30.カイゼルの不器用な優しさ②
エリーゼ達が三人がようやく全ての鶏の小屋移動を終えた頃、アリストンとダラスが餌の準備をしてエリーゼ達の所へと戻って来た。
「おぉ〜これは大したものだな。三人で全ての鶏を隣の小屋へと移動したのか?」
アリストンが、全ての鶏がきちんと小屋移動出来ているのを見て感心した様に三人へと尋ねた。
「はい…我々で全て終えました。」
カイゼルが、疲れた表情でアリストンへと応えた。
「そうか…ん?カイ…お前だけえらく汚れているがそんなに大変だったのか?」
アリストンが、応えたカイゼルの洋服を見て不思議に思い尋ねた。
「これは…」
カイゼルが説明しようと声を出した。
「あの…アリさん、カイさんが汚れたのは私が尻もちをつきそうになったのを庇って下さったのです…そのせいでカイさんが尻もちをついてしまったのです…」
エリーゼが、慌ててアリストンへと状況説明をした。
「カイがエリーゼを庇ったのか?」
アリストンは、驚いた表情でエリーゼへと尋ねた。
「はい…」
エリーゼは応えた。
「そうか…カイがな…」
アリストンは、何かを考えるかの様に言った。
(カイゼルがエリーゼを庇ったのか…三人に汚れ仕事を任せてどうなるかと思っていたが…どうやらカイゼルはカイゼルなりに行動している様だな…)
アリストンは、エリーゼの話を聞いてそんな事を考えていた。
「さぁ、皆さん。大変な小屋移動お疲れ様でした。初めての君達には本当に大変だったでしょう…ありがとう。本当に助かりました。お疲れでしょうから私が鶏に餌をやっている間にそちらへ座って休むといいです。冷えたミント水を用意したので飲んでください。」
ダラスが、エリーゼとアリストンとカイゼルとフェイへと笑顔でお礼を言うと小屋の近くにある机つきのベンチへと案内して机へミント水を置いた。
「すまないね。ありがとうございます。ダラスさん。」
アリストンが笑顔でダラスへお礼を言った。
「「「ありがとうございます。」」」
エリーゼ達三人もダラスへとお礼を言った。
そして、四人はベンチへと座った。
エリーゼとアリストンは、ミント水を一口飲んだ。
フェイは、自分がまず一口飲み毒味を済ませカイゼルの方をチラリと見て小さく頷いた。
それを見たカイゼルは、自分もミント水を口にしたのだった。
「これは、とても飲みやすくて美味しいですね。」
「本当に。とても美味しいです。」
「あぁ…これは飲みやすい…」
「はい。ほのかにスーっとして喉が潤いますね。」
ミント水を口にした、エリーゼ達四人それぞれ言うととても美味しそうに飲み干したのだった。
「それは、良かったです。この餌やりが終わりましたベリー畑へと移動しますのでそれまでは座って休んでいて下さい。」
ダラスが、ミント水を飲んだ四人へと言った。
「はい。分かりました。」
アリストンがダラスへと応えた。
そして、ダラスが鶏の餌をやり終えたので皆でベリー畑へと移動した。
到着したベリー畑は、小さな規模だが立派な畑であった。
「さぁ、ここが我が家のベリー畑です。皆様にはここのベリーを良いものと傷んだものと分けながら収穫して頂きたいのです。これが良いもでこちらが傷んだものです。」
ダラスが、ベリー畑に着くなりエリーゼ達へと説明すると直ぐ側のベリーを二個程摘み、良いものと傷んだものの違いを見せて説明したのだった。
「どうでしょう?ベリーの良し悪しがお分かり頂けましたか?」
ダラスは、四人へと尋ねた。
「「「「はい。」」」」
四人は、頷きながらダラスへと応えた。
「良かったです。では、私はこちらの三列のベリーの収穫をしますので皆様は残りを一列づつ収穫して頂けたらと思いますので。よろしくお願いします。枝には棘がありますので手袋をお渡ししますので手袋を着用して収穫してください。分からない事がありましたら私に聞いて下さい。」
ダラスは、ニコリと微笑みながら四人へと説明をしたのだった。
そして、四人へ手袋を渡したのだった。
エリーゼ達四人は、ダラスに言われた通り一人一列づつベリーの回収を始めた。
「痛っ!」
エリーゼが、小さな声で声を漏らした。
「エリーゼ!どうした?」
隣の列のベリーを収穫していたカイゼルが、慌てた様にエリーゼの列へと来てエリーゼへ声をかけた。
「え?」
エリーゼは、小さく声を漏らしたはずなのにカイゼルが慌ててやって来た事に驚いて言った。
「今、痛いと言っていただろう!」
カイゼルは、エリーゼへ言った。
「えっ、あっ…はい。」
エリーゼは、驚きのあまり応えた。
「どうしたのだ?怪我でもしたのか?」
カイゼルは、慌ててエリーゼへと尋ねた。
「えっと……棘が刺さったみたいで。ですが大丈夫です。本当に少し棘が刺さっただけなので…」
エリーゼは、慌てているカイゼルへと言った。
「棘が刺さったのか?見せてみろ!酷く刺さっていたらいけないからな!」
カイゼルは、エリーゼへと言った。
「え?あの…本当に大丈夫ですので…」
エリーゼは、カイゼルの勢いに驚きながら応えた。
「いいから、手袋を外してみろ。」
カイゼルは、エリーゼが言っても引き下がらず言った。
カイゼルの勢いに圧倒されたエリーゼは、そっと手袋を外した。
手袋を外したエリーゼの指からは、棘が刺さった所に少しだけ血がでていた。
「血が出ているではないか!もう収穫はやめて休んでおけ!私が代わりにここの列のベリーも収穫するから!」
カイゼルは、エリーゼの指の血を見て驚き言った。
「え…この程度何でもありません。大丈夫ですので…水で洗えば大丈夫ですから…」
エリーゼは、カイゼルの言葉に慌てて応えた。
「何を言っている。一事が万事だ。いいから!大人しく休んでいろ!さぁ早く!」
カイゼルは、大丈夫だというエリーゼに少し強めの口調で言った。
「……はい。分かりました……。」
エリーゼは、カイゼルの強めの口調に驚きビクっとしながら力なく応えたのだった。
そして、エリーゼはベリー畑の列の先にあった小さな椅子へと向い休んだのだった。
(また…私はエリーゼを怯えさせてしまったのか…エリーゼが怪我をしたと思ったら気が気ではなく思わず強い口調になってしまった…私は本当にダメだな…こんな時は優しく言ってやらなければいけないのにまた怯えさすような言い方をしてしまったな…だが、エリーゼが休めるのならいいのだ…)
カイゼルは、心配が故にエリーゼについ強い口調で言ってエリーゼを怯えさせてしまった事を後悔しながら考えていた。
そして、カイゼルは少し気落ちしたままエリーゼの列のベリーも収穫したのだった。