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42.穏やかな場所で…

アリストンの家を出て二十分程歩いたところで目的地へと到着した。


「さぁ…着いたぞ!ここだ。」


アリストンが三人へと言った。


「ここは……凄く素敵な場所ですね…。とても穏やかな場所ですね。川もとてもきれいですね…。今日はまだ気温が暖かいので川があってもそれほど寒くは感じませんね。」


エリーゼが、目的地に到着し周りを見渡して目を輝かせながら言った。


(それに何だかとても懐かしい気持ちになるわ…。まるでここへ来るのが初めてじゃないみたいに。きっとこの穏やかな空気がそう思わせるのね。)


エリーゼは、空気を吸い込みながらそんな事を思っていた。


「本当にとても穏やかな場所ですね…。」


「あぁ…。静かで穏やかな場所だな…。」


エリーゼに続いてフェイが言うとカイゼルも賛同して言った。


「そうだろ?ここは私のお気に入りの場所なんだ。最近はなかなか足を運べなかったがな…。ここの川では魚も釣れるんだ。あそこにある木は木の実がなっているから木の下には木の実が沢山落ちているしな。今日はここで釣りや木の実拾いをしつつ新鮮な空気を吸いながらゆっくり過ごそうと思ってな。」


アリストンが三人へと言った。


「魚釣りも木の実を拾うのも楽しそうですね。」


「俺は魚釣りも、木の実を拾うのも初めてだ。」


「俺もです。楽しそうですね。」


エリーゼ、カイゼル、フェイそれぞれが言った。


「楽しいぞ。まずは、私とフェイが釣りをしてエリーゼとカイは木の実拾いをするとしよう。それでいいか?」


アリストンが三人へと尋ねた。


「「「はい。わかりました。」」」


三人は、頷きながら応えた。


「よし!では早速それぞれやるとしよう。フェイ、川沿いは冷えるからひざ掛けを荷物から出して持ってきてくれ。カイ、木の実を入れる袋が荷物の中にあるから出してそれを使うといい。」


アリストンは、カイゼルとフェイにそれぞれ指示を出した。


「「分かりました。」」


カイゼルとフェイは返事をするとそれぞれ荷物からアリストンに言われた物を出した。


そして、アリストンとフェイは川の方へ。

エリーゼとカイゼルは木の方へと行った。


川沿いまでやって来たアリストンとフェイは、そこにあった大きな岩へと座りひざ掛けをかけた。

そして、アリストンの教え通りにフェイは釣り竿を持ち構えたのだった。


「釣りというのは初めてやるので釣れるかソワソワします。」


「はは…ソワソワとは何だ。心配せずとも釣れるから大丈夫だ。ここで釣れる魚は本当に美味しいんだ。」


フェイが、目を輝かせながら竿を握りしめアリストンへ言った。

そんなフェイにアリストンは笑いながら言った。


「王兄殿下は王宮を出られてからかなりの長い期間王都で生活されているからこそこの様に穏やかで素敵な場所をご存知なのですね…。」


フェイが、空気をスーッと吸いながらアリストンへと言った。


「実を言うとな…、この場所はエリーゼから聞いた場所なんだ。」


アリストンが、木の方へ向かったエリーゼを見ながら言った。


「エリーゼ様にですか?!」


フェイは、アリストンの言葉に驚き言った。


「あぁ…。メディス伯爵邸で過ごした時にな…。まだ小さかったエリーゼが私にこっそりとこの場所を教えてくれたのだ。王都へと出た時にたまたま見つけてお気に入りになったというこの場所をな…。エリーゼのお気に入りの場所がいつの間にか私の気に入った場所になったんだよ…。エリーゼの思い入れのあるこの場所へエリーゼを連れてきたら何か思い出すかもしれないと思って今日はここへ来たんだ。カイゼルとフェイにお礼をすると言う口実でな…。」


アリストンは、どこか懐かしむ様な表情でフェイへと説明した。


「そうだったのですか…。その様な経緯があったのですね。エリーゼ様はここで時間を過ごされて何か思い出したりされるでしょうか…。」


フェイが言った。


(王兄殿下は、本当にエリーゼ様の事を大切に思われているんだな…。それにエリーゼ様とはよほど仲良くされていたのだろうな…)


フェイは、アリストンに話しながらそんな事を考えていた。


「どうだろうな…メディス伯爵達にも会わせたが特に何も思い出すような事はなかったならな…まぁ…無理に思い出すのも良くないと医者が言っていたし自然に思い出すのが一番なのかもしれないな…。」


「そうかもしれませんね…無理に思い出そうとしてエリーゼ様の負担になるのでしたら自然にという方向性を尊重すべきですね。」


アリストンは、真剣な表情で言った。

フェイも考える様な表情で言った。


「あぁ…そうだ…。話は変わるがテオはどうして私の事は散々威嚇しておいてエリーゼには気持ち悪い程に懐くのだ?」


アリストンが、不思議に思っていた事を思い出すようにフェイへと尋ねた。


「あぁ…、それはですね……。」


フェイは、苦笑いを浮かべてながらテオが何故エリーゼにべったりと懐くのかの経緯を説明したのだった。


「なる程…。そういう事だったのか…。話を聞いて納得した。まさか王都で野良猫だったテオの世話をエリーゼがしていたとはな…。エリーゼは本当に心の優しい子だからな。だが、まさか王太子であるカイゼルが野良猫だったテオを引き取るとはな…。あの者にもそんな一面があったとはな…。」


アリストンは、フェイの説明を聞き手を顎にあてながら言った。


「私も、はじめ殿下がテオを連れて帰って来られた時は驚きましたが殿下がお決めになった事という事で陛下も王妃様もテオを飼うことをお許し下さったのです。」


フェイは、にこりと微笑みながら言った。


「王族は勝手に動物を飼うことすらも許可がいるからな…。」


アリストンが苦笑いを浮かべながら言った。


「テオの件は理解したが、今朝のカイゼルの様子がどこかおかしかったのはテオとは関係ない事なのであろう?」


アリストンはフェイへと尋ねた。


「そう…ですね。殿下の様子が少しおかしい事とテオは関係はございません…。実は…昨日…王兄殿下のお宅から王宮に帰宅後に殿下と少し話をしたのです…。殿下がエリーゼ様との時間の話をとても穏やかな表情で話されていたので私が"恋というものは不思議ですね"と申したのです。すると殿下は私の言葉にとても驚かれたのです…。」


フェイは、昨日のカイゼルとの話の内容をアリストンへと説明した。


「ん?何故、フェイがカイゼルへ恋というものは不思議ですねと言ったくらいでカイゼルが驚くのだ?おかしな話ではないか?…………。ん?!!まさか…とは思うがカイゼルは自分がエリーゼに恋心を抱いている事に気づいていなかった訳ではないよな?」


アリストンは、不思議に思いながらも話すと突然ハッとなり苦笑いを浮かべながらフェイへと尋ねた。


「はい…。そのまさかなのです…。八年間もの間、御自分がエリーゼ様に恋心を抱いているとお気づきになってませんでした…。私はその事実に驚きを隠せませんでしたよ…。」


フェイは苦笑いを浮かべてながら言った。


「おいおい…嘘だろ…。人伝えに話を聞いた私ですらカイゼルがエリーゼに恋心を抱いているのは一目瞭然だぞ?フェイが驚くのも無理はないな…私も驚いた…というより呆れたな…。あれだけエリーゼに執着していて自分の気持ちに気づいていなかったとは…少々王太子として心配になるな…。王太子たるものまずは自分の気持ちのコントロールが出来なければならないというのに…」


アリストンは、呆れた様に苦笑いを浮かべながら言った。


「間違いなく、八年前にエリーゼ様と出会われ日から恋心を抱かれていると言うのは話を聞いた私でもすぐわかったというのに…。それで、いざ御自分がエリーゼ様に恋心を抱いているとお気づきになった事で恐らくですが昨夜は考え込みあまり寝付けられなかったのかと…。そして、気持ちに気づいた手前エリーゼ様に対してどう接していいのかと思ってらっしゃるので様子がおかしく感じられたのではないでしょうか…。」


フェイは、苦笑いを浮かべながら言った。


「はぁ…。まったく…。人間不信気味だけではなくまさか自分の気持ちにも疎かったとは…。しかし、カイゼルの様子がおかしいと思ったのも理由が分かれば笑い話だな。」


アリストンは、ため息をつきながら言うと少しクスリと笑いながら言った。


「まぁ…こればかりは私共がどうこう出来る事ではありませんからね…。殿下ご自身の気持ちの問題ですから…。殿下がどうされるかを今は見守る事が良いのかと…。」


「そう…だな…。ひとまずカイゼルの行動を見守るとするか…。」


フェイは、カイゼルの方を見ながら言った。

そんなフェイの言葉にアリストンが言った。


「殿下のエリーゼ様への恋心のお話は一先ず置いておいて、兄上殿下にお話しておきたい事があるのです。」


「ん?何だ?」


フェイは急に真剣な表情になりアリストンへと言った。

そんなフェイを見てアリストンが不思議そうに尋ねた。


「はい…。実は、今朝スカイ公爵から王宮へ手紙が届きまして…。ご令嬢のサリー様の王太子妃候補にもう一度して欲しいとの内容なのですが…。」


「スカイ公爵家のご令嬢といえばエリーゼと共に王太子妃候補として入宮したのだったな?だが、確かガストンの話によるとエリーゼの他の二名のご令嬢は王太子妃候補から外されたと聞いたが?」


「はい。その通りでございます。ですが、スカイ公爵はその後も度々王宮へと訪れ陛下へとお話をされに来たり、今日の様にお手紙を何度も王宮へとお送りになりサリー様を王太子妃候補にとしつこく言ってこられているのです。本日は、殿下がスカイ公爵宛へお手紙を出されたのですが…。」


「ふむ…。何とも不躾な者だな…。国王からの直々の通達にも関わらず…。」


フェイは、真剣な表情でアリストンへ説明した。

フェイの話を聞いたアリストンは更にフェイへと尋ねた。

フェイは困った表情を浮かべながらアリストンへ説明すると、アリストンは眉間にシワを寄せながら言った。


「殿下にはあえて申し上げてないのですが…私が心配しているのは、エリーゼ様に被害等が及ばないかなのです…。サリー様は王宮でもエリーゼ様への当たりが厳しかったのを私は目にしております。エリーゼ様が王宮から出宮され後にサリー様がエリーゼ様へ取られた行動の事で殿下から厳しいお言葉をかけられました。エリーゼ様が出宮されたとはいえエリーゼ様の事に関して厳しいお言葉をかけられ王太子妃候補から外されたと思われたのであればエリーゼ様へ逆恨みをされているのではないかと…。」


フェイは、心配そうにアリストンへ説明した。


「フェイの言う通りだな…。その様な行いをするご令嬢ともなると逆恨みしないとも言い切れないな。エリーゼが今この様な状況になっているのは知らないだろうが…。念の為要注意人物として頭に入れておいた方がいいだろうな…。それにカイゼルに言わないのは正しい行動だ。奴に言ったら何をしでかすか分からないからな…。一先ず私もこの話は頭に入れておく。ガストンの耳にも話を入れておくよ。」


アリストンは、手を顎に当てながら真剣な表情で言った。


「はい。宜しくお願い致します。」


フェイは、頭を下げながらアリストンへと言った。


「おっ…魚がかかった様だ!よし!今だ!引け!!」


「え?あっ…はい!!」


二人が話をしていたら竿が揺れて魚が食いついたので慌ててアリストンがフェイへと言った。

アリストンから言われたフェイも慌てて応えて竿を思いきり引き上げた。


すると、見事に魚が食いついていて釣り上げたのだった。


「やりました!釣れました!!」


フェイは、興奮気味に嬉しそうに言った。


「あぁ。なかなかの大物だぞ!」


アリストンは笑顔で言った。


そんな川沿いで声をあげている二人を木の下にいたエリーゼとカイゼルが見ていたのだった。

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