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47.それぞれの夜

薪屋から帰宅したエリーゼとアリストンはお茶を飲みながら一息ついていた。


「アリさん…お願いがあるんですけどいいですか?」


エリーゼが、お茶を一口飲むとアリストンへと言った。


「ん?何だ?」


アリストンが応えた。


「あの…毛糸を買いに行きたいんですけど、どこかいい毛糸屋をご存知でしたら教えて下さい。」


エリーゼがアリストンへと尋ねた。


「毛糸屋か………。ん〜……。私は毛糸屋など行く事がないからな…。そうだ!ブラットに連れて行ってもらうといい。ブラットならいい毛糸屋を知っているだろうからな!ブラットへ手紙を出しておいてやろう!」


アリストンは、考えながら呟くといい案を思いついたと言わんばかりの表情でエリーゼへと言った。


「ブラットさんにですか?!確かにブラットさんなら王都のお店の事をよく知っていそうですが…。ブラットさんも忙しいだろうし私のわがままを聞いてもらうのは何だか申し訳ないです…。」


エリーゼは、申し訳なさそうな表情で言った。


「エリーゼと街を回れると聞くとブラットは喜んで飛んできてくれるさ。」


アリストンは、申し訳なさそうなエリーゼに笑顔で言った。


(エリーゼがブラットとでかけてくれると、私がメディス伯爵と夫人にエリーゼの記憶が戻りかけているかもしれない話が出来るから丁度いいな。)


アリストンは、頭ではそんな事を考えていた。


「そうですか…?ご迷惑でないならお願いします…。」


エリーゼは、少し不安そうな表情をしたがすぐに笑みを浮かべアリストンへと言った。


「あぁ。分かった。すぐにマイクさんの元へ手紙を出すとしよう。」


アリストンが笑顔でエリーゼへと言った。


「ありがとうございます。」


エリーゼが笑顔でアリストンへと言った。


「それはそうと…何故急に毛糸屋に行こうと?」


アリストンがふと不思議に思い何気なくエリーゼへと尋ねた。


「えっ?っと…それはですね…」


エリーゼがアリストンの言葉に少し驚きながら言った。


「ん?」


アリストンはそんなエリーゼを見て首を傾げながら言った。


「……。その…カイさんへ手袋を編んで渡そうかと思いまして…。」


エリーゼは、少し照れた様な困った様な表情で応えた。


「カイに手袋を?」


アリストンはエリーゼの言葉に少し驚き言った。


「はい…。ずっとカイさんが手袋をしていなかったのが気になっていて先程カイさんに理由を聞いたのです。どうやら丁度使っていた手袋に穴が開いてしまったらしく新調しなければと思っていたところだそうなのです…。これから寒さが更に増しますし今日はカイさんには色々とお世話になったのもありますしお礼も兼ねてと…。手編みの物などご迷惑ですかね…?」


エリーゼがアリストンへと説明した。


「そうだったのか…。いや…手編みの手袋喜んでくれるだろう。エリーゼの編む物はとても丁寧だからその辺りで売っている物より上質だしね。」


アリストンは、少し不安そうなエリーゼに笑顔で応えた。


(恐らく…カイゼルが持っている手袋はフェイの物と違い全てに紋章が入っているだろうから王都へ出てくる時は着けて来れないといったところかな…。しかし…エリーゼがカイゼルに手袋をプレゼントね…。

その日の夜…


アリストンは早速マイクへと手紙を書いた。


(エリーゼの記憶が戻りつつあるのだとしたらメディス伯爵達は喜ぶであろうな。しかし…エリーゼがカイゼルに手袋を作って渡そうと考えているとはな…。エリーゼの優しさからの事だろうが…。果たしてエリーゼの記憶が戻り始めているかもしれない今…二人の関係はどうなるのやらだな…。とにかくエリーゼが傷つく事がなければいいのだが…。エリーゼの記憶の件はガストンにも手紙を出しておくとしよう…。)


アリストンは手紙を書きながらそんな事を思っていたのだった。





時を同じくして王宮では…


カイゼルとフェイが王太子執務室で残っていた執務を終えて一息ついていた。


「殿下…お疲れ様でした。本日の執務は終了ですね。」


「あぁ…。」


フェイがカイゼルへと言うと、カイゼルは体を伸ばしながら少し疲れた表情で応えた。


「随分とお疲れのご様子ですが…。やはり…王都へ出かけられた後の執務はお体に障るのではありませんか?」


フェイはカイゼルの様子を見て心配そうにカイゼルへと尋ねた。


「いや…この程度問題ないさ…。気を遣わせてすまないな…。だが私は大丈夫だ。この程度でバテていたら王太子など務まらないからな。」


カイゼルは、苦笑いを浮かべながらフェイへと応えた。


「そうですか…。でしたらよいのですが…。あまり無理はなされない様にして下さいね。」


「あぁ…。フェイの言葉を肝に銘じておくさ。」


フェイは、少しホッとした様な表情で言うとカイゼルが応えた。


「それにしても…今日はアリさんのお陰で素敵な時間が過ごせましたね。私は魚釣りなどしたのは初めてでしたがとても楽しかったです。殿下もエリーゼ様との木の実拾い楽しかったのではないですか?テオも満足そうでしたし。エリーゼ様の体調が急に悪くなられたのには驚きましたが……。」


フェイは、カイゼルに笑顔で今日の出来事を嬉しそうに話したかと思えば急に心配そうな表情で話した。


「あぁ…そうだな。今日はよい体験が出来たな…。まさか王太子の身で木の実を拾ったり釣りをする日が訪れるとはな。しかし…本当に今日は肝が冷えた…。エリーゼが頭を抱えている姿を見た瞬間体の血の気が引いたのを感じた程だ…。本当に大事に至らなくて良かった…。」


カイゼルは、その時の事を思い出したかの様に心配そうな表情を浮かべながら言った。


「私もアリさんも驚く程に殿下の行動は機敏なものでしたからね…。」


フェイがカイゼルの言葉を聞いて言った。


「自分でも驚いたさ…。本当に体が勝手に動くとはこの事かと思ったさ…。」


カイゼルはフッと口の広角を少し上げながら言った。


「しかし…エリーゼ様の頭痛の原因が記憶が戻っているかもしれない現象というのは驚きました。記憶喪失になられてそれほど時が経っていませんから。記憶が戻られるのは喜ばしい事ですが…。」


フェイは、手を口元に置きながら少し難しい表情をしながら言った。


「あぁ…。エリーゼの記憶が戻るのは喜ばしい事だ…。しかも…こんなに早く記憶が戻っているかもしれいな状況にあるのなら尚更だな…。」


カイゼルは、どこか寂しそうな表情を浮かべながら言った。


「殿下?」


フェイは、寂しそうな表情を浮かべているカイゼルを見てどうしたのかと思い言った。


「いや…エリーゼの記憶が戻るまで私が何か力になりたいと思いエリーゼの元を訪れたのだが、記憶がある時とは違いエリーゼとの距離が縮まる度に…そしてエリーゼへと自分の気持ちに気づいた今…エリーゼの記憶がずっと戻らなくても…などと考えてしまっている自分がいるのだ…。自分本位で最低な考えだが…。」


カイゼルは、どこか泣いてしまうのではないかと思うほどの切ない表情を浮かべながらフェイへと言った。


「殿下………。」


フェイは、カイゼルの表情とカイゼルの気持ちを考えると胸が締め付けられる様な感覚になりながら呟いた。


「私のせいでエリーゼが怖く辛い思いをした上に記憶をなくしてしまったというのに…自分本位な身勝手な考えだと解っているのに…エリーゼとの関係が今のまま良好に続けば良いのにと思ってしまう自分が嫌になる…。」


カイゼルは切ない表情を崩さぬまま続けて言った。


「幸い…明後日から一週間と少し公務の為に国を空けるからその間はエリーゼと会えないが…自分のこの邪念を払う良い機会かもしれないな…。すまないが今日アリさんに当分アリさんの仕事は手伝えないと手紙を出しておいてくれるか?」


カイゼルは、苦笑いを浮かべながら言うとフェイへとお願いした。


「……。はい。かしこまりました。アリさん宛のお手紙は出しておきます。」


フェイが応えた。


(王兄殿下には…殿下のこのご様子はお伝えしない方が良さそうだな…。)


フェイは、カイゼルに応えながらそんな事を思っていたのだった。


こうして夜は更けていったのだった…………

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