29.カイゼルの不器用な優しさ
早速、鶏の小屋移動を始めたエリーゼとフェイ。
「さぁ…鶏さん達、小屋のお引越しをしましょうね。」
エリーゼが、鶏に向かって優しく話しかけながら鶏に近づいた。
そして、そっと両手を一羽の鶏へと近づけて優しく捕まえた。
捕らえられた鶏はバタバタと暴れたがエリーゼはどうにか隣の小屋に移したのだった。
「エリーゼさん、お見事ですね。」
エリーゼを見たフェイが、驚きながらも小さく拍手をしながら言った。
「はい。上手く出来て良かったです。」
エリーゼは、照れた様に微笑みながらフェイへと言った。
「私もやってみます。」
フェイは、そう言うと一羽に近づき両手を出して鶏を捕まえた。
「わぁっ!!」
鶏がバタバタと激しい動きをしたのでフェイは、驚いて声をあげたがどうにか隣の小屋へと鶏を移すことができた。
「フェイさん、上手くいきましたね。」
「はい。これならばどうにか出来そうです。」
エリーゼが小さく拍手をしながらフェイに言うと、フェイも笑顔で言った。
そんな二人の姿を見ていたカイゼルは面白くなさそうな表情を浮かべていた。
(フェイときたら…あの様にエリーゼと楽しそうに話をしながら作業をするなど…)
カイゼルは、二人を見てそんな事を思っていた。
「あの…カイさんもお手伝いしてもらってもいいですか?」
そんな事を思っていたカイゼルにエリーゼが、困った表情をしながら声をかけてきた。
(私に話かける時にはやはり…その様な困った様な少し怯えた様な表情をするのだな…)
カイゼルは、エリーゼの表情を見ながら心がチクリと痛むのを感じながら思っていた。
「あぁ…分かっている。」
カイゼルは、そう応えると鶏の方へと向かった。
そして、鶏に向かって両手を差し出して捕まえ様としたが鶏は捕まる事なく逃げ回ったのだ。
「おいっ!何故逃げる!こっちへ大人しく来い!」
カイゼルは、そう言いながら鶏を追いかけ回した。
だが、鶏はカイゼルの思いに反して逃げ回るばかりだった。
「フェイ!そなたも捕まえるのを手伝ってくれ!」
カイゼルは、鶏を追いかけ回しながらフェイへと言った。
「しかし…私もこちらの鶏を移動させてますので。殿…カイさん、どうにかお一人で捕まえて移動させて下さい。」
フェイは、自分も鶏を捕まえ小屋移動をしながらカイゼルへと言った。
(はぁ…まったく…本当に何故私がこんな事をしなければならないのだ…)
カイゼルは、鶏を追いかけながら嫌気がさしながら思っていた。
カイゼルが四苦八苦している時、エリーゼとフェイはコツを掴んだのか順調に鶏の小屋移動を進めていた。
そんな時、カイゼルの追いかけている鶏がエリーゼのスカートの中へと逃げ込んだのだった。
「きゃっ!!」
エリーゼは、自分のスカートの中に鶏が逃げ込んだ事に驚いて声をあげた。
その拍子にエリーゼはバランスを崩してその場に尻もちをついてしまったのだ。
「ん…?あれ…痛くない……?」
エリーゼは、思い切り尻もちをついたのにも関わらずまったくお尻が痛くなく思わず呟いた。
「痛っ……いたたた……」
その時、カイゼルの痛がる声が聞こえたのだった。
エリーゼは、カイゼルの声を聞き驚き自分の後ろを振り向いた。
そこには、エリーゼが尻もちをつく寸前でエリーゼを庇い自分がエリーゼの下敷きになったカイゼルがいたのだった。
「きゃっ!カイさん!!」
エリーゼは、カイゼルが自分の下敷きになり代わりに尻もちをついてるいのを見て声をあげた。
「カイさん!大丈夫ですか?!」
エリーゼは、カイゼルに近づき驚いた表情で尋ねた。
「あっ…あぁ…大丈夫だ。少し尻もちをついた程度だ…この程度は何ともないさ。」
カイゼルは、少し表情を歪ませながらもエリーゼへと言った。
「何故この様な事を…私がカイさんへ思い切り尻もちをついてしまったから余計に痛かったでしょうに…」
エリーゼは、心配と申し訳なさの混じった様な表情でカイゼルへと言った。
「咄嗟に体が動いたのだ…エリーゼに怪我をさせる訳にはいかないと思ったらな…」
カイゼルは、少し俯き気味に言った。
「え……?私の為……にですか?」
エリーゼは、カイゼルの言葉に驚き小さく尋ねた。
「そっ…そなたは女性だからな…それに、俺が追いかけていた鶏がエリーゼのスカートの中に潜り込んだせいだからな…」
カイゼルは、エリーゼに尋ねられてバツが悪そうな表情でどこか慌てた様に応えた。
「あの…ありがとうございました。お陰で怪我をしなくて済みました…ですが…カイさんが汚れてしまった上にお尻を痛めたのではないですか?」
エリーゼは、少し戸惑いながらもカイゼルへとお礼を言った。
そして、申し訳なさそうな表情でカイゼルの事を心配する様に尋ねた。
「君が怪我がなければそれでいい…わた…俺はこのくらい大丈夫だ。洋服はまだ汚れるだろうし後で着替えれば済む。怪我も大丈夫だから気にするな。」
カイゼルは、ボソリと呟くと少しぶっきらぼうに言った。
「はい…その、尻もちをついた所が痛くなったりなどしたらすぐに教えて下さいね…」
エリーゼは、カイゼルへとやはり心配だという表情で言った。
「あぁ…」
カイゼルは、少し俯き気味に応えた。
その時…
逃げていた鶏が、バサバサーっと急に羽を広げ飛んだのだ。
そして、鶏がカイゼルの頭の上へと乗ったのだった。
「おいっ!!何だ?!」
急に頭の上に鶏が乗ってきたのでカイゼルは驚き言った。
突然の事に、それを見たエリーゼとフェイは驚いた表情をしていた。
「どうなっているのだ?!何故俺の頭の上に!!フェイ早く捕まえてくれ!」
カイゼルは、自分の頭上が見えないだけにどういう状況か分からずフェイに助けを求めた。
「はっ…はい!ただいま…」
フェイは、ハッとなり急ぎカイゼルの頭上に乗っている鶏を捕まえ隣の小屋へと移したのだった。
「殿…カイさん、もう鶏は移動させました。」
フェイは、慌ててカイゼルへと言った。
「あぁ…ありがとう。助かった。はぁ…しかし…あの鶏は一体何なのだ…俺の頭上に乗るとは。」
カイゼルは、フェイにお礼を言うとため息をつきながら言った。
「もしかしたら、カイさんの事が気に入ったのではないですか?それで、逃げ回り…しまいには頭上に乗って…」
フェイは、少しクスリと笑いながらカイゼルへと言った。
「冗談じゃない。鶏に気に入られても嬉しくも何ともない!」
カイゼルは、クスリと笑うフェイへと少しムスッとした表情で言った。
「ふふふ…」
そんな、カイゼルとフェイのやり取りを聞いていたエリーゼが思わず声を出して笑みを溢した。
「「え?」」
そんな、エリーゼに驚き二人は同時に声をあげた。
「あっ…ごめんなさい…そのつい…鶏が頭上に乗ってからのお二人のやり取りが面白くて…」
エリーゼは、ハッとなりながら気まずそうに呟いた。
「そんなに面白かったですか?」
フェイがエリーゼへ尋ねた。
「えっ?……。はい。あの様に逃げ回っていた鶏が最後は勝ち誇った様にカイさんの頭上にのるだなんて…フェイさんの言うとおり鶏はカイさんの事を気に入ったのかもしれませんね…ふふ…」
エリーゼは、フェイに尋ねられ応えると二人へと笑った理由を説明した。
そして、また思い出した様にクスリと笑ったのだった。
(エリーゼが…笑っている…私に対してという訳でもないがそれでも、私の前で笑っている…あぁ…やはりエリーゼの笑顔が一番いいな…)
カイゼルは、エリーゼが自分絡みで笑みを溢している姿を見て心がポワっと温かくなるのを感じながらそんな事を思っていた。
「さぁ…アリさん達が戻ってくるまでに残りの鶏も移動させよう!」
カイゼルは、先程よりもトーンの高い声でエリーゼとフェイへと言った。
「あっ…はい。そうですね!」
「はい。そうしましょう。」
カイゼルに言われたエリーゼとフェイは、慌てて応えた。
そして、引き続き三人は残りの鶏を隣の小屋へと移動させたのであった。