39.エリーゼとカイゼルの会話
アリストンとフェイが帰り路を進んでいるの同じ時………
アリストンの家では、エリーゼとカイゼルが話をしていた。
「体の方は温まりましたか?」
エリーゼがカイゼルに尋ねた。
「あぁ。ありがとう。ホットミルクを飲んだお陰で体が温まったよ。」
カイゼルが応えた。
「そうですか。それは良かったです。」
エリーゼがホッとした表情で言った。
「エリーゼこそ…体調の方はもう…大丈夫なのか?」
カイゼルは心配そうな表情で尋ねた。
「はい。沢山寝かせてもらいましたし、十分に休ませてもらいましたので。」
エリーゼは、ほんの少し笑みを溢して言った。
「そうか…だが、無理は禁物だぞ。」
カイゼルはホッとした表情で言った。
「はい。」
エリーゼが応えた。
「本当なら、今日はアリさんと一緒にお仕事だったのですよね?ごめんなさい。私のせいで…」
エリーゼは申し訳なさそうに言った。
「いいのだ…アリさんもエリーゼの事が気になり仕事どころではなかっただろうからな。また、明日一緒させてもらうことにするさ。」
カイゼルが応えた。
「はい…。」
エリーゼは申し訳なさそうに言った。
そして、少し沈黙が続いた……
ぎごちない空気が漂っていた…
「カイさんは、何故なんでも屋になろうと思われたのですか?」
沈黙を破りエリーゼがカイゼルへと話しかけた。
「それは…その…ある者を助けたい、力になりたいと思ったのがきっかけだったのだ…」
カイゼルが、誤魔化すように応えた。
「ある…人ですか?」
エリーゼは、不思議そうな表情でカイゼルへと尋ねた。
「あぁ…私の自分勝手な思い込みと行動でその者を傷つけてしまったのだ…」
カイゼルは、少し苦しそうな切なそうな表情で言った。
(カイさん…とても辛そうな表情ね…よほどその方は大切な人だったのでしょうね。大切な人を傷つけてしまった事を心から悔やんでるのね…)
エリーゼは、カイゼルの表情を見てそんな事を思っていた。
「その方は、今どうなさっているのですか……?」
エリーゼが尋ねた。
「……。」
カイゼルが言い辛そうに黙った。
「あっ…ごめんなさい。立ち入った事を聞いてしまいましたね…」
エリーゼは、黙り込むカイゼルを見て慌てて言った。
「いや…いいのだ…その者は、今はきっと俺に会いたいとも思っていないだろう…俺の顔など見たくもないはずだからな…」
カイゼルは辛そうな表情で言った。
(今…こうして目の前にいる君は記憶がないから私の顔を見て話をする事が出来ているのだから…記憶が戻れば、私が目の前にいる事すら…いや…私の存在に嫌悪を感じるだろうからな…)
カイゼルは、エリーゼに話をしながらそんな事を思っていた。
「その方とは…もう会う事やお話する事は難しいのですか…?その方は…カイさんにとってとても…大切な方なのですよね?」
エリーゼは、恐る恐るカイゼルへと尋ねた。
「……。恐らく会うのはおろか話す事も難しいだろうな…。私にとってはとても大切な人だがそんな人を私自身が深く傷つけてしまったのだ。無理もないだろう…」
カイゼルは、切なそうな表情を浮かべて言った。
「そうなのですか…。その方の助けになりたいと思いなんでも屋のお仕事を始められたのでしたらいつか仕事が慣れてきた頃にその方と会える機会が訪れるといいですね。その方の助けになれるといいですね。」
エリーゼは、優しくほんの少し微笑みながらカイゼルへ言った。
「そう…だな…。俺が助けられた様に、今度は俺が少しでも手助けになるといいな…。」
カイゼルは、どこか寂しそフッと口角を上げて言った。
「カイさんは、その方に助けて頂いたのですか?」
エリーゼは、不思議に思い尋ねた。
「あぁ…その者は…俺がもう死んでしまうのではないかという時に救ってくれたのだ…」
カイゼルは、懐かしそうに思い出す様な表情で言った。
「え…?カイさんはその様な目に遭われた事が…あるのですか…?」
エリーゼは、カイゼルの言葉に驚きながら尋ねた。
「あぁ…八年も前の事だがな…ある事件に巻き込まれてな…だが、その者の優しさのお陰で助かったのだ。その時の俺は信じていた者に裏切られた事に酷くショックを受けた事もあり元々あまり人に対して信用というものをしていなかったが更に人に対しての信用というのがなくなってしまったが、何故か…その者に対しては最初は無条件に人に優しくするその者も何か企んでいるのではと思ったがその者は、本当にただ俺の事を心配して純粋に優しく接してくれていたのだ。」
カイゼルはエリーゼへと説明した。
(エリーゼは、記憶が戻ったとてあの時の事は覚えていないだろうがな…)
カイゼルは、エリーゼに話しながらそんな事を思っていた。
「酷く辛い経験をされたのですね…。」
エリーゼは、カイゼルの話を聞き辛そうな面持ちで言った。
「あの時は、本当に色々と辛かった…しかし…その時に出会った少女のお陰で辛さを引きずる事はなかったのだ。」
カイゼルが言った。
「ある方というのは女性の方なのですか?てっきり男性の方かと…」
エリーゼは少し驚いて言った。
(その時に少女だったということは、きっと今は立派な女性なのでしょうね…)
エリーゼは、カイゼルに言いながら思っていた。
「あぁ。今は十六でまだ少女の名残はあるが八年間見ないうちに立派な女性になっていたよ…優しさも変わらずでな…だが、俺が他人の言葉を信じ彼女の事を信じる事が出来ず傷つける結果となったんだ。」
カイゼルは悔しそうな悲しそうな表情で言った。
「その方を信用出来ず…ですか?」
エリーゼは、??と不思議そうな表情で尋ねた。
「あぁ…俺は人を信じる事に抵抗があるんだ。八年前の面影がある彼女が俺が会いたかった少女かもしれないと思ったのに…その彼女が別の者に笑いかけている所を見て他の者に入れ知恵されたのだ。俺は…その入れ知恵を信じてしまったのだ…そして、俺は彼女に酷い言葉を投げつけて傷つけてしまったんだ…」
カイゼルは、苦しそうな表情でエリーゼへと説明した。
「そんな事があったのですね……。」
エリーゼは、カイゼルの話を聞いて複雑そうな表情で言った。
(その方からすれば、カイさんが人を信じる事に抵抗があるなんて知らなかったでしょうから急に傷つく様な事を言われたらそれは相当傷つかれたでしょうね…もう一度その方と話される機会あれば何か変わるかもしれないけれど…どうにかしてその方と話される機会を作ることは出来ないのかしらね…)
エリーゼは、カイゼルに言いながらそんな事を考えていた。
「人を信じると…いう事は簡単な事ではないのは確かです…私も記憶をなくしてアリさんに助けて頂き記憶が戻るまでここへ置いて頂けると言われた時は一瞬不審に思いました。ですが、人を信用する事で相手の信用も得られるという事は沢山あると思います。人に裏切られるかもしれないから相手を信用しないという考えを持っている限り本当の信頼関係は築けないのではないかと思います…なので、なんでも屋の見習い中に人を信用していく努力をしてみませんか?」
エリーゼは、少し考えるとカイゼルへと説明して提案した。
「信用する努力……?」
カイゼルは驚いた表情をしてエリーゼへ尋ねた。
「はい。アリさんの事は信用があるからこそ見習いを依頼したのでしょう?でしたら一緒に行動をする私の事を信用していく努力から始めるというのはどうですか?私はカイさんとはお互いほとんど何も知らない仲ですから、一緒に時間を過ごすうちにお互いの事が分かると信用というものが得られるのでないかと思ったのですが…」
エリーゼがカイゼルへと説明した。
(エリーゼの事は信用している…むしろ…アリさんの方が初対面だからいまいち信用が…と思っているなど言える訳がないしな…)
エリーゼの提案を聞いてカイゼルは思っていた。
「……。あぁ…分かった。エリーゼの提案に乗ってみるよ。」
カイゼルは、悩んだ末に応えた。
(エリーゼとの時間を過ごす事で少しでも何かエリーゼの力になれる事もあるだろうし、何より私がエリーゼとの時間を過ごしたいと思っているからな…。それに…王太子としてこれから人を信用していくという事は必要な事でもあるからな…)
カイゼルは、エリーゼに応えながらそんな事を考えていた。
「そうですか?良かったです。努力する中で、その女性ともう一度お話し出来る機会がくるといいですね。きっと、カイさんがきちんと話せば彼女も分かってくれると思いますし。あっ、カイさんが実は優しい方っていう事も。ね?」
エリーゼは、優しい笑顔でカイゼルへと言った。
(私もそうだったけど、きっと彼女もカイさんがきちんと話せば優しくて不器用な人だって事をきちんと理解してくれるわね。)
エリーゼは、カイゼルに言いながらそんな事を思っていた。
「あぁ…。ありがとう…そんな日が来るといいな。」
カイゼルは、エリーゼの言葉が嬉しさのあまり笑顔を溢しながら言った。
(本当に…エリーゼは優しい女性だな…記憶がないとはいえこんな気難しい私にまで優しい言葉をかけてくれるとは…)
カイゼルは、胸の奥がキューっと熱く締め付けられながらそんな事を思っていた。
「カイさん…カイさんはムスっとしている顔よりそんな風に笑った方が何倍もいいです。」
エリーゼは、カイゼルが笑った事に驚いたがすぐに笑顔でカイゼルへと言った。
「俺は…笑っていたか?」
カイゼルはエリーゼの言葉に驚き言った。
「はい。笑ってましたよ。ふふ…カイさんも笑えるんだなって思って驚きましたが。」
エリーゼが、クスクス笑いながら言った。
「なっ!失礼な!俺も笑う事はある。」
カイゼルは、エリーゼの言葉に少しムスっとしながら言った。
「ふふ…ごめんなさい。でも、いつもそんな風にムスっとした表情な事ばかりだったので。」
エリーゼは、クスクス笑いながら言った。
「そんなにか…」
カイゼルは困った表情で言った。
「そんなにですよ。ふふ…今日はカイさんが普通に笑えるという事も知る事が出来ました。」
エリーゼは、笑顔でカイゼルへ言った。
「大袈裟だな………。ははっ…」
カイゼルもエリーゼにつられて思わず笑ってしまった。
そんなカイゼルを見てエリーゼも笑顔を溢したのだった。
(俺は、こんなに笑ったのはいつ以来だろうか…エリーゼに酷い仕打ちをしたと知った日から笑う事すらも忘れていたのかもしれないな…)
カイゼルは、エリーゼと笑い合いながらそんな事を思っていたのだった。
そんな、二人の様子をこっそり家の外から窓越しに見ていたアリストンとフェイは家の中に入るタイミングを探っていたのだった……。