51.親はいつでも子の心配をする
エリーゼとブラットが仲良く出かけている同じ頃……
アリストンの家では……
アリストン、マイク、ナディアの三人で話をしていた。
「手紙の内容は確認してくれたかい?」
「はい。確認させて頂きました…。内容にとても驚きました。まさか…こんなにも早くエリーゼの記憶が戻ろうとしているとは…。」
「私もだ…。まさか…こんなにも早く記憶が戻ろうとしているなど…。恐らく以前メディス伯爵達と過ごしている時に体調を崩したのもそのせいだろう。」
アリストンは真剣な表情を浮かべながらマイクへと言った。
そんなアリストンにマイクは真剣と驚きが混じったような表情で応えた。
マイクの言葉にアリストンも同感しながら言った。
「しかし…記憶が戻ろうとすればエリーゼの体調が優れなくなるのは心配でなりません…。」
「主人の言う通りです…。エリーゼの記憶が戻る事は大変嬉しく思いますが…エリーゼが記憶が戻ろうとする度に辛い思いをするのは心配でたまりません…。」
マイクは難しい表情を浮かべながらアリストンへと言った。
続けてナディアも辛そうな表情を浮かべながら言った。
「お二人の気持ちは解るよ…私もエリーゼが心配だ…。記憶が戻る事は喜ばしい事だがな…。」
アリストンは真剣な表情を浮かべながらマイクとナディアの言葉に共感しながら言った。
「私が心配しているのは…王太子殿下との事もなのでございます…。」
マイクは少し言い辛そうにアリストンへと言った。
「カイゼルとの事か…。そうだな…。父親としては娘を傷つけた相手と過ごすうちに記憶が戻った時の事を考えると心配になるのは無理もないさ…。」
アリストンはマイクの気持ちを察した様に苦笑いを浮かべながら言った。
「その後…王太子殿下とエリーゼの様子はどうなのでしょうか…?」
マイクがアリストンへと尋ねた。
ナディアも気になるようでアリストンの方を見た。
「手紙には記載しなかったのだが…エリーゼの体調が優れなくなった日は、私とエリーゼとカイゼルとフェイも一緒に出かけていたのだ。」
「王太子殿下とフェイ様もですか?」
「あぁ…。」
アリストンがマイクに言った。
マイクはアリストンの言葉に少し驚いた様にアリストンへと尋ねた。
そんなマイクにアリストンは頷きながら応えた。
「私がメディス伯爵邸で世話をしてもらっていた時にエリーゼがこっそりお気に入りの場所を教えてくれたのだが…。その場所は今でも私のお気に入りでな。そこへエリーゼを連れて行ったら何か思い出すかと思い連れて行ったのだ。私とフェイでメディス伯爵達の元へ訪れた日にカイゼルへ留守番をお願いしていたお礼も含めてカイゼルとフェイも息抜きにと連れ行ったのだ。」
アリストンがその様なった経緯をマイクとナディアへと説明したのだった。
「そうだったのですね…。」
マイクがアリストンの言葉を聞き呟くと様に言った。
「それでな…エリーゼの様子がおかしくなった瞬間にカイゼルがエリーゼを心配してすぐに駆けつけエリーゼを抱えて家まで連れて帰ってくれたのだ…。」
アリストンがその時の事を思い出す様にマイクとナディアへと説明した。
「王太子殿下かがエリーゼをです……か?」
マイクはアリストンの説明を聞き驚いた表情を浮かべながら言った。
ナディアもとても驚いた表情を浮かべていた。
「あぁ…。驚くのも無理ないだろう。実際、私とフェイもカイゼルの行動を目の前で見てとても驚いたからな…。」
アリストンはマイクとナディアの反応を見て苦笑いを浮かべながら言った。
「だが…カイゼルはエリーゼへ償いの意味も込めてエリーゼの元へ来てから随分と変わった気がするのだ…。」
アリストンはこれまで見てきたカイゼルの行動を思い出すようにマイクとナディアへと言った。
「その様な出来事があったのですね…。エリーゼが乗っていた馬車が襲われエリーゼの身に何かありエリーゼが行方不明だと知った時は怒りの感情を抑える事が出来ず陛下と王太子殿下には大変失礼な態度をとってしまいました…。」
マイクは当時の事を思い出しながら申し訳ないといった様な表情で言った。
「王太子殿下がエリーゼにあの様な仕打ちをしなければと…。しかし…一国の王太子殿下が直々に足を運び行動なさるなど普通では考えられない事です。それ程までにエリーゼの事を考えて行動して下さっているという事は恐れ多い事です…。」
マイクはどこか切ない様な表情を浮かべながら言った。
「メディス伯爵がカイゼルに対して怒りを覚えたのは当然の事だ。王太子である立場でありながら冷静に物事を判断出来ずエリーゼを傷つけてしまった事は事実であるからな…。」
マイクの言葉を聞きアリストンは真剣な表情でマイクの気持ちを察する様に言った。
「アリストン殿下…そう言って頂けると少し心が軽くなります…。」
マイクは優しい表情を浮かべながらアリストンへと言った。
「………。エリーゼは…幼い頃から好きな人と結婚をして幸せな家庭を築き末永く幸せに暮らしたいと…普通の幸せを願っている子でした…。王宮から王太子妃候補として入宮を命じられた時に恐らく…その願いは叶う事がないだろうとエリーゼは覚悟した事かと思います…。王太子殿下が精一杯の誠意を込めて行動して下さっているのはアリストン殿下のお話で理解出来ます…。しかし…記憶が戻った時にまた…王太子殿下が身近にいる事でエリーゼが傷ついてしまうのではないかと…とても心配なのです…。」
マイクの横でアリストンとマイクの話を聞きながら黙っていたナディアがエリーゼの事を案じるあまり切ない表情を浮かべながら胸の内を話したのだった。
「ナディア…」
ナディアの心の内を痛いほど察しているマイクが心配そうな表情を浮かべながら言った。
「夫人が心配するのも無理はない…。私もその部分は心配しているのだ。いくらカイゼルがエリーゼの元で少しづつ変わっていっているとてエリーゼの記憶が戻ればエリーゼはきっとカイゼルを前にして混乱するに違いない…。そうなればエリーゼが傷ついてしまうのは避ける事が出来ないであろう…。それを避ける為にも私に出来る事ならば何でもするつもりでいる…。」
アリストンはナディアの胸の内に寄り添う様にこれ以上心配を増やさない様にと真剣な表情を浮かべながら言った。
「アリストン殿下…。」
ナディアはアリストンの言葉を聞きアリストンを見て呟いた。
「私が見る限り…エリーゼもカイゼルに対して少しづつ心を開いている。二人で話をしていてもお互い笑顔を浮かべながら話す事も増えてきた。だが…その分エリーゼの記憶が戻った際にカイゼルの正体を知ったら……と考えている…。だからエリーゼが傷つかない為にもタイミングを見計らいフェイやガストンにも協力してもらいカイゼルの引き際を決めようと思っている。メディス伯爵と夫人、ブラットにも協力してもらう事があると思うがその時はよろしく頼みたい。」
アリストンは考えながらマイクとナディアへと考えを話すと二人へ頼み事もした。
「それは…もちろんでございます。アリストン殿下がそこまで考えて下さっていて…感謝してもしきれません…。」
「本当に…。エリーゼを預かってくださっているだけでも感謝してもしきれませんのに…そこまでエリーゼの事を考えて下さり本当にありがとうございます…。」
マイクとナディアはアリストンの考えを聞くと涙ぐみながらアリストンへと感謝を告げた。
そして…
「もちろん…私や妻、息子が協力出来る事があるのであれば喜んで協力させて頂きます。」
マイクは涙ぐんでいたが微笑みを浮かべながらアリストンへと言った。
横にいたナディアも微笑みを浮かべながら頷いた。
「二人共ありがとう…。」
アリストンも微笑みを浮かべながらマイクとナディアへと感謝を伝えたのだった。
そこへ……
ガチャッ!!
「「ただいま戻りました。」」
三人の話がある程度まとまった所でエリーゼとブラットが帰って来たのだった。
「お帰り!」
「「お帰りなさい。」」
アリストン、マイク、ナディアの三人は笑顔でエリーゼとブラットへと言ったのだった。
「いい買い物は出来たかな?」
アリストンがエリーゼへと尋ねた。
「はい。ブラットさんのお陰でとてもいい買い物が出来ました。それに…美味しい食事も食べる事ができました。」
エリーゼは嬉しそうに笑顔を浮かべてアリストンへと説明した。
「そうか…。とても楽しめたみたいで良かった。ブラット今日はありがとう。」
アリストンは笑顔でエリーゼに言うとブラットの方を向いてブラットへとお礼を言った。
「いえ…。俺もとても楽しい時間を過ごすことが出来たので。」
ブラットは嬉しそうに笑顔でアリストンへと応えた。
「あっ…エリーゼ、先に買ってきた物を部屋へと置いてくるといいよ。」
「あっ…それもそうね。荷物を置いてきたらお茶を淹れるから飲んでいってくれる?」
「あぁ。もちろんさ。」
ブラットはエリーゼが荷物を持っているのに気づきエリーゼへと言った。
ブラットに言われたエリーゼは頷きながら応えると笑顔を浮かべてブラットへと尋ねた。
ブラットは笑顔でエリーゼへと応えた。
そして、エリーゼは荷物を持って二階へと上がって行った。
「なんだ…ブラット、今日一日でえらくエリーゼとの距離感が縮まった様だな?」
マイクが、エリーゼとブラットのやり取りを見てブラットへと尋ねた。
「はい。私が距離を縮める為に敬語を使わず話してくれと提案したのです。お陰でいつも兄弟で過ごした時間の様に楽しい時間を過ごす事が出来ました。」
ブラットは笑顔でマイク達に説明しながら言った。
「そうか。それはさぞかし楽しい時間だっただろう。」
マイクは、ブラットの話を聞いて笑顔でブラットへと言った。
「はい。とても。それより…三人へ少しお話が…。エリーゼが下りてくる前に手短にお伝えします。」
ブラットは笑顔で応えたがすぐに真剣な表情を浮かべて少し声を小さくしてマイク達へと言った。
アリストン、マイク、ナディアはブラットの言葉に??といった表情を浮かべた。
「実は…今日エリーゼがエリーゼの事を知っているという女性に会った様なのです。私は一瞬しかその女性の姿を見なかったのですが、どうやらその女性は記憶がなくなるエリーゼの事を知っている様でした…。エリーゼはその女性から記憶をなくす前のエリーゼについては聞く事が出来なかった様ですが…。」
ブラットは真剣な表情を浮かべながら小声でアリストン達へと今日の出来事を説明した。
「エリーゼを知っている女性だと?!」
アリストンがブラットの話を聞いて驚いた表情を浮かべて言った。
「はい…。しかし…どうやらエリーゼはその女性の名前を聞きそびれてしまったみたいで。その女性は私がエリーゼの元へと戻りエリーゼの名を呼んだ事に気づくと逃げるようにその場を去っていた様です。」
ブラットは更にアリストン達へと説明した。
「一体…その女性は誰なんだ…」
マイクが目を細めながら少し険しい表情を浮かべて呟いた。
そこへエリーゼが部屋を出た扉の音が聞こえた。
「一先ず…この話と他にもご報告する事がありますので父上と母上には邸に戻って、アリさんにはお手紙を書いて早急にお送りさせて頂きますね。」
ブラットは、エリーゼが下りてくると思い咄嗟にアリストン達へと説明した。
ブラットの言葉にアリストン達三人を頷いた。
そして、その後すぐにエリーゼが下へと下りてきた。
そして、エリーゼがお茶を淹れると五人で仲良くお茶を飲みながらこの日のエリーゼとブラットの楽しかった時間の話をしながら和気あいあいとすごしたのだった……。