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33.エリーゼの匂い

時を同じくして王宮では………


王太子専用執務室に執務を終えたカイゼルとフェイがいた。


「殿下…今日はお疲れになられた事でしょう…それに手の傷は侍医に診てもらった方が良いかと…」


フェイが、疲れた顔をしているカイゼルへと声をかけた。


「いや…手の傷はエリーゼから貰った薬を塗るから大丈夫だ。ただの切り傷だから侍医に見せるまでもないだろう…侍医に見てもらい父上と母上に報告されても困るからな。父上と母上には王都のいるエリーゼに会いに行っている事を黙っているからな…メディス伯爵家へ訪て以降、エリーゼが見つかっても私には会いに行くなと止められていたからな…」


カイゼルは、疲れた表情でフェイへと応えた。


「殿下がそう仰るならこれ以上は申しませんが…しかし、今日はエリーゼ様と少し距離が近づかれたのではありませんか?」


フェイは、心配そうに言うも思い出したかの様にカイゼルへと尋ねた。


「距離が近づいたと言えるのかどうかわからないが…エリーゼが鶏小屋で転げそうになった時も、ベリー畑で棘が刺さったと聞いた時も咄嗟に自分が代わりに…と思ったのだ。二度とエリーゼを傷つけたくないという思いもあるのだが…体が咄嗟に動いたのだ…」


カイゼルは、思い出すかの様にフェイへと説明した。


「正直…いくら身分を隠しているとはいえ、王太子として自分があの様な作業をするのは納得いかれていない模様でしたので殿下がエリーゼ様の為とはいえ行動を起こしている事に少し驚きました。ですが…少なくとも、エリーゼ様が殿下に対して恐怖の意を示すことはなくなったのではないですか?」


フェイが言った。


「確かに、最初は何故私がこの様な事をしなければならないのかと思っていたがいつの間にかエリーゼの為だと思うと苦ではなかったのだ…」


カイゼルが言った。


「そんな殿下のお気持ちはエリーゼ様にも伝わっていると思いますよ。」


フェイが、にこりと微笑みながら言った。


「そうだと…良いのだが…だが、私の傷の手当てをしてくれている時は私に怯えてはないなかったのでホッとしたよ…」


カイゼルは、ホッとした様な表情で言った。


「今後も、殿下のお気持ちがエリーゼ様にきちんと伝わって頂けると良いです。」


フェイが言った。


「あぁ…そうだといいのだが…」


カイゼルは、少し切なそうな表情で呟いた。


「今後も、殿下が王太子だという事はアリさんにもエリーゼ様にもきちんと隠しておかなければなりませんね。」


「あぁ…もちろんだ。」


フェイが言うとカイゼルが応えた。


二人が話しているそこへ……


カリカリッ!!

カリカリッ!!


「ニァ〜〜オ…ニャ〜〜……」


急に部屋の扉の辺りから、猫の鳴き声と扉をカリカリと引っ掻く様な音が聞こえた。


二人は、音が聞こえて驚いた。

フェイが扉の方へと向かい用心してそっと扉を開けた。


すると、扉の外に居たのは猫のテオだった。


「テオ?ここで何してるんだい?今は王妃様の所に居座っていたのではないか?」


フェイは、扉の外に居たのがテオだったので驚きながらテオへと言った。


テオは、フェイの言葉を聞き流すかの様に部屋へと入り込みカイゼルの元へと行った。


カイゼルは、自分の元へとやって来たテオに驚いた。

何故ならテオは、カイゼルがエリーゼを王宮から追放したその日からカイゼルを威嚇するかの様に怒り一切カイゼルに近寄らなくなっていたからだ。


「テオ…お前…エリーゼを追い出した私に怒っていたのではないのか?それからずっと母上の元にいたのだろう?だというのにどういう気持ちの変化だ?」


カイゼルは、自分の膝の上へと乗ってきたテオを撫でながら言った。


テオは、カイゼルの問いかけなどお構いなしにカイゼルのお腹辺りに自分の顔を近づけ匂いを嗅いだのち顔をすりすりと擦り付けたのだった。


「もしや…テオは殿下に残っているエリーゼ様の匂いにつられて来たのではないですか?殿下は今日エリーゼ様を鶏小屋で助けた際にエリーゼ様の匂いがついたのでは?」


フェイは、テオの行動を見てあっ!と思いついた様にカイゼルへと言った。


「エリーゼの匂いに?」


カイゼルは、フェイに言われて言うと自分の服にすりすりするテオを見つめた。


「テオ…フェイの言うとおりなのか?私からエリーゼの匂いがするのか?」


カイゼルは、テオに声をかけた。


「ニァ〜〜オォォ…」


テオが、カイゼルの言葉に反応したかの様に鳴いた。


「現金な奴だな…あれほど私を威嚇して近づきもしなかったというのに…だが、それほどまでにお前もエリーゼが恋しいのだな…」


カイゼルは、苦笑いしながらテオへと言うと少し切なそうな表情でテオの頭を撫でた。


「テオは…エリーゼ様の事が大好きなのでしょう。テオのエリーゼ様に対しての懐き様は私も驚いた程ですから…」


フェイは、儚げな表情で言った。


「エリーゼは…本当に心の優しい少女なのだな。私は、テオだけでなく使用人達からの刺さる様な視線も浴びたからな…本当に私がした事がどれ程馬鹿な事だったかを思い知らされるよ…」


カイゼルは、切ない表情を浮かべながら言った。


「殿下…」


そんなカイゼルを見ながらフェイが呟いた。


「本当に出来る事なら、エリーゼにあんな酷い事をする前に戻って欲しい程だ…だが、そんな事は無理なのは分かっている。だからこそ私はエリーゼを二度と傷つけない様にエリーゼの為に出来る事はしたいのだ…そして、もしも…記憶が戻ったらきちんと謝りたいのだ…」


カイゼルは、テオを撫でながら切ない表情で言った。


「……。殿下、今度アリさんに許可をもらってテオをエリーゼ様の元へ連れて行くというのはどうでしょう?」


フェイが空気を変えようとカイゼルへと提案した。


「テオを?……。そう…だな。それも良いかもしれないな。テオもエリーゼに会いたいだろう?」


カイゼルは、少し考えた末に言った。

そして、テオにも声をかけた。


「ニァ〜〜…」


テオは、少しトーンを上げた鳴き声を出した。


「では…次回アリさんの元へと訪ねた時に聞いてみましょう。」


「あぁ。そうだな。」


フェイが言うとカイゼルは頷きながら応えた。


そして、カイゼルはこの日…

エリーゼから手渡された塗り薬を傷口に塗り眠りについたのだった……

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