52.それぞれの思いが募る夜
マイク達が帰ったその日の夜……
エリーゼは夕食を済ませて後片付けをすると自分の部屋へと戻って買ってきた毛糸を取り出した。
そして、早速その毛糸を使ってカイゼルへと渡す手袋を編み出したのだった。
「本当にブラットさんのお陰で本当に素敵な毛糸が手に入ったわね…。」
エリーゼは手袋を編みながら呟いた。
「カイさんに似合う色を想像していたけど想像通りの色の毛糸だからきっとカイさんに似合うわね。」
エリーゼはクスリと微笑みながら呟いた。
そして、エリーゼは黙々と丁寧に一針一針手袋を編んでいった。
「カイさんとフェイさんがもう…三日も来ていないなんて何だか変な感じがするわね…。一週間と少しって意外と長いわね。次にカイさん達が訪れる時までには手袋完成させなきゃね。」
エリーゼはそんな事を呟きながら編み物を続けていた。
「カイさん…手袋気に入ってくれるかしら…。カイさんは今も手袋をしないまま寒い思いをしてるのかしら…。手が霜焼けなどになっていないか心配だわ…。」
エリーゼは編み物を続けつつそんな事を呟いた。
「何だか…カイさんに会えないのは寂しいわね………」
エリーゼはポツリと呟いた。
そしてすぐにハッとなり手で口元を覆ったのだった。
(私…今何て言った……の?カイさんに会えなくて寂しいと言ったの?…………。そんな事を無意識に思ってしまうなんて…。)
エリーゼは口元を手で覆ったままそんな事を思っていた。
(何だか…この間カイさんに抱きかかえてもらった時から何だか胸がざわざわしてるみたいでおかしいわ…。それに…カイさんと会えなくて寂しいなんて…本当に私…どうしてしまったのかしら…)
エリーゼは口元から手をそっと離しながらそんな事を考えていた。
「あっ…いけない…。考え事していたら編み物の手が止まってしまっていたわ。さぁ…続き編まないとね…。」
エリーゼは、ふと編み物をする手が止まっていた事に気づくと一人呟きながらまた編み物をする手を動かしたのだった…。
その後、エリーゼは一時間と少し手袋を編み続けていた。
「ん〜……ふぅ〜…編むのに集中していたらあっという間に時間が経つわね…。あと一息で手袋の片方が編み終わりそうだけれど今日はここまでにしとこうかしら……」
エリーゼは、体を伸ばしながら声を出した。
そして、一人で呟きながら窓を開けて空を見上げた。
「わぁ〜!今日はとても星がきれいだわ…。明日はきっといいお天気になりそうだから寒さも少しは和らぐかしら。カイさん達もこの星が見えているかしら…。」
エリーゼは、空を見上げると星があまりにも綺麗だったので思わず驚いた表情を浮かべながら言った。
そして、ボソリと呟くと様に最後に言ったのだった。
そして…
エリーゼはその後布団の中へ入ると眠りについたのだった……。
※
エリーゼが空を見上げて星を見ていた同じ頃………
カイゼルとフェイは公務先の宿の部屋で公務を終え一息ついているところだった…。
「今日は…とても星が綺麗だな…。」
「わぁ…本当ですね。久しぶりにこの様に綺麗に星が出ているのを見ました…。」
カイゼルが窓の外の空を見上げて言った。
カイゼルに言われて空を見上げたフェイはにこりと微笑みながら言った。
「エリーゼも…この星を見ているだろうか…」
カイゼルが星を見たままどこか切なそうな表情で呟いた。
「殿下……。きっとエリーゼ様も見てらっしゃいますよ。」
フェイはカイゼルの表情を見て自分も少し切なくなりながらすぐに微笑みながら言った。
「公務に出てから三日が経ったがエリーゼに会えないのは辛いものだな…。エリーゼの元へ訪れたばかりの頃は私を見て怯えているエリーゼを見て自業自得だと解っていても胸を痛ませていたが、今ではエリーゼが私へ笑いかけてくれる様になり話をするのもぎすぎすしなくなったのもありエリーゼと過ごす時間が楽しくて嬉しくて仕方ないのだ…。それもありこの様に長い時間エリーゼと会えないのは堪えるな…。」
カイゼルは、空を見上げたまま何かを思い出すかの様な切ない表情を浮かべてフェイへと言った。
「確かに…アリさんにエリーゼ様の所へ訪れる許可を頂いてから二日おきにはエリーゼ様に会っていましたからね…。」
フェイは、カイゼルの方を見つめたまま言った。
(最初はエリーゼ様に怯えられて会いに行くのも正直躊躇されていたのに、御自分のお気持ちに気づかれたのもあるがエリーゼ様との距離が縮まっている今この様に長い時間エリーゼ様にお会いなれないのは本当に寂しく思っておられるのだろうな…)
フェイは、カイゼルの切ない表情を見つめながらそんな事を思っていた。
「公務中に王太子の身でこの様な事を言うのは何だが…早く公務を終えてエリーゼに会いに行きたいな…。」
カイゼルは、苦笑いを浮かべながら言ったかと思えば優しい表情を浮かべながらエリーゼの事を思い出すかの様に言った。
「ハハ…余程エリーゼ様に早くお会いしたいのですね。では…しっかり公務をしてくださいませ。」
フェイがくすくすと笑みを浮かべながらカイゼルへと言った。
「ハハ…。そうだな…。」
カイゼルはフェイに言われて苦笑いを浮かべながら応えた。
「あっ、次にエリーゼ様の所へ行かれたらエリーゼにどこかお出かけしようとお誘いしてみてはどうですか?」
「出かけよう…と…だと?」
「はい。思い切って殿下とエリーゼ様お二人でお出かけになられても良いかと思いまして…。」
フェイは、何かを良い事を思いついた様な表情を浮かべながらカイゼルへと提案した。
フェイの提案にカイゼルは驚いた表情を浮かべながら目を点にしながら言った。
そんなカイゼルなどお構いなしにフェイはニコニコと微笑みながら言った。
「そっ…そんな…そんな事無理だろう…。」
カイゼルはフェイの言葉に動揺を隠せないまま言った。
「無理ではないでしょう…。きっとアリさんからの許可も出るでしょう。エリーゼ様ともう少し距離を縮めたいのであれば二人でお出かけなさる事が一番かと思いますけど?」
フェイは慌てているカイゼルの事など気にする事なく笑顔で言った。
(殿下の事を思うとエリーゼ様の記憶が戻りかけているかもしれないのであれば…少しでもエリーゼ様との時間を過して頂きたいのが本音だけどな…。)
フェイは、笑顔でカイゼルに言いながらも頭ではそんな事を考えていた。
「しかし…そんな急な事…それに…もし…エリーゼを誘って断られたらどうするのだ…。」
「断られたら断られた時考えましょう。まずはお誘いしてみないと分からないでしょう?」
「なっ!お前…他人事だと思いそんな簡単に言うな…。」
「そんな事…殿下の為を思ってご提案してるのですよ?」
「くっ………。はぁ…分かった…。考えておく…。」
カイゼルの慌て様はおさまらないまま不安そうな表情を浮かべながら言った。
しかし、フェイは笑顔で簡単に応えた。
そんなフェイにカイゼルは少しムッとした表情を浮かべながら言ったがフェイは笑ってカイゼルを見ながら返した。
そんなフェイを見てカイゼルは諦めた様な表情でため息をつきながら言ったのだった。
「はい。是非そうなさって下さい。」
諦めた様なカイゼルを見てフェイは笑顔で言ったのだった。
こうして…
夜は更けていったのだった……