34.記憶の断片
翌日……
エリーゼは、アリストンに送ってもらいメディス伯爵家の領地へと来ていた。
「では…マイクさんナディアさんエリーゼをよろしくお願いしたす。」
「はい。アリさん。お任せ下さい。」
アリストンが、領地で待っていたマイクとナディアへと言った。
マイクは、笑顔で応えた。
「では、私は仕事に行くので。エリーゼ…仕事が終わったらまた迎えに来るからな。」
「はい。分かりました。お仕事頑張って下さいね。」
「あぁ…ありがとう。」
アリストンは、エリーゼの方を向き声をかけた。
エリーゼは笑顔で応えた。
そんなエリーゼにアリストンも笑顔で言った。
「エリーゼ、今日はパンを焼こうと思うのだけど手伝ってくれないかしら?」
ナディアがエリーゼへと声をかけた。
「え?パンですか?はい。喜んでお手伝いします。」
エリーゼは、満面の笑みで応えた。
「ふふ…ありがとう。ブラット!今からエリーゼとパンを焼こうと思うから材料を小屋の中へと運ぶのを手伝ってくれるかしら?」
「あぁ、分かったよ。すぐに運ぶよ。」
ナディアは、嬉しそうに言うと近くにいたブラットに声をかけてお願いした。
ナディアにお願いされたブラットは笑顔で応えた。
そして、エリーゼとナディアは小屋の中へ入りブラットが運んでくれた材料を量り始めパン作りを始めたのだった。
「エリーゼは、パン作りの手付きがとても手慣れているわね…」
ナディアが、エリーゼのパンを作る手付きを見て声をかけた。
「そうですか?なぜだか記憶がなくてもパン作りは、こう…何というか手が勝手に動くというか…上手くは説明出来ないのですが…きっと、記憶をなくす前はよくパンを作っていたのかもしれないですね。」
エリーゼは、考える様な表情でナディアへと説明した。
「そう…なのね…きっとそうね…エリーゼは記憶を失くす前はきっとパン作りが得意だったのだわ。本当に慣れた手付きですもの。」
ナディアは、エリーゼの話を聞きエリーゼは記憶をなくしても体が覚えている事を嬉しく思い必死で涙を堪えながら笑み作って言った。
「ふふ…ありがとうございます。さぁ、これで形成は出来ました。後は焼くだけですね。」
エリーゼは笑顔でナディアへ言った。
「そうね…。焼く準備をしましょう。」
ナディアは、ぐっと涙を堪え笑顔を作り応えた。
そして、二人はオーブンの中へ形成したパンを並べてオーブンのスイッチを入れた。
パンを焼いている間、エリーゼとナディアはマイクとブラットの所へ行った。
マイクとブラットは、搾乳したミルクを使ってチーズ作りをしていた。
「マイク、ブラット。チーズ作りはどう?進んでいるかしら?」
ナディアが、マイクとブラットへと声をかけた。
「ナディア、エリーゼ。あぁ。チーズ作りは順調だよ。今ちょうど塩を入れて味を整えているところだよ。」
マイクがナディアへと応えた。
「わぁ〜とてもいい匂いがしますね。以前、アリさんが持って帰って来て下さった搾りたてのミルクで作ったチーズはとても美味しかったのです。」
エリーゼが、マイクのチーズ作りを見て笑顔で言った。
「そうか。美味しかったか。それは良かったよ。」
マイクはエリーゼの言葉を聞き嬉しそうに言った。
「娘さんも、チーズはお好きだったのですか?」
エリーゼがマイクへ尋ねた。
「え?なっ…何故、娘がいると?」
マイクが、エリーゼの言葉を聞き驚きながら言った。
「父う…父さん、私がエリーゼと二人で王都へ言った際に話をしたのです。妹がいると…」
ブラットがマイクへと言った。
「そう…だったのか。」
マイクがそういう事かという表情で言った。
「あぁ…娘はチーズが好きだよ。よくチーズ作りも手伝ってくれたんだよ。今も私の作ったチーズを美味しいと言ってくれているよ…」
マイクは涙が出そうなのを必死で堪えながらエリーゼへと笑みを浮かべながら言った。
「ふふ…そうなのですね。娘さんは幸せ者ですね。こんなに美味しいチーズを家を出ても食べる事が出来るなんて。」
エリーゼは、マイクの話を聞いて笑みを浮かべながら言った。
「あぁ…そうだね。」
マイクはエリーゼを愛おしそうに見つめながら言った。
「エリーゼ、そろそろパンが焼ける頃じゃないかしら?オーブンを見に行きましょう。」
ナディアは、マイクの表情を見て何かを察した様にエリーゼへと声をかけた。
「そうですね。見に行ってみましょう。」
エリーゼは、にこりと微笑みながら言った。
「マイク、ブラット…パンが焼けたら少し早いけれどランチにしましょう。ミルクとチーズとサラダになりそうな野菜を少し採ってきてくれるかしら?」
「あぁ…わかったよ。任せておけ。」
ナディアは、マイクとブラットにお願いをした。
ナディアのお願いを聞きマイクが応えた。
マイクの返事を聞くと、エリーゼとナディアは小屋へと戻って行った。
「父上、エリーゼへ妹がいると言った事をお伝えするのを忘れていて申し訳ありませんでした。エリーゼと王都を歩いている時に話の流れでエリーゼと過ごしている時間の楽しさのあまり妹がいるという事を言ってしまったのです。」
「いや…大丈夫だ。そなたの気持ちも分からなくはないからな。私もこうしてエリーゼがここへ来てくれてエリーゼが王宮へと行く前に戻ったみたいでとても嬉しく楽しく愛おしく思うからな…そなたがエリーゼと過してそう思うのも無理はない…」
エリーゼとナディアが小屋へ戻る姿を見ながらブラットはマイクへと申し訳なさそうに言った。
ブラットの言葉を聞き、マイクはエリーゼの後ろ姿を見たながら切なそうな表情を浮かべながら言った。
「いつ、エリーゼの記憶が戻るかは分からないがこうしてまた家族が揃い時間を過ごす事が出来る事に感謝しているのだ。ただ…エリーゼがあの様に笑って元気な姿を見せてくれているだけで心の救いなのだよ。ナディアも私も…もちろんブラットもそうだろう?」
「ええ。父上と母上と同じ気持ちです。こうして過ごせる時間がとても嬉しい事ですし、エリーゼが元気で笑ってくれている姿を見るだけで心の救いです…」
マイクが、少し笑みを浮かべながらブラットへと言った。
ブラットは、笑みを浮かべながらマイクの言葉に頷きながら言った。
「マイクさーん、ブラットさーん、パンが焼けましたよー!」
マイクとブラットが、しみじみと話をしているとエリーゼが小屋の扉を開けて二人へと大声で言った。
「あぁ。野菜を採ったらすぐに行くよ!!」
マイクは笑顔でエリーゼへと応えた。
「分かりましたー!待ってますね!!」
マイクが応えると、それを聞いたエリーゼは笑顔で応えた。
そして、マイクとブラットがミルクとチーズとサラダ用の野菜を小屋へと持ってきた。
持ってきて貰った野菜でナディアがサラダを作っている間にエリーゼが机に焼きたてのパンとミルクとチーズを並べた。
そして、ナディアが完成させたサラダを机へと並べた。
「では、いただくとしよう!」
マイクが言うと、
「「いただきます!」」
四人は同時に言った。
そして、四人は机に並んだ料理を食べ始めたのだった。
「この、サラダの野菜新鮮でとっても美味しいです。」
「そうか?それは良かった。沢山食べるといいよ。」
「エリーゼ、チーズもどうだ?パンに乗せると美味しいぞ?」
「ミルクのおかわりもあるからね。」
エリーゼが、サラダを食べてあまりの美味しさに目を輝かせて言った。
そんなエリーゼにマイクは嬉しいに言った。
そして、ブラットはチーズを。
ナディアはミルクをエリーゼへと勧めた。
「ふふ…何だか皆でワイワイとこうして食事をするのはとても楽しいですね……。」
エリーゼは、笑顔を浮かべながら言った。
その時だった…
エリーゼが急に頭痛に襲われて頭の中に、急に目の前の状況の様な光景が過ぎったのだった。
「エリーゼどうした?頭が痛むのか?!」
エリーゼの様子がおかしくなったのを見てマイクが慌てて言った。
「あっ…いえ…大丈夫です。少し頭がくらついただけですので。あまりに楽しくて張り切って朝から動き通しなので少し疲れたのかもしれません。心配いりません。もうおさまりましたので…」
エリーゼは、マイク達を心配させない様にと笑みを浮かべながら言った。
「本当に大丈夫なのか?」
「食事を済ませたら少し横になっていなさい…」
「そうだよ。エリーゼ少し休んでいろ。」
エリーゼの言葉を聞いて、マイクとナディアとブラットは心配そうな表情でエリーゼへと言った。
「ありがとうございます…では…食後に少しだけ休ませて貰いますね…」
エリーゼは、申し訳なさそうに言った。
そして、エリーゼはナディアが用意してくれたソファベッドへと横になったのだった。
(あの頭痛とあの頭の中に過ぎった光景は一体何だったのかしら…以前にも先程の様に食卓を囲んで楽しい時間を過ごした様な気がするわ…記憶の一部なのかしら…私の記憶は戻ろうとしているのかしら…)
エリーゼは、横になり休みながら考えていたのだった。
(何にせよ…先程の頭を過ぎった光景が記憶が戻る前兆なのだとしたら記憶が戻るのもそう遠くはないのかしら…アリさんに言った方がいいかしら…いえ、でも定かでない訳だし今は言って余計な心配かけたくないわね…)
エリーゼは、更に頭の中で考えていた。
そして、エリーゼはいつの間にか眠ってしまっていて起きた時にはアリストンが迎えに来ていた。
エリーゼは、マイク達にお礼を言うとアリストンと帰って行ったのだった……