35.丸投げされたカイゼル
カイゼルとフェイが王都へと出てくる日があっという間にやって来た。
カイゼルとフェイは、王都へ到着すると真っ直ぐアリストンの家へと向かった。
二人はアリストンの家に着くと扉を叩いた。
コンコンッ!!
「おはようございます。カイとフェイです。」
カイゼルが、扉を叩くと家に向かって挨拶をした。
すると、中からアリストンが出てきた。
「あぁ…おはよう。入ってくれ…」
アリストンが、扉を開けて出てくるとカイゼルとフェイへと言った。
しかし、アリストンは少し元気がなかった。
そんなアリストンを見てカイゼルが不思議に思い声をかけた。
「アリさん…何かあったのですか?少し元気がない様ですが。」
カイゼルが言った。
「あぁ…私は大丈夫なのだが…エリーゼが数日前から少し体調を崩してな…」
アリストンは、心配そうな表情を浮かべて二人へと言った。
「何ですって?!エリーゼがですか?それで、エリーゼは大丈夫なのですか?どこが悪いのですか?!」
アリストンの話を聞いて、カイゼルは血相を変えて慌てた表情を浮かべてアリストンへと尋ねた。
カイゼルの慌て様に、アリストンとフェイは驚いていた。
「カイ…一旦落ち着け…あまり声を張るとエリーゼが起きてしまうだろう…」
アリストンは、驚いた表情を浮かべたまま言った。
「すいません…話を聞いて驚いてしまったので。それでエリーゼは大丈夫なのですか?」
「あまり良くないのですか?」
カイゼルとフェイが心配そうな表情でアリストンへと尋ねた。
「数日前に頭痛と立ちくらみがあった様で、少し横になり休んでいたみたいでその日の夜は大丈夫そうだったのだが…翌日になると少し顔色が悪くてな。医者に診てもらったところ、記憶喪失からくる頭痛と立ちくらみだろうとの事だ…たまに記憶喪失になるとその様な事が起きるみたいなのだ…エリーゼ本人の顔色は今朝はだいぶ良くなっていてな…だが、大事を取って休ませているのだ。最近はよく動いたり出かけたりしていたからな。体が疲れているのもあるだろう。」
アリストンが、心配そうな表情でカイゼルとフェイへエリーゼの体調の状況を説明した。
「そうだったのですか…ですが、体調は回復に向かっている様で良かったです。」
アリストンから話を聞いたフェイが、少しホッとした様な表情で言った。
横にいたアリストンは、黙って何かを考えている様だった。
「それで、カイとフェイが来たら少し留守番を頼んでエリーゼの側にいてやって貰おうと思ってな。私は食料の買い足しに行ってこようと思う。エリーゼが食べたい物を食べさせてやろうと思ってな。すまないが留守番を頼めるか?エリーゼは眠っているがいつ目を覚ますかわからないからな。誰かが付き添ってやった方がいいと思うのだ。」
アリストンが、カイゼルとフェイへと尋ねた。
「分かりました。留守番をしてエリーゼの様子を見ておきます…」
カイゼルが、心なしか元気のない声でアリストンへ言った。
「私は…アリさんのお買い物のお手伝いをしましょう。人手があった方が荷物を持ちながらの買い物はし易いでしょう?留守番ならカイさん一人で十分かと…」
フェイは、何かを察してといわんばかりの目でアリストンを見て言った。
「ちょっっ待て!フェイ!」
カイゼルが慌てて言った。
「……。そうだな。留守番はカイ一人でも問題ないだろう…フェイ、悪いが付き添いをお願いするよ。」
「はい。承知しました。」
アリストンが、カイゼルをちらりと見て言うとフェイの方を見てフェイへと言った。
フェイは、少し微笑みながら応えたのだった。
「では、カイ…我々が戻ってくるまでエリーゼの側にいて様子を見てやっておいてくれよ。頼んだぞ。」
アリストンは、カイゼルの肩をポンっと叩きながら言った。
「ちょっと待って下さい。そんな…俺一人でなんて…」
カイゼルは慌てて言った。
「大丈夫だ。エリーゼは今眠っているし側に付き添ってくれていたらいいんだよ。じゃぁ、私達は行ってくるからな。」
アリストンは、にこりと微笑みながら言った。
「では、カイさん行って来ますね。」
フェイも、カイゼルににこりと微笑みながら言った。
「フェイ!お前という奴は…」
カイゼルは、ムスっとした表情で言った。
「エリーゼ様との距離が近づくチャンスじゃないですか。殿下、頑張って下さいね。」
フェイが、周りに聞こえない様に小声でカイゼルへと言った。
そして、フェイはそう言うとアリストンと共に出かけて行ったのだった。
「はぁ…私はどうすればよいのだ…」
家に残されたカイゼルは、ため息をつきながら困った表情を浮かべてボソリと呟いた。
(一先ず…エリーゼの様子を見に行くとするか…)
カイゼルは、困った表情のままそんな事を考えながら二階のエリーゼの部屋へと向かったのだった。
エリーゼの部屋の前に着いたカイゼルは、部屋の扉を優しく叩いた。
コンコンッ。。
しかし、中から返事はなかった。
「エリーゼ?寝ているのか?俺だ。カイだ…入ってもいいか……?」
カイゼルが、部屋の中に向かって言った。
しかし、中から返事は帰ってこなかった。
(エリーゼは寝ているのだろうか…)
カイゼルは、そんな事を思いながらそっと扉を開けた。
「入るぞ…」
カイゼルは、そう言うとそっと扉から部屋に入った。
カイゼルが部屋に入ると、エリーゼは眠っている様だった。
カイゼルは、ベッドに寝ているエリーゼへと近づきベッドの側にあった椅子へと腰掛けた。
(よく眠るほど体調が優れないのだろか…記憶喪失の影響によるものだとアリさんは言っていたが…私があの日エリーゼを王宮から追い出したせいで襲われ記憶喪失になりその記憶喪失のせいでこの様に体調を崩してしまったのだな…)
カイゼルは、眠っているエリーゼを見つめながら考えていた。
「あの時…君は私を救ってくれたのに…私は君の為に何もしてやれないのか…私は君に辛い思いをさせてばかりだな…すまない…どうか、早く元気になってくれ…頼む…」
カイゼルは、自分の不甲斐なさに顔を歪ませながらエリーゼへと呟いた。
そして、カイゼルはエリーゼの手を恐る恐るそっと握ったのだった…
エリーゼが眠ったまま一時間と少しが経過した。
カイゼルは、エリーゼの手を握ったまま連日の公務と執務の疲れとエリーゼを心配して気を揉んでいたせいかウトウトと眠ってしまっていた。
カイゼルが、寝落ちてしまって少ししてエリーゼはそっと目を開けた…
(あれ…私ずっと眠っていたのかしら…アリさんに心配かけてしまったわ。今何時かしら…)
目を開けたエリーゼはそんな事を考えていた。
そして、ベッドから起き上がろうとした時に誰かに手を握られている事に気づいた。
エリーゼは、驚いてベッドの横を見るとそこには椅子に座りエリーゼの手を握ったまま寝落ちていたカイゼルの姿があったのだ。
「えっ?カイさん……?」
エリーゼは、そこにいるカイゼルにとても驚きとても小さな声で呟いた。
(えっ?一体これはどういう事なのかしら…どうしてカイさんがここに?あっ…今日はカイさん達がやってくる日だったわね…でも、どうしてカイさんがここにいて私の手を握っているのかしら…)
エリーゼは、目の前の状況に頭が混乱しつつ考えていた。
エリーゼは、一先ずカイゼルを起こさない様にそっと手を離した。
そして、ベッド横にあるサイドテーブルに置いてある手編みのひざ掛けをカイゼルへとそっとかけたのだった。
そして、エリーゼは自分がベッドから出るとカイゼルを起こしてしまうと思い少しだけ体勢を起こして座りサイドテーブルに置いてある編み物セットを手に取った。
そして、エリーゼは静かに編み物を始めたのだった。
(それにしても…カイさんが眠ってしまうなんてよほどお疲れなのかしら…)
エリーゼは、編み物を編みながらカイゼルの方を見て思っていた。
エリーゼが、編み物を始めて三十分程経った時……
カイゼルが、ゆっくりと目を開けた。
「んん……ん?あっ…いつの間にか眠ってしまっていたのか……」
目を開けたカイゼルがボソリと呟いた。
「目が…覚めましたか……?」
エリーゼは、少し覗き込むようにカイゼルを見て尋ねた。
カイゼルは、エリーゼの声を聞き一気に目が覚めた。
そして、自分が眠ってしまっていた事とエリーゼが目を覚ましていた事に驚きガバっと慌てて立ち上がろうとした為カイゼルはバランスを崩して椅子から転げてしまったのだった。
ドンッ!!
と、カイゼルが床に転げた音がした。
「つぅ……いたたた……」
転げた拍子に肘を打ち付けたカイゼルは、声を出した。
(何というか失態だ…慌てて椅子から転げ落ちるなど…エリーゼは呆れているだろうな…)
カイゼルは、肘をさすりながらバツが悪そうな表情で思っていた。
エリーゼが、状況を見て呆れているかもしれないと思うとなかなか顔を上げることが出来なかった……
すると………
「ふっ……ふふふ…」
エリーゼが突然、クスクスと笑いだしたのだった。
エリーゼがてっきり呆れていると思っていたカイゼルは、急に笑いだしたエリーゼに驚き顔を上げた。
カイゼルが顔を上げて目に飛び込んで来たエリーゼの笑顔は、八年前の面影が残る笑顔だった。
カイゼルは、八年ぶりに見たエリーゼのその笑顔を見て何故だか心の奥が温まる様な気持ちになりなった。
そして、自分でも気づかないうちにその笑顔に見惚れていたのだった……
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