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5.王都の天使

小麦の匂いを辿り歩いた先は、王宮内にある厨房の様だった。


(厨房から小麦の匂いがしたのね…どうりでいい匂いな訳だわ。この小麦の匂いは、きっと我が家が納めている小麦に違いないわ…きっと今パンを焼くために小麦を捏ねている段階なのね…)


厨房までやって来たのエリーゼはそんな事を考えていた。



「こちらに何か様ですか?」


エリーゼが、厨房の裏口の前に居ると誰かに声をかけられた。

エリーゼが振り向くとそこには、二人の男性が立っていた。


「えぇと…庭を散歩していたら小麦の良い匂いがしまして…匂いを辿ったら厨房へと来てしまったのです…」


「あなた様は…」


「あっ…申し遅れました…私は…」


「メディス伯爵家のエリーゼ様ですよね?」


エリーゼが、男性達の姿を見て厨房まで来た経緯を説明した。

男性の一人が、エリーゼを見て不思議そうに言うと…

エリーゼは、慌てて名前を名乗ろうとしたが先に男性の一人に自分の名前を言われたのだった。



「え?あっ…はい。私はメディス伯爵家のエリーゼ・メディスと申します。本日、王太子妃候補として王宮へと入宮しました…ですが…どうして私の名前を?」


「それは…”王都の天使”でらっしゃるからですよ…」


エリーゼは、慌てて応えたが自分の名前を知っていた男性の一人に何故名前を知っているのかを尋ねた。

すると…男性の一人がエリーゼの王都でのあだ名を笑顔で口にしたのだった。



「何故…その呼び名を…ご存知なのですか?」


「それは、私も昔から"王都の天使"が作るパンが大好きでよく購入させて貰ってるからですよ。」


エリーゼは、驚いた表情で男性の一人へ尋ねた。

すると、男性の一人がにこりと微笑みながら昔からエリーゼの作るパンが好きだと言ったのだった。


「おいっ…まさか、"王都の天使"ってユーリがいつも王都で買ってきていたあの美味しいパンを作ったという少女か?」


「あぁ…ロイ、その少女だよ。」


男性の一人が、驚いた表情でもう一人男性に尋ねた。

すると、もう一人の男性がにこりと微笑み応えたのだった…


「えっと………」


二人の会話に、エリーゼは驚きおろおろとしていた。

すると……


「これは…申し訳ありません。驚かせてしまいましたね…申し遅れましたが私は厨房で料理長をさせて頂いておりますユーリと申します。」


「私は、庭師をしておりますロイと申します。」


「まさか…あの"王都の天使"のエリーゼ様が王太子妃候補として王宮に入宮されたとは…驚きでございます。」


ユーリとロイが、エリーゼに姿勢を正して挨拶をしたのだった。

ユーリは、自分が好きなパンを焼いて売っている張本人のエリーゼが入宮した事をとても嬉しそうな表情で喜んでいた。



「私の作ったパンをその様に褒めて頂きありがとうございます。気持ちを込めて作った甲斐があります。それに…食べた人が皆笑顔になってくれる事が一番嬉しいのです。」


「本当に、噂にも聞いていたしたがエリーゼ様は心優しいお方ですね…"王都の天使"と呼ばれているのがわかる気がします。」


「私も、そう思います。」


エリーゼは、ユーリの言葉を聞き嬉しそうな表情を浮かべながらユーリに言った。

ユーリは、エリーゼと話をしてエリーゼの心の優しさに感心しながら言った。

ユーリの言葉にロイも納得した様に言った。



「小麦の匂いがするという事は、今はパンを捏ねてらっしゃるのですか?ご迷惑でなければパン作りを見ていてもよろしいですか?」


「そんな…ご令嬢に厨房の様な汚れてしまう場所に入られるなど…」


「ふふふ…私は、パン作りが得意なのですよ?厨房は庭の様なものでしたわ。」


「ははは…そうでした。それでは、お好きなだけ見ていって下さい。」


「ありがとうございます。」


エリーゼは、パンを作るところを見たいとユーリに提案した。

ユーリは、困った表情を浮かべたがエリーゼはにこりと微笑みながら自分は大丈夫だと自信満々にユーリへ言った。

ユーリは、やられた!という表情で笑いながらエリーゼへと応えたのだった。


そして、エリーゼはユーリとロイと共に厨房へと入ったのだった。


エリーゼは、厨房に入ると小麦の匂いが広がっている事に喜びと同時に寂しさも感じたのだった。


(本当なら、今頃いつもの様に厨房でパンを焼いていたのよね…ここでは、自由にパンを焼くことも出来ないのですものね…)


エリーゼは、厨房でパン作りをしている者達を見ながら思ったのだった…



「パンを作りたいわ…」


エリーゼは、思わず思っている事を口にしてしまった。


「エリーゼ様…パンを作られますか?」


「え?」


エリーゼの呟きが耳に入ったユーリは、エリーゼへと尋ねた。

エリーゼは、ユーリの言葉に驚いた表情で言った。


「よろしいのですか?あっ…でも、王太子妃候補の私が厨房でパンを焼くなど令嬢らしからぬ

事をしてしまうと家族まで何を言われるかわかりませんわ…」


「それでは…厨房が空いた時に作られるのはいかがですか?私とロイだけでしたら他の者に知られる事はないでしょう?ロイどうだ?」


「あぁ…私は構わんよ。美味しいパンが食べれるのだからな。」


「ロイ…お前ってやつは…エリーゼ様…ロイもこう言っている事ですしいかがですか?」


「………。それでしたら…パンを作りたいです…」



エリーゼは、ユーリの提案に一瞬表情がパァーっと明るくなったがすぐに現実的な事を考え表情が暗くなった。

しかし、ユーリはそんなエリーゼの事を考えながらいい案を提案した。

ロイにも了承を得た。

エリーゼは、また嬉しそうな表情を浮かべてユーリの提案に首を縦に振ったのだった。


こうして、エリーゼは王宮でもパン作りをできる事になったのだった。


エリーゼは、ユーリとロイにお礼を言うと自室へと戻った。


(王宮に来て、どう過ごしていけばいいのかわからなかったけれどまさか…パンを作れるなんて…嬉しいわ。王宮に来て不安でたまらなかったけどこれで少しは気持ちが楽になるわ。)


エリーゼは、ずっと不安だった気持ちが少し楽になった気がしながら思っていた。


(それにしても…まだ王宮にきて一日も経っていないのに物凄く疲れたわ…他の王太子妃候補のご令嬢方は私の事を良くは思ってない様だしね…当たり前よね。社交デビューもまだで物凄く裕福でもない伯爵令嬢だものね…でも、マリアさんやユーリさんやロイさんという親切な方が居てくれる事は感謝してもしきれないわね…それにしても、フェイ様が探していた殿下の飼っているテオが昔に王都で私がパンをあげていた野良猫にそっくりだったわ。そんなはずないのに…名前まで私がつけた名前と同じだったから驚いたわ…そういえばテオはある日突然姿を消したのだったわね…テオは今頃元気にしてるのかしら…)


エリーゼは、そんな事を考えていたらいつの間にか疲れて眠っていたのだった…


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