40.8年越しに自覚した恋心
エリーゼとカイゼルが話していると家の扉が開いた。
「「ただいま!!」」
アリストンとフェイが、タイミングを見計らい家の中へと入ってきた。
「あっ…おかえりなさい!」
エリーゼが、アリストンとフェイへと言った。
「あぁ。エリーゼ体調はもういいのか?」
アリストンがエリーゼを見て尋ねた。
「はい。すっかり良くなりました。沢山休ませて頂いたお陰です。」
エリーゼは、にこりと笑顔で応えた。
「そうか。それは良かった。やはり元気で笑っているエリーゼが一番だな。」
アリストンは、笑顔でエリーゼへと言った。
「ふふ。ありがとうございます。ですが、目覚めたらカイさんがいてアリさんとフェイさんが居ないので驚きました。」
エリーゼがアリストンへと言った。
「はは…すまない。エリーゼが起きたら美味しいもものを食べさせてやりたくてな。フェイに荷物持ちとして連れて行ったんだよ。カイにエリーゼの様子を見るように頼んでな。カイに頼んだお陰でマイクさんの所で色々と美味しい物を貰ってきたぞ。」
アリストンが笑いながらエリーゼへと言った。
「マイクさんの所でですか?!ふふ…ありがとうございます。それはとても嬉しいです。」
エリーゼがアリストンの言葉を聞くと嬉しそうに言った。
「その嬉しそうな顔が見たかったのさ。カイ…留守番ありがとな。助かったよ。エリーゼもすっかり体調が良くなったみたいだしな。留守番を頼んだお陰でエリーゼの喜ぶものを持って帰ってこれたよ。」
アリストンがエリーゼに笑顔で言うと、カイゼルの方を向いてカイゼルにお礼を言ったのだった。
「いえ…。目的の物を持って帰って来れたのなら良かったです。エリーゼも喜んでいる様ですし。」
カイゼルはアリストンへと言った。
「カイとフェイにも持って帰って来た物を食べて行くといい……と言いたいところだがフェイが疲れているだろうから今日はもう帰って二人共ゆっくり休むといい…」
アリストンは、カイゼルとフェイへと言った。
「はい…。頂きたいところですが…今日は色々と疲れてしまいましたので今日のところはお暇させて頂きます…カイさんよろしいですか?」
フェイは、疲れた表情を浮かべながら言うとカイゼルへと尋ねた。
「ん?あぁ…。では、今日はお暇するとしよう。」
カイゼルは、フェイの疲れた表情を見て言った。
「ありがとうございます。」
フェイがカイゼルにお礼を言った。
「今日は、二人には助けて貰ったから次にここへ来る時はなんでも屋の仕事は一度おいといて今日のお礼に気晴らしにもってこいの場所へと連れて行ってやるから楽しみにしておくといい。」
アリストンは、カイゼルとフェイへと言った。
「「はい……。」」
カイゼルとフェイは、二人で顔を見合わせて少し首を傾げながらも応えた。
「では…我々はそろそろ失礼します。」
カイゼルが、アリストンとエリーゼへと言った。
「あぁ。気を付けて帰るのだぞ。」
アリストンが二人へと言った。
「「はい。」」
二人は応えると玄関へと向かい扉を開けた。
「では…また……。エリーゼ、体調がよくなったとはいえ無理はするなよ…」
カイゼルは、帰り際にエリーゼへと言った。
「はい。今日は本当にありがとうございました。では、また…。」
エリーゼは、にこりと微笑みながら言った。
そんなエリーゼを見てカイゼルも微かににこりと微笑んだ。
そして、カイゼルとフェイはアリストンの家を後にしたのだった。
※
王宮へ戻ってきたカイゼルとフェイは、王太子の執務室のソファーへと座りお茶を飲みながら一息ついていた。
「フェイ…、今日は本当に驚いたぞ?急にアリさんへついていくと言うのだから…。」
カイゼルは、お茶を一口飲むと少し呆れた表情を浮かべて言った。
「はは…申し訳ありません。ですが、何故かあの時咄嗟に殿下とエリーゼ様をお二人にしようと思ったのです。それで何かお二人の間で変わる事があるかもしれないと思ったので。」
フェイは、苦笑いしながら応えた。
「まぁ…でも…そうだな…。確かに少し変わったかもしれないな…。」
「??と…言いますと?」
カイゼルはフェイに言われ少し考えてから呟いた。
そんな呟きを聞いたフェイは、不思議そうに尋ねた。
「今日は、エリーゼと二人で話をしたのだ…。エリーゼは私に対しての印象が変わった事を話してくれた…。私は相手に上手く感情を伝える事が苦手だ…。だが、エリーゼはそんな私の事を不器用だが本当は怖い人ではないと言ってくれた…。まぁ…記憶がない今だからこその言葉だろうが、私はエリーゼを散々傷つけておいて…おこがましくもエリーゼが私の事をその様に見ていてくれる事が嬉しくてたまらなかった…。」
カイゼルは、表情を少し緩ませながらフェイへと説明した。
「それに…エリーゼに何故なんでも屋をやろうと思ったのかを問われた時にある人という設定でエリーゼを傷つけてしまった話や、エリーゼに救われた話、私が人を信用する事を苦手としている話などもした。そんな私の話にエリーゼは親身になって聞いてくれた。そしてエリーゼは自分と時間を共有する事で自分を信じる事から始めようと提案してくれたのだ…。私がこれから人を信用出来る様になれるといいと思いだ。得体の知れない私に対しても本当に親身に考えてくれるエリーゼは本当に優しい女性なのだと改めて思い知らせれた気がしたよ…。」
カイゼルは、続けてフェイに説明した。
「そして…エリーゼの笑った顔が八年越しに見れたのだ…。あの頃の面影の残る笑顔だった。記憶喪失になり再会したエリーゼは無意識に怯えるほど私を拒絶していた…。しかし…今日エリーゼは私に偽りない笑顔を向けてくれたのだ。エリーゼの記憶が戻るなら…エリーゼの為に何か少しでも力になりたいと思いエリーゼへと近づいたのに…力になるどころか私の方がエリーゼに励まされた様だ…。」
続けてカイゼルは、また表情を緩ませながらフェイへと言った。
「しかし…恋というものは不思議ですね…殿下がその様に優しい表情を浮かべながらお話をなさるとは…よほどエリーゼ様の事をお好きなのですね…。」
フェイは、ほっこりとした様な表情を浮かべてカイゼルへ言った。
「……。は……?」
「??はい……?」
カイゼルは、フェイの言葉に思わず呆気に取られた様な表情で言うとそんなカイゼルを不思議に思ったフェイは、首を傾げながら言った。
「恋…だと?何の事を言っているのだ?」
カイゼルは、呆気に取られた表情のままフェイへと言った。
「はい…?殿下…まさかとは思いますが御自分のエリーゼ様へのお気持ちに気づいてらっしゃらなかったのですか……?八年間もの間…。」
フェイは、あまりにも驚いき驚いた表情のまま言った。
「八年間もの間…?自分の気持ちだと…?」
カイゼルは、驚きながら言った。
「……。えぇ…。誰がどう見てどう聞いても殿下がエリーゼ様に恋をしておられるのは分かりますよ?陛下と王妃様もご存知ですよ?まさか…当の本人がお気づきになっていなかったとは…。」
フェイは、驚きと唖然が混じった様な表情で説明した。
「なっ!!父上と母上もだと?!私がエリーゼに恋をしているだと…?!そんな馬鹿な…。」
カイゼルは少し混乱気味に言った。
「……。逆にそれを恋以外の感情で何と表すのかを知りたい程です。八年間エリーゼ様を探していた事、王太子妃にはエリーゼ様と迷いもなくお決めになった事、今でも大切にエリーゼ様のマフラーを持っている事、エリーゼ様に拒絶され落ち込まれた事、エリーゼ様に笑顔を向けられ表情が緩むほど喜んでいる事…挙げてしまえばきりがありませんが、その様に感情を人は恋をしている感情というのですよ。」
フェイは、呆れた様に説明した。
「では…エリーゼと話したり笑顔が見れて胸の奥がを温かくなるのも恋をしているからだというのか?」
「ええ…。恋などしていなければ胸の奥がをその様な感覚には襲われませんからね。その様な感覚に襲われるのはしっかりと殿下がエリーゼ様に恋に落ちている証拠ですよ。」
カイゼルが、信じられないという様な表情で言うとフェイはやれやれといった様に応えた。
「これが…恋という感情なのか…?私はエリーゼが好きなのか…。」
カイゼルが呟いた。
「今までその自覚がなかった事が驚きですよ…。今日は殿下もお疲れでしょうし、私もさすがに疲れましたのでこれにて失礼致しますね…。」
フェイは、半ば驚きと呆れの入り混じった表情でカイゼルへと言った。
「え?あぁ…。そうだな。今日はお疲れであった…。ゆっくり休むといい…。」
カイゼルはフェイへと言った。
「ありがとうございます。では…私はこれで失礼しますね。…。あっ、今日アリさんに次回テオを連れて行く許可を貰っておきましたのでテオを連れていけますので。」
「あぁ…。分かった。ありがとう。では…また明日。」
フェイが思い出した様に言うとカイゼルは、どこか上の空の表情でフェイへと言った。
(ふぅ〜。殿下は今夜はきっとご自分がエリーゼ様に恋をしている事に気づいたことでお悩みになるに違いないな…)
フェイは、そんな事を思いながら一礼して執務室を後にしたのだった。
「私が…エリーゼにずっと恋をしていたのか…。これが恋というものなのか…。」
カイゼルは、フェイがいなくなった部屋で一人ボソッと独り言を呟いていた。
(はっ…待て…。こんな感情に気づいてしまって次からどの様な顔をしてエリーゼと話せばよいのだ!)
カイゼルは、ハッとなりとそんな事を頭で考えていた。
そして、その夜フェイの思った通りカイゼルは自分のエリーゼへの恋心に気づいた事を悩みなかなか眠れなったのだった………。