55.カイゼルの決死の誘い
エリーゼとカイゼルはお互い渡したかった物を渡せてお互いそれを受け取ってもらえてホッとしていた。
そして何よりも本人達自信も気づかぬうちにエリーゼもカイゼルもとても幸せそうな表情をしていたのだった。
そんな二人をこっそりとアリストンとフェイが覗いていた。
『王兄殿下…覗き見というのは…』
『よいではないか。私が空気を読みカイゼルとエリーゼを二人きりにしたのだから。』
『それはそうですが…。』
エリーゼとカイゼルを覗き見していたフェイとアリストンは小声で会話をしていた。
『しかし…あのカイゼルが女性相手に装飾品を買う日がくるとはな…。』
『はい…。それは私も驚きました。ですがとても良い事だと思いました。殿下はエリーゼ様の記憶が戻ってきているという事を知ってから複雑な心境が続いておりましたので…。』
『そうだな…。王太子としてではなく一人の人として相手に何かをしてあげたいという気持ちは大切だからな…。しかし…やはりそうか…。エリーゼの記憶が戻りつつある状況を知りカイゼルは複雑な気持ちを抱いているだろうと思っていたのだ…。』
『御自分のせいでエリーゼ様が記憶喪失になったと解っていても、エリーゼ様と距離が遠からず近からずの今はエリーゼ様の記憶が戻りエリーゼ様が殿下の事を思い出したその時の事を思うと辛いようです…。』
『ふむ……。しかし、エリーゼの記憶が戻りカイゼルを思い出した時にはきっとエリーゼもショックを受けるだろうな…。出来る事ならエリーゼにその様な思いをさせたくないからカイゼルがいない時に記憶が戻ってくれるのが一番なのだがな…。』
『その様に都合よくはいきませんよね…。せっかくお二人の距離が少しづつ縮まってきて何か変わるのではないかと思っていたところですのにね…。』
『一先ず…今は様子を伺いながら見守るとしよう…。それよりカイゼルとフェイに伝えておきたい事があるから後ほど話す。』
『??分かりました。』
アリストンとフェイは小声でエリーゼとカイゼルの様子を伺いながら話をしていたのだった。
そんな事に全く気づいていない二人の間にはどこか照れくさい様な空気が流れていた。
そんな中先に口を開いたのはカイゼルだった。
「エリーゼ……。その…次のアリさんの仕事が休みの日は俺とフェイも休みだから…その…二人で出かけないか……?」
カイゼルは緊張した堅い面持ちを浮かべながらエリーゼへと勇気を出して誘った。
「ふっ!二人で…ですか?」
エリーゼはカイゼルの誘いに驚き思わず声を上げた。
すぐに声を上げたのを恥ずかしく思い顔が赤くなり気まずそうにしていた。
(驚いたわ…。お土産を頂いたのだけでも驚いたというのに…カイさんと二人でお出かけするなんて…)
エリーゼは、動揺を隠せないまま心臓の鼓動が激しくなりながらそんな事を思っていた。
「あっ…あぁ…。二人でだ…。俺と二人で出かけるのは…やはり…嫌だろうか…?不安だろうか……?」
カイゼルはエリーゼの反応を見て一気に不安な気持ちにかられショックを隠しきれないという表情を浮かべながらエリーゼへ言った。
(やはり…エリーゼは…私と二人きりで出かけるなど…嫌なのだな…。あの様に声をあげて動揺するのだからな…。やはり…エリーゼは無意識に私を拒絶しているのかもしれないな…。)
カイゼルはショックを隠せないまま少し俯き気味にそんな事を思っていた。
「えっ…あっ…いえ…勘違いしないで下さい…。嫌とか不安とかでは…ありません…。ただ…急なお誘いで驚いただけですので…。嫌とかでは…本当にありませんので…。アリさんに聞いてみないといけませんが…その…私で良ければ…というのも変ですが…よろしくお願いします…。」
エリーゼはカイゼルの反応を見て勘違いさせてしまったと思い慌てて言った。
そして、少し照れながら少し声が小さくなりながらもカイゼルへと応えた。
(お誘いは驚いたけれど嫌なんて全く思わなかったわ…。それどころか…嬉しく思ってしまったというのに…。本当にここ最近おかしいわね…。カイさんの事になると心臓は急にドキドキが止まらないしキューっと締め付けられるし感情も忙しいもの…)
エリーゼはカイゼルに言いながらそんな事を思っていた。
「本当か?!本当に良いのか?」
カイゼルは先程まで俯き気味だったのが嘘みたいに顔を上げ声を張って言った。
「えっ…えぇ。はい。」
エリーゼは急に顔を上げて声を張って言ったカイゼルに驚き言った。
「コホン…誘いを受けてくれてありがとう…。アリさんには、わた…俺から伝えておく。」
カイゼルは自分が声を張った事にエリーゼの反応を見て気づくと咳払いをしつつ声のトーンを戻して言った。
「こちらこそお誘い下さって…ありがとうございます…。」
エリーゼは頭を軽くペコっと下げながら言った。
「その…出かける場所なのだが…スケートをした後に街で開催される花火を見るというのはどうだろうか……?」
カイゼルはまたも緊張の面持ちを浮かべながらエリーゼへと尋ねた。
「スケートと…花火ですか……?はい!大丈夫です。……。出かけるのはいつですか……?」
エリーゼはカイゼルの言葉に頷きながら笑みを浮かべながら言った。
「そうだな…。花火が開催されるのは明後日の様なので明後日はどうだろうか…?アリさんに仕事の予定を確認してみなければならないが…。」
カイゼルは少し考える様にエリーゼへと言った。
「明後日ですか…。分かりました。アリさんのお仕事の予定にもよりますがカイさんのご予定が宜しければ私は明後日で大丈夫ですよ。」
エリーゼも少し考える様にカイゼルへと応えた。
「そうか…。俺の予定はアリさんの手伝いがなければ予定は空いているから大丈夫だ。」
カイゼルが言った。
「そうですか…。でしたら後は…アリさんに聞くだけばいいのですね。」
「あぁ…そうだな…。」
エリーゼが言うとカイゼルが応えた。
「あ〜何だ…誘いを了承してくれて…ありがとう…。」
「あっ…いっ…いえ…。」
カイゼルが少し照れを隠すような表情を浮かべてエリーゼの顔をチラリと見ながら言った。
するとエリーゼは少し照れた様に頬を赤らめながら言った。
(顔が熱いわ…。本当に熱いわ…。)
エリーゼはカイゼルと話しながらそんな事を思っていた。
エリーゼとカイゼルの二人の間には緊張と何か温かい様な空気が流れていた。
『ワインを置いて見てみれば…王太子だと言うのにエリーゼに対してのあの緊張丸出しの態度ときたら…。』
ワインを小屋へと置いて家の中へ戻ろうとしたアリストンとフェイは家の中のエリーゼとカイゼルのやり取りを見て部屋に入るタイミングを伺っていた。
エリーゼに対するカイゼルの態度を見たアリストンは苦笑いを浮かべながら小声でフェイへと言った。
『ハハハ…王太子しての殿下は全くもってあの様ではないのですがね…。どうもエリーゼ様にはあの様になってしまう様ですね…。』
フェイも苦笑いを浮かべながらアリストンへと言った。
『しかし…二人で出かけるなど…フェイ…お前がカイゼルに入れ知恵したのであろう?』
『ハハ…王兄殿下は何でもお見通しですね。』
『どう考えてもあのカイゼルが思いつくとは思えんからな…。』
『……。確かにそうですね…。』
『はぁ…。しかし出かける先がスケートと花火とはな…。フェイお前はそういう事に詳しいのだな。』
『詳しくなどありませんよ…。実は私の父と母が若い頃に王都へよく出かけてスケートをして花火を見たそうでそれを思い出しただけなのです。ハハ…』
『ほぅ…グランドー公爵とご夫人がか…。ハハ…青春だな。』
『そうなのですよ。』
『一先ず…エリーゼは拒否する事なく誘いを受けたのだからカイゼルに予定を聞かれたら駄目だとは言えないな。』
『はい。そこは宜しくお願いします。』
『二人で出かけてる途中にエリーゼの記憶が戻ろない事を祈るばかりだがな…。』
『それは…切実に願うところでございます…。』
『この選択が二人にとっていいものであるといいがな…。』
『……。そうですね…。』
『……。さぁそろそろ覗き見も終わりだ。寒いし家の中へ入るぞ。』
『はい。承知しました。』
アリストンとフェイはエリーゼとカイゼルを見ながら扉の外で小声でやり取りをしていたのだった。
そして、その後アリストンとフェイは家の中へと入った。
その後…カイゼルから予定を聞かれたらアリストンは予定は大丈夫だから出かけてこいとカイゼルとエリーゼへと言ったのだった。
アリストンの言葉を聞いたエリーゼとアリストンはどこか嬉しそうな笑みを浮かべていたのはお互い気づいていなかったのだった。
そして……
「エリーゼ…。すまないが少し二階へと行っててくれるか?カイとフェイへ次の仕事について話をしたいからな。エリーゼにはつまらない話だろうから二階でゆっくりするといい。」
アリストンがエリーゼの方を見てエリーゼへと言った。
「分かりました。では、二階で編み物をしていますのでお話が終わったら声をかけて下さいね。」
「あぁ。わかったよ。」
エリーゼはアリストンから言われると頷きながら応えた。
そして、アリストンもエリーゼへと応えたのだった。
そしてエリーゼは二階の部屋へと向かったのだった。
アリストンはエリーゼが二階の部屋へと入るのを確認するとカイゼルとフェイを椅子へと座らせた。
アリストンの表情がどこか険しく真剣な事に気づきカイゼルとフェイは不思議な表情でアリストンを見ていたのだった………。
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