながら応えた。
「ありがとう。感謝する…。」
アリストンはマイクへとお礼を言ったのだった。
それからアリストンはメディス伯爵邸を後にして自宅に戻りすぐに王宮にいるガストンへと手紙を出したのだった………
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