31.カイゼルに対する印象
ベリー畑のベリーが全て収穫された。
「皆さん、お疲れ様でした。お陰で収穫しなければならないベリーを無事に収穫する事が出来ました。ありがとうございます。」
ダラスが、四人へと感謝の気持ちを伝えた。
「このくらいお安いご用ですよ。これで、ランさんも安心して休養が取れるでしょう。」
アリストンは笑顔で応えた。
「はい。妻も安心するとおもいます。」
ダラスも笑顔で応えた。
「さぁ…皆さん、これでお願いしたい作業は全て終わりましたので少しお休みになってからお帰りください。」
ダラスは、にこりと微笑みながら四人へと言った。
「「ありがとうございます。」」
四人は、ダラスへと応えた。
ダラスは、四人を家の中のダイニングテーブルへと案内した。
「ちょっと、俺は…外で手を洗ってきます…」
テーブルへ案内された時、カイゼルが皆へ声をかけた。
「手なら中で洗わせてもらえばいいだろう?」
アリストンは、不思議そうにカイゼルへと言った。
「いや…手も汚れているいるし洋服も汚れているので一緒に洋服の泥もふるい落としてきます。」
カイゼルは、気まずそうに応えた。
「そうか?まぁ…いいか。分かった。ある程度泥が落ちたら戻って来るのだぞ。」
アリストンが言った。
「はい。」
カイゼルは応えると、家を出て鶏小屋の近くにあった水道の方へと向かったのだった。
すると、そんなカイゼルを見てエリーゼがダラスへと声をかけた。
「ダラスさん…申し訳ないのですがベリー畑の棘で出来た傷に塗る薬などがあれば貸して頂きたいのですがよろしいですか?」
エリーゼは、ダラスへ小声で尋ねた。
「え?棘でどこかを怪我なさったのですか?」
ダラスは、エリーゼの言葉に驚き慌てて言った。
「あっ…いえ…私は大丈夫なのですが…」
エリーゼは、少し気まずそうに言った。
「……。薬ですね。分かりました。でしたらこれをお使い下さい。」
ダラスは、エリーゼの表情を見て何かを察したのかすぐに側にあった塗り薬をエリーゼへと手渡した。
「ありがとうございます。」
エリーゼは、ホッとした様な表情でダラスへお礼を言った。
「アリさん…ちょっと私も外で手を洗ってきますね。」
エリーゼは、アリストンへと言うと薬を持って外へ出ていったのだった。
「おいっ!エリーゼ……」
アリストンがそう言った時にはエリーゼは出ていった後だった。
一方、カイゼルは外の水道の所で泥をはらい落としていた。
「よし…これだけ落とせば大丈夫であろう…」
カイゼルは、泥をある程度落として洋服を見ながら呟いた。
そして、水道の水を出して手袋を外して手を洗い始めた。
「痛っ…」
カイゼルは、手に水がかかり思わず声が漏れた。
(思っていたより棘が至るところに刺さっているな…手を洗うと水がしみるな…)
カイゼルは、自分の手を見ながら思っていた。
そこへエリーゼがやって来た。
「カイさん……やっぱり手を怪我されていたんですね…」
やって来たエリーゼは、カイゼルの手を見て心配そうな悲しそうな表情でカイゼルへと言った。
「え?エリーゼ……?」
カイゼルは、突然エリーゼに声をかけられ驚き言った。
そして、咄嗟に手を後ろへと隠したのだった。
「カイさん…こちらの椅子に座って傷を見せて下さい…」
エリーゼは、心配そうな表情でカイゼルへと言った。
「傷など…大丈夫だ。見せる程でもない。はっ…エリーゼは家の中に戻っていろ。私も手を洗ったら戻るから。」
カイゼルは、慌てた表情でエリーゼへと言った。
しかし、カイゼルはエリーゼの悲しそうな心配そうな表情を見てハッとなった。
「……。分かった。見せるから…」
カイゼルは、気まずそうな表情を浮かべて言うと椅子の元まで行き腰を下ろした。
そして、エリーゼへと手を差し出したのだった。
「あっ…こんなに棘が刺さって傷だらけになってるいるなんて…ごめんなさい…私がカイさんにお任せしたばかりにこんな…」
エリーゼは、カイゼルの手を見て泣きそうな表情で言った。
「っ!!エッ…エリーゼが謝る必要などない。わた…俺が無理強いして休めと言ったのだから…それに、これくらいの傷どうって事ないから心配するな。すぐに治るさ…」
カイゼルは、エリーゼが泣きそうな表情をしているのを見て慌ててしどろもどろに応えた。
「ですが…」
エリーゼは、表情を歪ませて言った。
「傷だらけになったのが、私の手で良かったのだ。もし、あのままエリーゼが収穫を続けていてエリーゼの手が傷だらけになったら、怪我に気づいた俺の後味が悪かったからな。それに…女性は手に傷などつくるものではないからな…」
カイゼルは、不器用ながらもエリーゼへと言った。
(カイさんは…実は怖い人ではないのかしら…言い方はぶっきらぼうで怖い感じがあるけれど鶏小屋の時も、ベリー畑の時も私の事を心配してくれているって事なのかしら…分かりづらいけれどそんな気がするわ…)
カイゼルの言葉を聞いてエリーゼは、驚きながらも不思議とそんな風に思えたのだった。
「……。カイさん手を私の方へもう少し差し出して下さい。」
エリーゼがカイゼルへと言った。
「え?」
カイゼルは、エリーゼの言葉に驚き言った。
「ダラスさんに塗り薬を借りてきました。手に薬を塗るので私の方へもう少し手を近くまで差し出して下さい…」
エリーゼは、カイゼルの目を見て説明した。
「あっ…あぁ…」
カイゼルは、エリーゼに目を見られてドキリっ…としながら応えた。
そして、エリーゼの近くまで自分の手を差し出したのだった。
「塗る際に痛かったらすぐに言ってくださいね。」
「あぁ…わかった。」
「では…塗っていきますね。」
「あぁ…」
エリーゼは、カイゼルへと言うとカイゼルは応えた。
そして、エリーゼがカイゼルの手に触れて優しくゆっくり薬を塗り始めたのだった。
「痛くないですか?」
エリーゼは、薬を塗りながらカイゼルへと尋ねた。
「んっ…?あぁ…大丈夫だ…」
カイゼルは、慌てて応えた。
(私の手にエリーゼが触れている…わざわざ私を心配してくれて薬を借りて来てくれたのか……?私の事が怖いのではないのか?)
カイゼルは、薬を塗っているエリーゼの事をチラリと見ながらそんな事を考えていた。
すると…
「フー…フー…」
エリーゼが、薬を塗り終えた手に息をフーフーと吹きかけたのだ。
カイゼルは、思わずビクッとなった。
それと同時に心臓の鼓動がドクッ…ドクッ…と早くなるのを感じた。
それは緊張の様な何とも言えない気持ちだったのだ…
「終わりました。傷の部分には薄めですが薬を塗っておいたので何日かしたら善くなるかと思います…」
エリーゼが、薬を塗り終えたのでカイゼルへと言った。
「あっ…あぁ…分かった。その…わざわざ薬を塗ってくれてありがとう。」
カイゼルは、少しモゴモゴとした口調でエリーゼへとお礼を言った。
「いえ…カイさんが傷を作ってしまったのは私のせいでもあるので…」
エリーゼは、申し訳なさそうに言った。
「だから!それは…エリーゼのせいではないと言っている。それ以上自分のせいなどと言うな。分かったか……?」
カイゼルは、少し声を張ったがすぐにハッとなり声を落ち着かせてエリーゼを怖がらせない様に言った。
「はい…分かりました。でも…改めてお礼は言わせて下さい。ありがとうございました。」
エリーゼは、少し困った表情をしつつも怖がってはいない様子でカイゼルへとお礼を言った。
「あぁ…」
カイゼルは少し照れた様に応えたのだった。
(やっぱり…カイさんは言い方はきついけれど優しい方なのかもしれないわね…)
エリーゼは、少し照れた様な表情のカイゼルを見て心の中で思っていたのだった…
そんな二人の様子を、アリストンとフェイとダラスが家の中から微笑ましく見ているなどエリーゼとカイゼルは知る由もなかった…